「わがままジュリエット」
2007年9月20日
今月5日に発売されたBOØWYの二枚のベストアルバム「THIS BOØWY DRASTIC」と「THIS BOØWY DRAMATIC」に関連してlivedoorニュースに記事が掲載されていた。このサイトでも少し前に布袋寅泰さんのことを扱ったところでもあり、この機会にBOØWYについて書いてみようかと思う。
BOØWY(“ボウイ”と読む)は80年代に活躍し、当時最も人気のあるロックバンドの一つだった。実を言うと私が生まれて初めて買ったCDは解散後に発売されたBOØWYのシングル集「“SINGLES”」だった。その頃はそれほど音楽に関心がなかった私でも彼らの音楽には惹かれるものを感じていた。当時は尾崎豊よりもむしろ上の記事にも挙げられている「Marionette」などに共感して聴いていたものだった。
尾崎が心の奧からの叫びをそのまま聴衆に投げつけるようにむき出しの情感を歌ったのに対し、BOØWYは同じく社会に対して反抗的ではあってももっと耳になじみやすい洗練された感覚を持っていた。それが幅広い聴衆に支持されていた理由だと思う。もちろん尾崎の歌にはBOØWYにはない深みがあるが、ロックバンドとしてのカッコよさではBOØWYは他の追随を許さない存在だった。あれから20年を経た今も彼らを超えるバンドは現れていないように思う。
ここでは彼らにしてはめずらしいバラードの名曲「わがままジュリエット」を取り上げてみたい。ギターによる短い序奏によりけだるく物憂い調子のこの曲は幕を開ける。歌詞は断片的な印象を綴り合わせたような感じで具象的な情景や物語を描いたものではないが、独特の言葉遣いの向こうに繊細で傷つきやすい可憐な女性の姿が思い浮かんでくる。
氷室京介さんのヴォーカルはこの女性に心惹かれながらも愛し方がわからずに戸惑うかのような男の悲しみをあますところなく描き出している。彼の甘い歌声はこうしたバラードにも、というよりむしろこうした曲にこそよく似合うと思う。「邪魔になれば」の‘ば’や「から回りで」の‘で’の箇所では普通日本語では用いることのない怪しげな母音で歌ってみせて聴き手の耳を驚かせる。彼の歌い回しにはいつもこうしたいたずら心が顔を覗かせるのが特徴である。「何一つ残ってないけど」の箇所でのファルセットもその表れだが、この部分には思わずゾクッとするような色気や哀愁が感じられる。80年代の男性ロック・ヴォーカリストによる印象的なファルセットとして、尾崎豊の「I LOVE YOU」における「悲しい歌に」の箇所と並ぶ双璧と言っていいだろう。
そしてこの曲のけだるく甘美な感傷は間奏のギター・ソロにおいて最高潮に達する。私はこの部分こそがこの曲の最大の聴き所だと思っている。布袋寅泰さんのギターはこの曲に横溢するメランコリックな情感を咽び泣くような調子で訴えかける。この印象的な美しいメロディーを聴くといつも胸が締めつけられるような思いがする。ロックにはあまり詳しくない私にとって、最も思い入れのあるロック・ギターのソロ・パッセージである。
BOØWYは上記の「Marionette」を含む「PSYCHOPATH」を最後のアルバムとして1987年12月に解散した。布袋寅泰さんはソロでアルバム「GUITARHYTHM」を発表しエディ・コクランの「C'mon everybody」をカヴァーするなど新境地を切り開いた。ただ私はその後の「POISON」などのヒット曲や今井美樹さんのプロデュースにどうも納得がいかなかった。私は今井美樹さんに関しては「瞳がほほえむから」や「PEICE OF MY WISH」など上田知華さんとコラボレートした曲がとても好きなのだけど、彼がプロデュースを手がけるようになってから音楽性が陳腐な方向に傾いてしまったような気がしてならない。
BOØWYの楽曲をあらためて聴くと、「つまらないことで騒動ばかり起こしてないで、またこの頃の志を思い出して欲しい」という思いを禁じ得ない。それともあのBOØWY時代の栄光は、布袋と氷室という二人の才能が出会った幸福な瞬間にだけ生じ得た、再現不可能なきらめきだったのだろうか。
なおAmazonのレヴューを見る限り冒頭で言及した2タイトルはファンの間で非常に評判が悪いらしい。何か一枚聴いてみたいという方は以下に紹介するベスト盤の方がいいかも知れない。
コメント
こんにちは(^^)/
