チャイコフスキーの夕べ

2006年11月28日

去る14日、近くの女子大学で行われたコンサートに行ってきた。本来は学生の授業の一環として鑑賞されるものなのだが余った席の分だけ関係者が招待されるらしく、その招待券を人からいただいたのだった。招待券には「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団」としか記載がなく、詳しい曲目や演奏家の名前もわからずに出かけていった。

会場についてすぐ掲示されたパンフレットを確認するとソリストの都合のせいかチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲に変更されていた。もちろんこちらも素晴らしい名曲なのでがっかりはしなかった。しかもヴァイオリン独奏はヴァディム・レーピンさん! ほかの曲目はチャイコフスキーの交響曲第5番とリムスキー=コルサコフのオペラ『見えざる町キーテジの伝説』から前奏曲。指揮者はこのオーケストラの首席指揮者、ユーリー・テミルカーノフさん。こちらはある程度予想できたので驚かなかったがやはり豪華なキャストであることにかわりはない。

ぎりぎりの時刻になって会場に到着したので2階の右端のやや見づらい席になってしまったけど、音楽を鑑賞するのに全く問題はなかった。大学の講堂の舞台はフルオーケストラにはいささか狭すぎるようで、メンバー達はかなり窮屈そうに並んでいた。おそらくそのせいでコントラバスが左にくる特殊な配置をしていた。


ニコライ・リムスキー=コルサコフ:「前奏曲」〜『見えざる町キーテジの伝説』より

初めて聴く曲。現在全曲が演奏される機会はほとんどないオペラらしい。この前奏曲は森の情景を描いた音楽だそうで、オーケストラによる風景描写のうまいリムスキー=コルサコフらしく本当に霧の深い森の中を散策しているような気分になる曲である。鳥の声を模したと思われる木管も随所に聴くことができる。テミルカーノフのタクトに合わせてオケのメンバーの体が整然と揺れ動く様は、吹き抜ける風にそよぐ木々の枝を思わせた。


ピョートル・チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35

クラシック界最高のメロディーメーカーであるチャイコフスキーの資質が最高度に結晶した古今の名協奏曲。ヴァディム・レーピンさんは難しそうなパッセージも少しの曖昧さもなく余裕を持って駆け抜けていく。音色のつややかさも緩徐楽章での情緒あふれる歌い回しも申し分ない。オケとも指揮者とも十分に気心が知れているのだろう。不自然に煽り立てられるようなところも苦労して合わせているような様子もなく、互いに打ち解けてアンサンブルを形成できているのが感じられた。


ピョートル・チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.64

チャイコフスキーほどの大作曲家になるとどの作品が最高傑作なのかを決めるのは極めて困難だが、この交響曲第5番はその最有力候補の一つだろう。モスクワ楽派らしい手堅い書法のうちに盛り込まれた叙情的な旋律美は聴く者の心をとらえて離さない。第1楽章序奏の主題が次々と変貌を遂げながら繰り返し現れる様は物語性をもって聞き手に迫る。

ユーリー・テミルカーノフさん指揮のサンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団は流麗でしなやかな音の流れの中にこの曲の魅力を余すところなく描き出す。両者にとってこの作品は完全に手の内にあるのだろう。二つの主題によって紡がれる第1楽章の音のドラマ、第2楽章の甘美な陶酔、第3楽章ワルツの愉悦、フィナーレのめくるめくスペクタクル、それぞれを少しの力みもなく鮮やかに演じてみせた。


あまりにも豪華な演奏家の顔ぶれに酔いしれた一夜だった。レーピンさんは現代最高のヴァイオリニストの一人といっていいだろう。サンクトペテルブルク・フィルについては、レニングラート・フィルと呼ばれムラヴィンスキーが率いていた頃にくらべるとやや輝きは失われている、というのが現在の一般的な評価のようだけど、それでも世界最高のオーケストラの一つであることにかわりはない。テミルカーノフさんはその芸術監督・首席指揮者である。

なぜこの大学が学生の授業のためにこんな大物達を招待することができるのかは不思議でならない。しかし理由はともかく一流の音楽家の演奏を生で鑑賞できた僥倖に感謝したい。

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コメント

私はこれらの作品の中で、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が
気に入っています。今年はホールでいい生演奏にも出会えて、さらに
好きになりました。
こちらがその時のレポです↓↓↓
http://plaza.rakuten.co.jp/everydayclassic/diary/200608280000/

私のブログ開設1周年のご祝福、ありがとうございました♪

-> にゃお10さん

ヴァイオリン協奏曲、にゃお10さんも今年聴きに行かれたのでしたね。長原さんというのは大フィルのコンサートマスターでしたっけ。名の知れたソリストでなくても優れた演奏家がいるものなんですね。

私は途中で場所を移動してしまったので1周年はまだまだですが、お互い楽しみながら続けていきましょう!

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