プッチーニからのクリスマス・プレゼント

2008年12月25日

いつもこの季節はクリスマスで騒いでいる世間を横目に「クリスチャンでもないのに何を馬鹿騒ぎしているんだ?」と醒めて過ごすのが通例なのだけど、今年はジャコモ・プッチーニからのクリスマス・プレゼントに酔い痴れてしまった。というのはもちろん、NHKのBS-hiで23日に放送された「まるごとプッチーニ」のことである。長い番組でほぼ一日中やっていたのたが、私は主に『蝶々夫人』と『ラ・ボエーム』を中心に見た。この二作品を続けざまに見るというのは普通はあまりないことだと思うが、何というか、プッチーニの魔力に圧倒されっぱなしだった。結末はわかっているのにそれでも見る度に泣かされてしまうというのはやはり本当に優れた作品だからなのだろう。

二期会の公演による『蝶々夫人』は衣装や舞台装置、小道具、出演歌手たちの所作まで日本らしさを追求した、日本人が見て違和感を覚えずに済む正統的な演出で楽しめた。一方の『ラ・ボエーム』は音楽と映像を別々に収録した映画形式という斬新な試み。今後こうした形式はオペラの制作手法、楽しみ方の一つとして定着していくのだろうか。


スタジオでのトークではプッチーニ作品は現在のミュージカルのはしりだというような話も出ていたが、この二作品は実際に『ミス・サイゴン』や『RENT』といった名作ミュージカルのモデルとなった(私は『RENT』の方は内容をよく知らないのだが)。このことはプッチーニ作品の普遍的な魅力を証明する事実でもあるだろう。実は私はこれらのほかに、『ラ・ボエーム』はアメリカの劇作家、テネシー・ウィリアムズの出世作、『ガラスの動物園』に大きな影響を与えたのではないかという仮説を抱いている。この両作品には単なる偶然とは思えないほど共通点があるのだ。これはいつかこのサイトで語ってみたいと思いつつ未だ果たせずにいることの一つである。

なおスタジオにはソプラノ歌手の幸田浩子さんも招かれていた。実はオペラそのもの以上にこちらの方を楽しみにしていたのだったりもする。幸田さんはこれまでインタビューなどではお気に入りの作曲家としてモーツァルトの名を挙げることが多く、経歴を調べてもプッチーニ作品との関わりは希薄なようなのでこの稀代のオペラ作曲家にはそれほど共感を抱いていないのかと思っていた。しかしこの番組でのトークを聴いているとそれはとんでもない誤解で、この作曲家の作品を熱愛しておられることがよくわかった。大学生の時に『蝶々夫人』にコーラスの一員として出演したのが彼女のオペラ初体験だったそうで、歌手生活の最後には『ラ・ボエーム』のミミを歌って引退すると決めているとのことだった。オペラ歌手としての経歴の最初と最後をプッチーニ作品にするつもりでいるということはよほどの思い入れなのだと思う。ぜひ早いうちに彼女にプッチーニ作品の大きな役が回ってくることを祈りたい。


私はあまりオペラには詳しくなくて、正直に言うと余計な物語抜きで音楽を楽しみたいと思うことの方が多いのだけど、なぜかプッチーニ作品にだけは特別な親しみを感じてしまう。それは一つには前述の『ガラスの動物園』との類似(もしくは偶然の一致)ということがある。そしてそれと重なることなのだが、彼の作品の登場人物にはとても魅力的な女性が多いというのも大きな理由である。あのあまりにも健気で可憐な蝶々さんやミミを見ていると、彼自身とても女性を愛した人だったのだろうな、ということがよくわかる。私としても彼のように熱く女性を愛する人でありたいものだが、幸田さんみたいな人が灯りを求めに訪ねてこないかな…。

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コメント

運悪く見る事ができなかったので、
番組の内容に関してあれこれ語る事はできないんですが、
幸田さんは見たかったです・・・。(笑)
結果論ですが、内藤の試合は録画してまで見る、
内容のものではなかったのでかなり悔やんでいます・・・。
 
それにしても、「クリスチャンでもないのに何を馬鹿騒ぎしているんだ」
というくだりにはかなり共感です。
教会になんか一度も行った事ないだろう人間がほとんどじゃないかと思うので、
自分はこういうのを『えせキリシタン』って呼んでますけど・・・。(笑)
日本人のこのアホ騒ぎぶりをみたら、イエス・キリストも泣きますよ。

-> ボランチさん

幸田さんは歌声はもちろんなのですが、地声で普通に話す声がまたとてもきれいで、あの声でプッチーニの魅力を熱っぽく語られるともう聴いていてメロメロになってしまいます。…って見られなかった人にこんなことを言うのは酷でしたね。^ ^


内藤の試合はちょっと実力差が大き過ぎた感じでしたね。山口がタフでなかなか倒れなかったので長時間激しい打ち合いが見られたのはよかったですが。


チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」なんかを読むとクリスマスっていい習慣だな、と思うのですが、日本のクリスマスは宗教性のない商業主義のイベントなので私は少しも共感できないです。まあ子供の頃はプレゼントがもらえてうれしかったですが、いい歳した大人がはしゃぐのは恥ずかしい気がするんですけどね。

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