年末年始の音楽番組 2008/09

2009年1月13日

世の中はもうすでにお正月気分でもないだろうけどこの年末年始に見た音楽番組の感想をまとめて記してみる。


NHKの『紅白歌合戦』は途中少し見ていなかった部分があるのだけど、まず心に残ったのはMr. Chirdrenの「GIFT」だった。この歌は北京オリンピックの中継でBGMとして聴いていた時はあまり感銘を受けなかったのだけど、じっくり味わって聴くと実はとてもいい歌なのだ。「一番きれいな色ってなんだろう?」という問いかけはついメダルの色にばかりこだわってスポーツの本質を見失いがちな風潮にちくりと皮肉を利かせている。「君に似合う色探して やさしい名前をつけたなら/ほら 一番きれいな色」というフレーズはこのサイトで度々言及している「青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白色」という阿弥陀経の一節に通じるものがある。この歌の歌詞はスポーツ関連ものにありがちな単調さには陥らず、深みのある素晴らしいものだと思う。別スタジオでの演奏だったのはよくわからないが桜井和寿さんの病気を考慮して余計なプレッシャーを感じさせないように、という配慮だったのかな、という気がしている。

これと並んで感動したのはやはり森進一さんの「おふくろさん」だった。二年近くもの封印を経て、この歌はさらに森さんにとって特別なレパートリーになったのだろう。そう感じさせる鬼気迫る歌唱だった。

藤岡藤巻と大橋のぞみの「崖の上のポニョ」はとにかくまずかわいさに気を取られるが、「まんまるおなかの女の子」の部分はとても難しいリズムになっていて、よくこれを歌いこなせるものだな、と感心してしまう。私ならとても正確には歌えないだろう。いかに幼いとはいえプロの歌手を自分と比較するべきではないのだろうけど。しかしこの部分の歌詞、聴く度にドキッとしてしまう私は心が汚れているのだろうか…。

Perfumeは本来なら一昨年に出場しているべきだったはず。一年遅れたために「ポリリズム」に今一つ新鮮味を感じなかったのはちょっと気の毒だった気がする。こういう新鮮さが命のアーティストは旬を逃さずに取り上げて上げないと。

青山テルマ feat. SoulJaの「そばにいるね」はメロウな女性ヴォーカルとラップの取り合わせが絶妙で心地よく聴けた。雰囲気がちょっとDragon Ash feat. ZEEBRA & ACOの「Grateful Days」に似ているな、と思った。ただフィーチャーする/される関係がこの時とは逆だな、と思ったらこの歌はSoulJa feat. 青山テルマの「ここにいるよ」という曲へのアンサーソングなのだそうだ。ややこしい。

なお見終ってから今回は何となく紅組が物足りなかったな、と思ったらこのところは常連となっていた香西かおりさんや長山洋子さん、夏川りみさんといったところが出場していなかったことに気がついた。特にりみさんはNHKのドラマの主題歌を歌っていたので出場してもおかしくなかったはずだが…。まあ晴れの舞台には出なくても婚約を発表して幸せな年末年始を過ごしていたのだろうけど。


ウィーン・フィルのニュー・イヤー・コンサートは今年はダニエル・バレンボイムさんの登場。私は途中から見たのだが、やはりハイドンの「告別」が印象に残った。元々はハイドンと楽団員が結託してパトロンのエステルハージ候に「休暇を下さいっ!!」と訴えるために作られた作品のはずなのだけど、今回は楽団員が指揮者に叛旗を翻すという趣向になっていて笑えた。バレンボイムさんというと何となく勝手に堅物というイメージを思い描いていたのだけど、意外な芸達者ぶりには驚かされた。新年の挨拶の中で彼は「中東に正義を」と訴えかけていたが、イスラエルの良心を代表する芸術家であるこの指揮者が今この時期にこうしたメッセージを世界に発信した意義は大きかったと思う。

バレンボイムさんといえばパレスチナ系アメリカ人の文芸評論家、故エドワード・サイードとの親密な交流でも知られている。サイードは音楽にも造詣が深い人だったのだが、現代音楽については私と同じような考えを抱いていたらしい。彼は十二音列の技法を“ホームレス状態”と形容していたのだそうだ。私はサイードについてはあまりよく知らなかったのだが、このことを知ってから急に親しみを感じるようになった。ラフマニノフが好きで現代音楽が苦手というと何か知性に欠けた人のように思われてしまいそうで嫌だったのだが、これをきっかけに自分の見識に多少の自信を持つことができるようになったのはうれしいことだった。(そういえばこの人も白血病で亡くなったのだったっけ…。)


私が例年お正月番組で最も楽しみにしているのは実はニュー・イヤー・コンサートでもニュー・イヤー・オペラ・コンサートでもなく「はじめてのおつかい」である。子供たちの健気な姿に泣き笑いしながら見るのが正月の何よりの楽しみになっている。音楽番組ではないので詳細な感想は記さないが、最初のおつかいでBGMにゲストの北島三郎さんの歌う『おじゃる丸』の主題歌「詠人」のメロディーが流されていたのは気の利いたはからいだったと思う。


