追悼 元横綱琴櫻

2007年8月16日

元横綱琴櫻で先代佐渡ヶ嶽親方の鎌谷紀雄さんが14日亡くなった。名古屋場所後の琴光喜の大関昇進の伝達式にはパジャマ姿のようなリラックスした格好で臨まれていたのであまり健康状態が思わしくないのかな、と案じていたが、まさかこんなに早く亡くなるとは思っておらずとても驚いた。

私は残念ながら琴櫻の現役時代は知らなくて、専ら佐渡ヶ嶽部屋の個性豊かな力士たちを育てた親方として親しんできた。そういうわけですでに協会を退職されていたけれども以下“親方”とお呼びすることにする。


先代の佐渡ヶ嶽親方というと厳しい指導で知られていたが、私は厳しいばかりでなくとても柔軟な思考のできる指導者という印象を持っている。決して自分の若い時のやり方をそのまま弟子たちに強引に押しつけるような人ではなかった。だから話す言葉のはしばしにとても含蓄があり、親方がTVの放送の解説をしている時は注意して傾聴していたものだった。「自分らが育った頃のやり方では今の若い子はついて来ない。だからいつも弟子たちには『自分が幸せになるために稽古をするんだよ』と言い聞かせている」といったことも語っておられた。

そうした柔軟さこそが琴風(現尾車親方)、琴ヶ梅(現粂川親方)、琴錦(現浅香山親方)、琴ノ若(現佐渡ヶ嶽親方)、琴富士琴欧洲琴光喜など個性豊かな弟子たちを育てた秘訣だったのだと思う。特に従来の相撲界の常識では考えられなかったようなスピードで旋風を巻き起こした琴錦と、長い相撲が多く水入りの相撲も度々とった琴ノ若が同じ時代に部屋頭の座を争っていたというのは象徴的である。


以前親方の講演会の招待券をもらって聞きに行ったこともある。細かい内容は忘れてしまったのだけど、子供の頃鳥取の田舎で木によじ登って雀の巣から卵を盗み出したりして遊んだ思い出を懐かしそうに話しておられたのを覚えている。そうした野趣溢れる遊びをしながら育った親方には今の子供たちがひ弱に見えるようだった。


私にとって最も印象に残っている親方の思い出というと、琴錦の二度目の平幕優勝が決まった時、土俵下の審判長席に座っていた親方が人目も憚らず涙をこぼして喜んでおられたことだった。審判の立場としては私情を見せるべきではなかったのだろうが、場所前には引退の覚悟さえ聞かされていた愛弟子の快挙にこらえることができなかったのだろう。まさに“鬼の目にも涙”というべき瞬間だった。


最も大きな期待を寄せていた琴光喜の大関昇進に安堵したかのような急逝だった。横綱を育てたいと語っておられたが、残念ながら愛弟子が横綱になる瞬間を見届けることはできなかった。しかし琴光喜でも琴欧洲でも、遺された弟子たちでぜひその夢を叶えて欲しい。


親方のご冥福を心からお祈り申し上げたい。

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コメント

相撲界に激震ですね。
つい先日、琴光喜の大関昇進の際にニュースで先代の佐渡ヶ嶽親方の映像を拝見したばかりなのに・・・とても悲しいですね。

現役時代を知らない私にとっては親方時代の印象がとても強いです。
弟子に対しては愛情があり、厳しい親方の印象が残っています。
琴光喜、琴欧州には横綱を目指して欲しいです。


朝青龍の問題を心を痛めていた様ですね。
先代の佐渡ヶ嶽親方のご冥福をお祈りを申し上げます。

突然の訃報に少し寂しさを覚えます。

TVの解説を聞いていても、懐が深くて良い親方だなという印象を持っていました。
育てられた力士を見ると、いずれも、晩成型や遅咲きだったり長持ちしたり、引退しそうだったのを跳ね返すように平幕優勝したりと、力士生活の中身の濃い人が多く、親方の、幸せになるために稽古をするんだよという言葉が、この部屋と親方の人柄を象徴してますね。

