幸田浩子さん ソプラノ・リサイタル BS-hiで放送

2008年6月16日

今年の4月18日に紀尾井ホールで開催された幸田浩子さんのリサイタルの模様が先月の27日及び今月の3日にNHKのBS-hiで放送された。私は3日に放送された分を録画して見たのだけど、これが実に期待に違わぬ素晴らしいものだった。


リサイタルの前半はモーツァルト作品による構成だった。モテット「エクスルターテ・ユビラーテ」やオペラ・アリア、コンサート・アリアなど、いずれも彼女にとってはお得意のレパートリーなのだろう。コロラトゥーラ風の装飾的なパッセージでも決して技巧のショーケースにはならず、歌に表情があるのが素晴らしいところだと思う。素人には信じ難いほどの大きな跳躍のあるところでも楽しそうに軽々と乗り越えていく。歌声に劣らずそのお姿も美しい幸田さんに「私の胸にさわってご覧なさい」とか「あなたの愛を受け入れます」などと歌われればなけなしの理性も吹きとんでしまうというものだ。


後半はリヒャルト・シュトラウスの歌曲だった。リヒャルト・シュトラウスの歌曲というのは私はあまりなじみがなかったのだが、親しみやすい曲が多く楽しく聴くことができた。ここでも愛について歌った作品を多く取り上げているのがこの人らしいところで、愛の喜びを生き生きと歌う姿はさながら愛の素晴らしさを人々に教えさとす伝道師のようでもある。


この日の幸田さんは初め純白の清楚なドレスで登場し、後半の部では同じく白いドレスながら肩から背中にかけて大きく露出した衣装にお色直ししていた。これほどの容姿に恵まれた人なら視覚的にも聴衆を楽しませる工夫をしなければ勿体ないというものだろう。アンコールでの衣装は萌え系アイドルが着そうな感じの黄色いかわいらしいものだった。いかにもこれから「黄色いさくらんぼ」でも歌い出しそうに見えてやや意表を衝かれたが、こんなかわいらしい姿も無理なく似合ってしまうのがこの人の凄いところだ。


そのアンコールではベッペ・ドンギアの「新しい色の祝祭にて カリヨン」とモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」の二曲を歌ってくれたのだが、特に「カリヨン」はこのリサイタル中の白眉だった。初めて聴くのにどこか懐かしさを感じる作品で、一見クラシック作品風のタイトルだけど実は洋楽ポップスのヒット曲か何かだろうか? と思わせるものがあった。調べてみるとこの勘は半分当たっていて、ドンギアさんはイタリアのポピュラー音楽の作曲家で、オーストリアの音楽祭での幸田さんの歌唱に感銘を受けてこの作品をプレゼントしたとのことだった。さすがに幸田さんのために書かれただけあって彼女の伸びやかな歌心が存分に発揮される作品になっている。現代のクラシックの作曲家のみなさんもあまり難しい理屈を捏ねくり回してないでこういう作品を数多く作ってくれたらいいのに、と私などは思ってしまう。それはともかく幸田さんの美しい歌声に心から酔い痴れる、幸せな一時だった。


この日はN響の主要メンバーとの共演という豪華なステージだったのだが、幸田さんには聴衆からの称賛に応える姿からも共演者への心配りが感じ取れて、見ていて清々しい気持ちになる。こういうステージ・マナーのよさも一流の演奏家に要求される大切な資質であり、彼女が国際的に評価される理由の一つでもあるのだと思う。この素晴らしい才能の今後のさらなる飛躍を祈るばかりである。

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コメント

>現代のクラシックの作曲家のみなさんもあまり難しい理屈を捏ねくり回してないでこういう作品を数多く作ってくれたらいいのに、と私などは思ってしまう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

音楽関係の某掲示板でバリバリの現代作曲家の方と議論したことがありますが、その方いわく、「もはや、伝統的な機能和声の枠内では真に独創的な芸術音楽を作ることは不可能。過去の作曲技法に従った作品はいつでも簡単にできるが、そのような音楽など独創性のかけらもなく、仮に発表しても物笑のタネになるだけだ。」

目下、ドイツで活動中の“国際派”と称されている日本人の現代作曲家のご意見ですが、その方に言わせれば、クラシカル・クロスオーバーの分野はもとより、(調性の枠にとどまる)日本の“保守派”の現代作曲家の音楽もポピュラー音楽の範疇に入ることになるのだそうです。

我々一般のリスナーからみるとなかなか理解しがたい考えですが、やはり無理をせず、解りやすい“過去の芸術音楽”(20世紀前半までのクラシック音楽)に十分親しむのが無難だと思いました。

キレイな人ですねぇ〜。
角度によっては “藤原紀香似” でしょうか・・・。
HP見てみたら、6/29のNHK『N響オンステージ』に出るみたいなので、
ぜひ見てみたいと思います!
 
  >「私の胸にさわってご覧なさい」とか「あなたの愛を受け入れます」などと
  歌われればなけなしの理性も吹きとんでしまうというものだ。
 
歌にそんなフレーズがあるんですか?
これはちょっとマズイですねぇ・・・。(笑)

-> ミューズさん

貴重な体験談のご紹介ありがとうございます。半世紀ほども前ならそういう考え方が一般的だったのでしょうが、さすがに今はもう退潮しているものと思っていました。今でもそういう方がいるんですね…。ベートーヴェンの音楽が独創的なのは彼が自己に対しても聴衆に対しても誠実に創作したことの帰結であって、そのために用いる技法が新奇なものであったかどうかは本質的ではないと思うのですが。

聴衆の存在を無視するような態度が優れた芸術作品を生み出すとは私にはとても思えません。多くの音楽ファンがクラシック音楽の作曲の分野での新たな創造に最早全く期待を抱かなくなってしまっているのはかつて前衛が全盛だった頃の作曲家たちがそういう独善的な態度をとり続けたせいだということをぜひ認識してもらいたいものです。


-> ボランチさん

おおお、そんな番組があるのですか、これはぜひ見なければ。ご教示ありがとうございました。キレイな人でしょう? 紀香さんに似ていると思ったことはありませんでしたが。^ ^

歌詞は確かに字幕にそのような言葉が並んでいたと思うのですが、もしかすると私が脳内の妄想で勝手に作り上げてしまったのかも知れません。^ ^

NHK『N響オンステージ』、自分で書いておいて、
見るの(録画するの)忘れましたよ・・・。
 
どーしようもないアホですね・・・。(笑)

-> ボランチさん

あらら…、それは残念でした。一曲だけでしたがとても素敵な歌でしたよ。再放送がないか、ぜひチェックしてみて下さい。

遅くなっちゃいましたが、
sergeiさんに『N響オンステージ』の再放送を教えていただいたので、
録画して、見ることができましたよ〜!
 
やっぱり“ドキッ”とするような美しさでした!
“藤原紀香似”と前回書きましたが、
それはサイトの画像を見て感じた事だったのですが、
今回、実際に歌っている姿を見たら、
東ちづるとか渡辺美里を若くした感じじゃないかなぁと思いました!

-> ボランチさん

無事ご覧になれたようで何よりです。本当にきれいな方ですよね。^ ^

東ちづるさんは確かに似ているかも知れませんね。渡辺美里さんをもう少し丸くするとあんな感じになるかな、と思いました。


紀尾井ホールでのリサイタルの模様も今週日曜日の夕方5時前くらいからNHK-FMで放送されることになったそうなのでよかったら聴いてみて下さい。ラジオなのであの美しいお姿を拝見できないのが残念ですが。^ ^

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