「晴れた空お天気」

2007年4月 6日

作詞:うえのけいこ/作曲:佐橋俊彦/編曲:佐橋俊彦
シングル「風のうた」(1999.11.21)所収。現行のCDではアルバム「I LOVE YOU」MJCD-20054(2006.03.29)に収録されている。

昨年本田美奈子さんの逝去から半年を経た頃に、月命日毎に一曲ずつ感想を捧げることをふと思い立ち続けてきた。やはり悲しみが深かっただけにこれまで語ってきたのはどちらかというと美奈子さんの歌心が目一杯込められた重量級の作品が多かったように思う。今回は少し春らしくもっと気楽に楽しんで聴ける曲を取り上げてみたい。


美奈子さんはミュージカル女優として成功して以降、レコーディングの分野ではアニメソングを積極的に手がけている。そこにはおそらくミュージカルでは高い評価を得たものの、この頃から用いられるようになった“J-POP”という用語で括られる音楽ジャンルの中に自らの立ち位置を見出すことが困難だったという事情もあったものと推察される。

美奈子さんがこれらの楽曲にどのような心情で立ち向かったのかは推測するほかはない。ただ子供好きだったという美奈子さんのことなので、アニメーションを見るであろう子供達のことを意識して歌い方を工夫したのではないかと思われる。美奈子さんのアニメソングには『ミス・サイゴン』に聴かれるような切迫した悲壮感はなく、晴れやかな調子でやさしくのびやかに歌い上げているのが特徴的である。


それが最も顕著に表れた曲がこの「晴れた空お天気」だと思う。この歌はTVアニメ『HUNTER×HUNTER』の挿入歌として使用されたもの。タイトルから受ける印象そのままに、幸せな子供時代の記憶を甦らせるような明るく希望に満ちた歌である。

最初に聴いた時は8分の6拍子が印象的で、どことなくイングランド民謡のような趣きを感じる歌だと思った。ナースリー・ライムに「Jack and Jill」という私のとても好きな歌があるのだが、それにリズムと曲調が少し似ているのだ。「Jack and Jill」とは幼い兄妹が丘の上に水を汲みに行くという、『はじめてのおつかい』を思わせるような情景を歌った実に愛らしい曲である(なお水を汲むのに丘の上に行くというのは不自然なことなので、北欧神話に起源を求めるなどさまざまな解釈があるらしい)。

ただよく聴いてみると8分の6と4分の3が交錯するようなかなり複雑な拍子をとっているのに気づかされる。冒頭の一行を例にとってみると、楽譜などを持っていないので正確なことはわからないが、耳で聴いて判断する限りでは「うまれたての|くもに|おしえた|い」という区切りで6/8→3/4→6/8→3/4と推移しているようだ。

「勇気ひとつあれば」の部分には半音階的な動きも見られ、子供向けと思わせておいて実はなかなかの難曲であることがわかる。プロの歌手としてはこれくらいは当り前なのだろうけど、少なくとも私にはこんな歌を正確に歌いこなすことはできない。聴きながらうかつに体でリズムをとろうとすれば椅子から転げ落ちてしまいそうだ。


こうした歌を聴きながら思うのは、もしできることなら童謡や子守唄を集めたアルバムを作って欲しかったな、ということ。きっと美奈子さんのやさしい歌声が心を癒す素敵な曲集になったことと思う。そこではアニメソングを歌った経験も生かされたはずである。

ら・ら・ば・い〜優しく抱かせて」というやはりアニメで用いられた歌があるが、これはタイトルとは裏腹にあまり子守唄風の曲調ではない。残された音源の中から子守唄と見做し得るものを探すとすれば、これもアニメソングだが「étoile -星-」と、ミュージカル『十二夜』の中の「ララバイ」ということになるだろうか。いずれも寝る前に聴けば素晴らしい夢見を約束してくれるような、やさしさに溢れた素敵な曲である。

これらの楽曲からは、自身子供を持つことはなかったものの子供が好きだった美奈子さんの母性のような愛情が感じられる。聴いていると美奈子さんのやさしさに甘えてみたくなるような、そんな気持ちにさせられる。

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