「étoile -星-」

2008年2月 6日

作詞:柚木美祐 作曲・編曲:奧慶一
シングル「ナージャ!!」(2003.02.21)所収。現行のCDではアルバム「I LOVE YOU」MJCD-20054(2006.03.29)に収録されている。

これまで度々ふれてきたように、マーキュリー・レコードを離れてからコロムビアミュージックエンタテインメントと契約するまでの間はレコーディング・アーティストとしての本田美奈子さんにとって不遇の時代だった。その期間に発表された音源はわずかアルバム一枚分にしかならない。しかもそのほとんどはアニメやゲームのテーマ曲、挿入曲で、日本を代表する実力派歌手である美奈子さんがこんな形でしか楽曲を発表できなかったというのは残念なことである。

デビュー15周年記念マキシシングル「Honey」の発売直後のインタビューを読んだことがあるのだが、そこで美奈子さんはサラ・ブライトマンさんへのあこがれを語りつつアルバム制作への意欲を語っていた。しかしインタビュアーから制作中かと問われると準備中という苦しい答えをしている。おそらくこの時期にはアルバム制作の目途など全く立っていなかったはずで、その時の美奈子さんの心中を思うと何ともやりきれない思いにさせられる。


その時期の録音は全て没後に発売されたアルバム「I LOVE YOU」に収録されている。その収録曲の中でも一際魅力的なものの一つが「étoile -星-」である。この歌はアニメ『明日のナージャ』の挿入曲で、オープニング・テーマの「ナージャ!!」とともにシングル「ナージャ!!」(2003年2月21日発売)に収録された。このシングルが発売されたのはすでに岡野博行さんのプロデュースによるクラシック・アルバムの制作が進められていた時期で、もしかするとシングルの制作もコロムビアの企画が持ち上がった後のことだったのかも知れない。そうだとすれば美奈子さんとしては自分の居場所を確保できて安堵にも似た思いでこれらの楽曲に取り組むことができていたのではないだろうか。

この「étoile -星-」はゆったりとした三拍子のリズムが耳に心地よい子守唄である。素人でも比較的容易に歌うことができそうな曲で、美奈子さんならではの超絶技巧は聴かれないが、こうした平易な曲で聴く美奈子さんの歌声もまた格別である。曲中のハミングがまた温もりに溢れていて、聴いていると美奈子さんのやさしさに甘えながら安らかな眠りに身を委ねることができる。


これまでも度々言及してきたように美奈子さんは子供好きであることが知られているが、『女性自身』2007年4月17日号では美奈子さんは姪御さんや甥御さんに“ママ”と呼ばせていたという事実が報じられた。肉親であるにしても人の子供にママと呼ばせるというのは普通は思いつかない発想で、美奈子さんならではのユニークなかわいがり方と言えそうだ。きっと“おばさん”とは意地でも呼ばせなかったんだろうな、と思うといじらしく、今はそんなところさえ愛おしく感じられる。この幸せな子供たちは本当のお母さん(つまり美奈子さんの妹さん)のことは何と呼んでいたのだろうか。

美奈子さんのレパートリーにはこの歌のほかに子守唄と見なし得る楽曲として「ベラ・ノッテ」と「ララバイ」(ミュージカル『十二夜』のナンバー)がある。(「ら・ら・ば・い〜優しく抱かせて」はタイトルとは裏腹に子守唄と呼べるような曲調ではない。)これらの曲を聴くにつけ思うのは、美奈子さんに子守唄を集めたアルバムを作って欲しかったということだ。それは美奈子さんに相応しい仕事であり、きっと絶品のアルバムになったに相違ないのだ。もう少し長く生きてさえいればそんな企画も浮上してきたはずなのだが…。


暦の上では春になったとはいえまだ寒さの厳しいこの季節。星が冴え冴えと光る静かな夜にはこんな歌を聴きながら眠りに就きたいものである。

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