3日放送のニュー・イヤー・オペラ・コンサートには幸田浩子さんが出演、オッフェンバック作曲『ホフマン物語』のアリア「森の小鳥はあこがれを歌う」を歌った。私は初めて聴く曲なのでほかの歌手と比較して論じることはできないが、とにかく難しい技巧を要求される作品であるのは素人の私にもよくわかる。機械仕掛けのお人形の仕草はとてもかわいらしくて幸田さんにとてもよく似合っていた。

ただ、幸田さんはこれまでコロラトゥーラの技巧の確かさを買われてこうした現実離れした役柄を割り当てられることが多かったようなのだが、私としてはもう少しシリアスな劇で役柄の内面を表現するような歌を聴いてみたい。幸田さんならそれを十分立派に果たせるはずなのだから。

それにしても、私は声楽の技術的なことは全くわからないけど幸田さんの声質はやはり際立って美しいと思った。最後の「乾杯の歌」で歌手のみなさんが交替でソロで歌ったので注意して聴いてみたのだが、あらためてその感を強くした。その他、全体的には紅白と同じく後半に登場した男声陣が充実していたように感じた。

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コメント

自分が一番良かったな〜と思ったのは、前のエントリーのコメントで、
sergeiさんが少し触れられていたWinkでした。
と言っても、自分が見た(聴いた)のはレコード大賞の・・・ですが。
 
レコ大50周年記念とかで、一夜限りの再結成で『淋しい熱帯魚』を歌ってました。
これが、昔と変わっているようで、全然変わってない。
むしろ当時は操り人形のように歌っていた印象が強かったですが、
今は、何か力が抜けた感じというか、とっても楽しそうに歌っているのがわかって、
当時とは違う新鮮な感じの歌声に聴こえました。
と同時に、やっぱり大人の色気もプラスされていたのもあってか、
自分には鳥肌ものでしたね。(笑)
 
このまま本格的に再結成して欲しい気もありますが、
『今回一度きり』っていうので止めておくのがまたいいんでしょうかね・・・。

-> ボランチさん

この年末にはWinkの再結成があったんだそうですね。私は後から知って悔しい思いをしました。Winkの楽曲ってリアルタイムでは「こんなチャチな音楽聴いてられるか」みたいに思っていたのですが、後になって聴いてみると意外なほどハイクォリティなんですよね。

私は鈴木早智子さんの方は最近あまり見たことがないのですが、相田翔子さんは『ウルルン』の司会などで見て素敵な大人の女性になったなぁ、と思っていました(結婚してしまったのが残念?ですが)。

本格的な再結成…、私はSPEEDよりずっとこちらを望みます(SPEEDのファンの方ごめんなさい)。^ ^

カバー曲はともかく、「淋しい熱帯魚」なんてよく出来てると思いますよ。
今聴いても、全然古臭く感じないし・・・。
ちなみにレコ大での歌声は、YouTubeには1つだけUPされてるみたいですね。
よろしければ探してみてください。
 
SPEEDは、自分は結構好きだったので、両方復活してもらえるとありがたいですぅ。(笑)

-> ボランチさん

私は若い頃はWinkみたいにいかにもな感じのアイドル・ポップスはちょっと気恥ずかしくて聴く気になれませんでした。最近になってこういう音楽を何のてらいもなく楽しめるようになったことを考えると年を重ねていくのも悪いことではないな、と思ったりします。


SPEEDの方は今後も継続的にグループとして活動していくらしいですね。私は解散後に実はちゃんと(というかかなり上手に)歌えることが判明した上原多香子さんのグループ内での役割に何か変更があるのか、と注目していたのですが、結局解散前と同じようなパート分けで歌っていたのでちょっと期待外れでした。今後もっと上原さんの歌声を前面にフィーチャーした新曲でも作っていけば音楽性に広がりが出ておもしろいと思うんですけどね。

 昨今 再結成や復活の話題が多いですね!
WinkもSPEEDも好きで良く見聞きしましたので嬉しく思いますよ。^^
  
ベテラン組では「六文銭」や「猫」、ちょっと若い方々では「リンドバーグ」「ユニコーン」など・・・
  
歳を重ねた分素晴らしい音楽を期待します。^^

-> Kenおじさん

お返事が遅れてすみません。ちょっと風邪でダウンしていました。


このところ再結成の話題が多いですね。背景には今ほど音楽の嗜好が世代によって細分化されていなかった頃に活躍したバンド、グループを回顧する機運が盛り上がっているという面があるのだと思いますが、逆にいうと幅広い階層の支持を獲得する新たなバンド、グループがなかなか出てこないことの表れでもあるのかも知れません。

私としてはプリンセス・プリンセスの再結成はないのかが気になるのですが…。

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