ボウイのころ持っていた、美学というか、音楽に対するひたむきな美意識が、音楽に託す理想と、実生活とのギャップの中で、衰えてしまっているのでしょうか。
今井美樹の『PIECE OF MY WISH』は大好きですが、『MISS YOU』などは嫌いです。布袋とのコラボ作品には僕も否定的です。
BOOWYは詳しくありませんが、JUSTYが好きでした。
いわゆる、1990年代流行したビジュアルバンドの礎のような存在ですね。
X-JAPAN,LUNASEA,GRAY等に影響を与えたと言われています。
氷室さんと布袋さんは対極に位置していたのだと思います。
-> ysheartさん
解散した時にはこれからも違った立場で素晴らしい音楽を聴かせてくれるのだろう、と当然のように思い込んでいました。ふと気がつくと十分納得のいくものに出会うことのないまま今まで過ぎてきてしまったな、という気がします。まあ単に自分の目配りが足りていないだけ、ということもあるでしょうし、BOØWYから受けた印象が鮮烈な分それと比較してしまうからなのかも知れませんけどね。
今井美樹さんに関しては私は「Miss You」や「PRIDE」の頃はまだ好意的に受け止めていたのですが、その後段々と上田知華さんと築いた世界から遠のいてきてしまっているような気がするんですよね。まあ本人はとても幸せそうなのでそれでいいのかな、とも思いますけど。
-> moonさん
日本のポピュラー音楽に大きな足跡を残し、後続のバンドにも大きな影響を与えたバンドでしたね。追随者は多いですが、彼らを超える存在は未だ出ていないような気がします。久しぶりに聴き込んでいて思わず胸が熱くなりました。
ネロリ君のブログ見たあと、ああ・・・ボウイ聴きたい。。。と言う思いに駆られ、ここ4,5日家の中、車の中でガンガンボリュウムあげて「BEAT EMOTION」「PSYCHOPATH」を聴いております。
「わがままジュリエット」懐かしいね。
私も「邪魔になれば」の語尾など、当時ネロリくんと同じ気持ちになったものでした^^ちょっと、マッタリとした感じで歌われるんですよね。それが、しつこく聞こえるのではなくいい感じで、凄く歌が上手なんですよね。
私が、ボウイで特に好きな曲は、「ビー・ブルー」「MARIONETTE」それと、「RENDEZ-VOUS」かな^^「RENDEZ-VOUS」は、シャフルな曲でギターがメチャメチャカッコイイし、全体が男の低音の魅力って感じ。気づくと一番よく聴いてる。
-> ハイジ
BOØWY、懐かしいですよね。上に紹介したlivedoorニュースの記事を読んでふと聴いてみたらそのまましばらくはまってしまいました。^ ^ 私はむしろその後に聴くようになったPrincess Princessが自分の音楽遍歴の原点だという思いが強かったのですが、あらためて聴いてみるとやはりBOØWYの音楽は自分の心に強く印象づけられていたんだな、ということがわかりました。
氷室さんの歌い方はどこかふざけているようでいて、それでも歌の心がしっかりと伝わってくるんですよね。あの当時は何もわからずにただ夢中になって聴いていただけでしたが、あらためて上手な歌手なんだな、と思いました。
私が好きなのはやはりこの「わがままジュリエット」と「Marionette」ですね。またこんなカッコいい音楽を聴かせてくれるバンドが現れるといいのですけどね。
BOOWY・・・私はCLOUDY HEARTが大好きでした。布袋さんのギターで始まるこの曲・・・歌詞も大好きだったな〜♪高校生の時、学祭ではかならずこのバンドのコピーバンドが出てませんでしたか?あぁ懐かしい。復活して頂きたいバンドの一つですが、それぞれ個性が強すぎて、あり得ないかな〜やっぱり。
-> がちゃ子さん
「CLOUDY HEART」いい曲ですよね。別れの切なさを歌った曲なのですが、歌詞がしりとりみたいになっていて、いい意味で遊び心が利いている彼ららしい曲だな、と思います。
あの頃バンドをやっていた人たちはみんなコピーしていたんじゃないでしょうか。普段何気なく接しているクラスメイトがステージでBOØWYの曲を演奏しているとやたらとカッコよく見えたりして…。当時あまり音楽に関心のなかった私がBOØWYを好きになったのもそういう影響が大きかったと思います。
再結成…、どうなんでしょうね。して欲しいけど何か無理そうな気がします。例の傷害事件のことを聞いて氷室さんも引いてしまっているかも知れませんし。^ ^