琴ノ若が勝つたびにカメラが、審判長の親方のほころぶ顔を映していたのを思い出します(笑)。

ご冥福をお祈りします。朝青龍に親方の訃報を知らせてないとニュースにありましたけど、高砂親方含め周辺は何やってるんですかね。朝青龍にとって、この訃報は重要なはずなのに。

かなり以前、朝青龍が佐渡ヶ嶽部屋へ行って出稽古した様子をテレビで見ました。琴欧州に「横綱がせっかく来たのだからもっとぶつからんか!」と叱咤し、そして横綱に大変感謝していたのが印象的でした。
高砂親方は引きずってでも朝青龍を弔問につれていくべきです。相撲が好きな者がそれを見ると何か感じるはず。昔、横綱柏戸の引退相撲に休場中の大鵬が登場し柏戸の髷に鋏を入れました。この事に誰も非難する事はなく逆に美談でした。情けないですがまだまだワイドショウーに目が離せません。

-> moonさん

本当につい先月伝達式での姿を拝見していただけに驚きましたね。厳しさと愛情で多くの弟子たちを育てた親方でした。琴光喜、琴欧洲にはぜひ親方の教えを胸に精進し、綱取りに挑んで欲しいです。


-> ysheartさん

仰る通り佐渡ヶ嶽部屋の力士には生き方が取り口に表れている人が多いんですよね。それだけに肩入れして応援してきました。それも親方の人柄ゆえなんでしょうね。婿殿の成績は取り分け気になっていたのでしょう。^ ^

朝青龍には知らせていないのですか。あの師弟のこのところの迷走ぶりは目に余るものがありますが、こんな時こそ相撲界を厳しい目で見守っていただきたかったですね。


-> オペラファンさん

朝青龍については記者会見だとかいろいろ言われていますが、複数の医師から「急性ストレス障害」との診断が出ている状態ですので今は無理せず療養に専念させるしかないのではないかと思っています。ただことここに至るまでに高砂親方がもっと毅然とした態度で接していればこんなことにはならずに済んだでしょうね。

佐渡ヶ嶽部屋ならあり得なかった事態だと思います。こうした騒動と引き比べるにつけ、相撲の心を体現していた貴重な人を喪ってしまったんだな、という思いを深くしますね。

sergeiさま 初めまして
ぶろぐ村からやって参りました。

元横綱、琴桜 私が大関時代から、その相撲を見ていました。二場所優勝で、念願の横綱になられたときは、本当にうれしかったですよ。
万年大関と言われていたのですが、ワンチャンスをものにして、横綱に。横綱時代は短かったと思いますが、あのがぶり寄り、ものすごい勢いでしたね、本当に強かったですよ。
私、本日になるまで、元佐渡ヶ嶽親方が亡くなっておられたこと、知りませんでした。まだまだ若いと思っておりましたのに。
確かに、琴光喜の大関昇進の席で、椅子に座っておられたので、不思議だなって思っていたんですが、あれからすぐに亡くなられるとは;;残念です。

ご冥福をお祈りするばかりです。

-> rudolf2006さん

はじめまして。コメントありがとうございます♪

クラシックのカテゴリーに登録しているくせにクラシックのことは滅多に書かないブログですがよろしくお願いします。^ ^


今日で亡くなって一週間で、昼間に葬儀が営まれましたね。角界関係者をはじめ多くの方が駆けつけたようです。協会を退職される少し前くらいにも病気で入院されたことがあって健康状態を案じていたのですが、こんなに早く亡くなるとは本当に残念です。

現役時代をご存知とは羨ましいです。若い頃に大きな怪我をして一度幕下まで落ちたり、史上最高齢での横綱昇進を果たしたりとドラマティックな相撲人生を歩んだ方のようですね。そうしたことが弟子たちの指導にも生かされていて、佐渡ヶ嶽部屋には思わず肩入れして応援したくなる力士が多かったですよね。今はただ、残された弟子たちが先代親方の教えを胸に精進し、その中から琴櫻の名を受け継ぐ力士が現れて欲しいと願うばかりです。

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