「クラシカル・ベスト〜天に響く歌〜」

2007年4月26日

本田美奈子さんのデビュー22周年に当たる今月20日、コロムビアから美奈子さんのソプラノ・ヴォイスによる作品を集めたベスト盤「クラシカル・ベスト〜天に響く歌〜」が発売された。副題の「天に響く歌」とは美奈子さんが2005年の年賀状に書き添えていた“天響歌”という言葉から採られている。この言葉は事務所のBOSSさんによる発案だったと聞いている。

カヴァー写真は正式なコンサートとしては最後の出演になった新宿文化センターでのコンサートの時のもので、撮影は最晩年の美奈子さんを担当していた原田京子さんである。ACのポスターにも使用されているのでご覧になった方も多いと思う。ただポスターの写真と比べるとなぜか角度が微妙に前のめりになっている。理由はよくわからないのだけど、あるいはタイトル文字のレイアウトの都合によるのだろうか。

CDにはコロムビアに在籍した3年間に残した音源から14曲が収録されている。このうち美奈子さん自作の詞による「ゴッドファーザー愛のテーマ」は未発表の音源である。これはアルバム「」の録音の際にはこの日本語詞に許諾が下りず、やむなくヴォカリーズで収録した後記念にこの詞で録音していたものである。今回のベスト盤の発売に際し許諾が得られ、収録の運びとなった。

未発表の音源はこれ一曲なのですでにソプラノアルバムを揃えている人にはあまり新鮮味のないCDだが、注目されるのは付属のDVDである。これにはカッチーニの「AVE MARIA」のプロモーション・ビデオ、N響と共演した「新世界」、阿蘇ファームランドでの野外コンサートで歌った「つばさ」の3編の映像が収録されている。


「新世界」は2004年8月29日に行われた『N響ほっとコンサート』に出演した時のもので、BS2及び教育TVの『N響アワー』で放送された。私は当時この『N響アワー』で放送されたものを見ていた。何も知らずに見ていたその前の週の放送の最後に池辺晋一郎さんが「来週は歌手の本田美奈子さんが…」と話し始めたのでびっくりしたのをよく覚えている。

楽しみに見た翌週の放送、美奈子さんが歌っている姿を映像で見るのはそれこそ十数年ぶりだったけど、以前と変わらず、というより以前よりもさらに美しくなっている美奈子さんにすっかり見惚れてしまった。フル・オーケストラに交じって少しも違和感のない、つややかで伸びやかな歌声を聴きながら、「美奈子さん歌一筋に生きてきて、ついにこんなところにまでたどり着いたんだな」という感慨に浸っていた。

このコンサートは美奈子さんにとって一つの勲章だったといっていいと思う。国内最高のオーケストラの一つであるNHK交響楽団との共演は素晴らしい栄誉である。そして“へそ出しルック”の過激さゆえに『紅白歌合戦』への出場を逃したともいわれる美奈子さんが『N響アワー』というお堅い番組に出演したというのも驚嘆すべきことだった。紅白への出場もオリコンチャート1位の獲得も叶わなかった美奈子さんだけど、ポップス出身の歌手で『N響アワー』への出演を果たしたというのはおそらく前人未到の快挙だろう。

この時はこれはまだ美奈子さんにとって単なる通過点であって、これからさらなる高みへと翔け上がっていくのだろうと思っていた。まさか一年ほど後に天まで翔け上がっていくことになるとは夢にも思っていなかった。そのキャリアの最初と最後に少しだけキセル乗車のような不実なファンをやっていた私にとって、数少ないリアルタイムでの美奈子さんの思い出である。


「つばさ」は服部克久氏主催のジョイントコンサートに出演した際のもので、これまで朝霞や渋谷などで開催されたフィルムコンサートではクライマックスに用いられていた。これを見るにあたっては渋谷でのフィルムコンサートを見た時の感想で間違ったことを書いてしまっていなかったか、ということが気になっていた。でもあらためて見てほぼあの時書いた通りだったのでほっとした。やはり美しいファルセットを交えた自在な歌い回しは絶品の一言。スタジオ録音のものよりもやや遅めのテンポをとっているのだけど、あの時の感想にそれについての言及がないのは夢中になっていて気がつかなかったのか気づいていながら書きもらしたのかわからない。

唯一記憶と違っていたのは天気のこと。フィルムコンサートで見た時は雲一つない青空だったような気がしたのだけど、あらためて見てみると意外に雲が多かったのに驚いた。薄暗い会場の中で野外の映像が映し出されると眩しくて果てしなく青空が広がっているように見えたのかも知れない。いずれにしても風を感じながら歌う美奈子さんはとても気持ちよさそうだ。なお収録は1996年とのこと。


こうして美奈子さんの音源や映像がリリースされるのは実にありがたいことだ。ただ正直にいうと未発表の音源・映像が小出しにされるのはファンとしてはなかなかつらいところでもある。特にN響と共演した際にもう一曲歌った「シシリエンヌ」は間違いなくここに収録することが可能だったはずだ。いずれこれが同工異曲の“ベストアルバム”と抱き合わせで入手させられることになるのは目に見えている。

ただ美奈子さんがこんな風に突然いなくなってしまったという事態はファンのみならずレコード会社にとってもつらいことなのだろう。今はとにかく美奈子さんの遺産を最大限に活用しようという姿勢でいてくれることを歓迎するよりほかはないのかも知れない。

