ベートーヴェン「不滅の恋人」
2008年1月21日
昨日の『N響アワー』はゲストにベートーヴェン研究家の青木やよひさんを迎えてのベートーヴェンの特集だった。ベートーヴェンには死後に発見されたラヴレターがあり、そこで彼が「不滅の恋人」と呼んでいるのが誰なのかが長い間謎となっていた。青木さんは現在最も有力な説となっている「アントーニア・ブレンターノ説」を世界に先駆けて最初に提出した人である。
青木さんの著作は私も以前読んだのだが、その論旨はとても説得的で興味深いものだった。このアントーニア・ブレンターノという女性は手紙についての詳細な研究から明らかにされた条件を理想的に満たしているばかりでなく、洗練された教養と豊かな感性の持ち主でベートーヴェンの恋人として実に相応しい人でもあったようだ。しかし彼女は人妻であったためにそれまでの研究では注目を集めることなく見過ごされてきたらしい。こうした多くの人がとらわれてきた盲点をつく青木さんの洞察力には深い感銘を受けた。これ以上はとてもここでは説明できないので詳しくは直接彼女の著作を参照して欲しい。
このベートーヴェンの恋が作品に影響を与えている例として紹介されたのが交響曲第8番だった。この曲はベートーヴェンのアントーニアへの想いが燃え盛っていた時期の作品で、彼女とボヘミアの温泉地で夏を過ごした想い出など、当時の彼の幸福感が盛り込まれているようだ。特に第3楽章のトリオに現れるホルンの旋律はこの地方の郵便馬車の発着の合図に用いられるポストホルンを模したものらしい。
番組では紹介されなかったが、青木さんはベートーヴェンの最後の三つのピアノソナタもアントーニアと関わりの深い作品だと推理している。こうした事情に思いを馳せながら聴くと作品をより身近に感じられる気がする。
なお青木さんはベートーヴェン研究家のほかにもう一つ、フェミニズムの論客という肩書きも持っている。実を言うと私はそちらの方面での活動にも関心を持っているのだけど、これはこのサイトの趣旨を超えた話題になるので深入りするのはやめておきたい。
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