美奈子さんの「アメイジング・グレイス」

2007年3月 2日

昨日ちょっとした偶然で本田美奈子さんの「AVE MARIA」についてのSchweizer_Musikさんによるレヴュー記事を発見した。最近見つけたある音楽ブログを見ていると、その方が美奈子さんの亡くなった日に追悼のメッセージを捧げておられるのに気がついた。「ああ、この方も早過ぎる死を惜しんで下さっていたんだな」と思いながら何気なくトラックバックをたどっていってみたらこの記事に出会ったのだった。このブログは以前から時折拝見していて、クラシックについての深い造詣に感じ入るとともに、自身音楽の専門家でありながら素人の音楽ファンとも対等な目線で交流しておられることに深く敬服していた。だからこの方が美奈子さんの晩年の活動を高く評価して下さっていたことはうれしい驚きだった。近年ブロガーの数は激増していて、私もつい一年ほど前に始めたばかりなのだが、ブロガーの世間というのが意外に狭いものなのだ、ということを感じさせる出来事でもあった。


クラシックの専門家の方がこれほど詳しいレヴューをされているのはほかに見たことがなく、ご本人のご了承もいただけたのでファンサイトにこの記事を紹介してみた。ファンにとってはこうした評価は実に貴重なもので、喜んでいただけるのではないかと思う。

ただ美奈子ファンの中には「アメイジング・グレイス」についての記述を不審に思う方もあるいはおられるかも知れない。このことについて少し私見を述べておいた方がいいような気がする。


「アメイジング・グレイス」はジョン・ニュートンによる賛美歌でメロディーはアイルランドの民謡から採られたともいわれるが、主にアメリカの黒人達によって歌い継がれてきた名曲である。その意味ではゴスペルや黒人霊歌の一種とも見做すことができる。しかし美奈子さんの歌唱はそうした伝統にはとらわれず、ここでも繊細で情感をこめた自身のスタイルを貫いている。そのためにゴスペル本来の姿からは懸け離れた「アメイジング・グレイス」になってしまっている、というのがSchweizer_Musikさんが“選曲ミス”と指摘された趣旨だと思う。私も現在の美奈子さんとこの曲との結びつき方には少し違和感があるので、こうした指摘をされる理由はよく理解できる。

日本ではこの曲は白鳥英美子さんが好んで愛唱していたり、最近ではTVドラマでヘイリーさんによる歌唱が主題歌に採用されたこともあって、こうした叙情的なスタイルもすんなりと受け入れられているように見える。美奈子さんの逝去後にこの曲が繰り返し報道で流されたために今ではすっかり彼女の代表曲として扱われている感もある。最近出版された「アメイジング・グレイス」の解説書では美奈子さんを「日本で最もアメイジング・グレイスを有名にした歌手」として紹介しているともいう。

美奈子さんの歌唱によってこの曲を知ったという方や、この曲の歌唱によって美奈子さんのファンになったというような方には"選曲ミス"との指摘は心外でもあるかと思う。美奈子さんのファンとしては美奈子さんの歌う「アメイジング・グレイス」こそが最高だ、と感じるのは自然なことだ。私自身美奈子さんの繊細で叙情的な歌唱もこれはこれで素晴らしいと思うし、メロディーが元はアイルランド民謡だったとすればこうした歌い方はこの歌のルーツを解き明かすものでもあるように感じている。ただ、美奈子ファンとしてもこの歌は人類共通の文化遺産であり、特定の歌手の持ち歌のような扱いをするのにはなじまない存在なのだということは十分心得ておくべきだと思う。

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コメント



こんばんは。本田美奈子さんのアメージング・グレースは、
ゴスペル調の歌手の歌い方に比べて、親しみやすくて好きです。
比べてしまうと、細いという印象もありますが、日本語を
混ぜて熱唱しているのを何かで見たときは、本当に感動しました。

私が聞いたことのあるのは、白鳥英美子さん、ヘイリー、
ジュディ・コリンズ、ナナ・ムスクーリ、この辺でかね・・。
ムスクーリの力強さが一番好きな時期もありましたけれど、
時々すごく重く感じることがあります。
コリンズのは、調性が他の歌手よりも低いので牧歌的な感じがします。
ヘイリーのはさわやかです。気分によって聞き分けることが多いかな・・。


昔、何かで読んだのですけれど(明確な根拠が探しきれず、教授に
一蹴されて卒論のネタからはボツすことになったエピソードです^^;)、


スコットランドやアイルランドのケルト人たちは、ローマ人の支配を
受ける何百年も前に遠いアフリカ大陸から移動してきたという説が
あるそうです。もしそうだとしたら、ケルティックな流れを汲む音楽を
白人たちがはぐくみ、アメリカ大陸に強制的に連れて行かれた黒人たちが
憂いを含んだ曲へと進化したのは不思議な出会いだなあと思うのです。

-> みゅりえさん

確かに大抵の日本人には美奈子さんのような歌い方の方が親しみやすいですよね。知ったかぶりをして偉そうなことは書きましたが、私自身最も親しみや安らぎを感じるのは結局美奈子さんであり白鳥さんであったりします。

この歌をゴスペルとして歌い継いできた人たちにはこうした歌唱は(日本語詞をつけていることも含めて)どう受け取られるのかな、という不安もあることはあります。ただ美奈子さんの透き通るような美しい声とこのメロディーの組合せは日本人の音楽的感性にはぴったりで、ライヴ映像の美奈子さんの姿があまりにも可憐なことも相俟って美奈子さんとこの歌は分かち難く結びついてしまいましたね。これはある意味必然的なことであったような気もします。


ケルト族はアフリカからヨーロッパに渡って来たという説があるのですか!? 知りませんでした。今となっては立証不可能な仮説かも知れませんが、物語としては非常におもしろいです。雄大な歴史のロマンを感じさせるエピソードですね。

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