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コメント

こんばんわ、ヒロです。
私も、アルバム購入しました。(クラシカル・ベスト+エンジェルボイス)
収録内容、確かに美奈子さんのファンであれば、既に入手済みのモノが占めていましたね・・。
でもきっと、多くの人が、このアルバムに触れて改めて一人の歌姫を知る
切っ掛けになれば・・と、私は思っています。
早いもので朝霞で行われた追悼展から一年が経とうとしています・・。
人それぞれ生き方は多様で、ファンの皆さんも日々の生活に追われる事も多々あると思います。そうした中で、改めてこのアルバムを聴くことによって、今一度、自分の心に歌姫の想いを巡らすには丁度いいタイミングではなかったのではないでしょうか。
来年は美奈子さんの3回忌にあたる年です。きっと、サプライズがあると信じようではありませんか・・。


話、変わりますが・・・
今度の日曜日の「題名のない音楽会21」に「古武道」というユニットが出演します。この中のメンバーで(尺八)藤原道山氏と(チェロ)古川展生氏は追悼シングル「Wish」〜レクイエムの参加メンバーで、コロムビアの岡野さん、井上艦さんがプロデュースしています。(尺八)藤原道山氏は美奈子さんの「アメ・グレ」でも参加していて、今回の「クラシカル・ベスト」の岡野さんのライナーノーツにも、美奈子さんがその尺八の間奏に感激していた旨が書かれていました。
当日は高嶋ちさ子さんも出演されますので、ある意味「Wish-レクイエム・メンバー」再集結ですね・・。お時間あればご覧ください。
では・・・。

-> ヒロさん

遺された音源がそれほど多くはないことが見込まれる中でもこうしてデビュー記念日に合わせてアルバムをリリースしてくれるのは実際ありがたいことですよね。"小出し"にされることへの不満もありますが、ファンにとっては折角の音源や映像が死蔵されてしまうのが何よりつらいことなので、少しずつでもリリースされていくのは歓迎したいです。

アルバムや伝記のことは各メディアでも大きく取り上げてくれていましたし、多くの方に美奈子さんのことを思い出していただけたという意味でもとてもよかったと思います。この「クラシカル・ベスト」に関していえば、美奈子さんのソプラノアルバムがどれか一つ欲しいと思いつつ何を買おうか迷って入手しそびれていた、というような方には絶好のお薦めといえそうですね。


「古武道」は岡野さんのデジカメ日記でもふれられていましたね。来月アルバムがリリースされるようです。『題名…』に高嶋さんと揃って出演されるのですね。"Wish-レクイエム・メンバー"(というか"岡野ファミリー"とでも言った方がいいのでしょうか)そろい踏みは壮観ですね。情報ありがとうございました。

素晴らしいCDが発売されたんですね。今回の収録曲:ゴットファーザーは感慨深い事と思います。たしかに未発表曲の小出しは・・・販売戦略ミエミエ?ですねー。でも!とっても嬉しい事でもありますよね! 

本田さんって、N響などと共演されてたんですね。知りませんでした。映像なども沢山、リリースして欲しい所ですね。その時は私も拝見させて頂きたいです^^

-> ももこさん

そう、N響のコンサートに招かれていたんです。将来的にはカーネギーホールでコンサートを行うことを目標にしていたそうで、もう少し長く生きることができればきっと実現していただろうに、と思うと切なくなります。

スタジオ録音の音源はもうそれほど残っているとは思えないので、後はミュージカルやコンサート、TV出演などのライヴ映像に期待したいところです。まあ"小出し"は正直つらいですけど、レコード会社としては採算に合うようにしながら美奈子さんの遺産を活用しようとすればこうならざるを得ないのかな、という気もします。とにかく美奈子さんの歩んだ道のりが広く知られることになるよう、精一杯努力していただきたいですね。

フィギュアスケートの熱い?シーズン、選手たちにいっぱい元気をいただきましたが、それが終わり、美奈子さんのクラシカルベスト発売。
私のように特別ファンというわけではなかったけれど、聞いてみたかった、できれば1枚で手に入れたいと思っていた者にとって、ありがたいアルバムです。フィギュアスケートで馴染みの曲も多いですね。
希望とか勇気とか、言葉にしちゃうと野暮たいんですけれど、静かなパワーをあたえてくれる、そんな歌声ですね。気に入りました。

-> やまぼうしさん

おお、このアルバム聴いておられるのですね! 美奈子さんの歌を聴いて下さる方が増えてうれしいです。ここで散々熱く語ってきた甲斐がありました。^ ^

この「クラシカル・ベスト」、従来からのファンにはどうしても「シシリエンヌ」のことが気になってしまうのですが、これから美奈子さんについて知ろうとする方には好適な企画だと思います。希望を感じさせる明るく力強い曲を中心に選曲されているので、美奈子さんからパワーをもらったような気になるのではないかと思います。美奈子さんの歌心、堪能して下さいね。

美奈子さんの歌声、晴れた日のつづいた連休、くりかえし聴いてました。おくればせながら、ファンになろうかなぁ、と。もったいつけた言い方ですが、くりかえし聴いてるうちに、味わいがでてくるので。
さわやかだけど、語っているようなところもあっていい。ミュージカルで「生きてきた」味がでているんでしょうか。

-> やまぼうしさん

美奈子さんの歌は語りかけるようなやさしさがあって、聴くほどに味わいが増してきますよね。ミュージカルの舞台で「生きる」ことに心血を注いだ経験はドラマを離れた純粋な歌での活躍にも生かされていたのだと思います。あの歌の世界の本質に肉迫した魂のこもった歌唱はその結実だったのではないかと思っています。

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sergei
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