知られざる人気歌手: テレサ・ブリュワーさんのこと

2009年3月 3日

今回は日本ではあまり知られていないらしいアメリカの歌手について書いてみる。私はジャズのことはあまりよく(というかほとんど)わからないのだけど、2000年に「ユニバーサル 女性ヴォーカル・コレクション」というシリーズが発売された時に「女性ヴォーカルなら楽しんで聴けるかも知れない」と思い、どれか一枚聴いてみようと思い立った。その時にジャケットの雰囲気や帯に記載されている紹介文から自分に合いそうなものを、と思って選んだのがテレサ・ブリュワーさんの「When Your Lover Has Gone 」というアルバムだった。

このアルバムについてはもちろん歌手についての予備知識もないままに聴いてみたのだが、期待した通りに優しい声としっとりとした歌唱が魅力的で、このアルバムはすっかり私のお気に入りとなったのだった。ライナー・ノートの小川隆夫氏の解説によると彼女は元々はポップス歌手として活躍した人で、このアルバムはその彼女がジャズ・テイストを纏って歌うという趣向のものだったようだ。そういう幾分マイルドなジャズ・テイストが私にはちょうど合っていたのかも知れない。


ところがこのテレサ・ブリュワーという歌手についてもっと知りたいと思っても詳しいことはほとんどわからなかった。アメリカではかなりのビッグ・ネームらしいのだが、日本ではあまり知られていないようで、日本語の文献でこの人についてふれたものに出会うことはほとんどなかった。唯一わかったのが雪村いづみさんが彼女のカヴァー曲「想い出のワルツ」でデビューしたということだった。

それがしばらく前にWikipediaのボブ・シールの項目を見て、ジョージ・ダグラスというペン・ネームで「この素晴らしき世界」を作ったこの人物の妻がテレサ・ブリュワーだったということを知り、自分の中でこの人への関心が再び高まってきたのだった。それで先日Wikipediaの英語版の項目を翻訳して新規記事を投稿してみたのだが、いろいろと調べてみてあらためて魅力的な人だと思い知った次第である。


私が聴いたアルバムに収録されているのはほとんどが失恋をテーマにした曲で、彼女はそれを実にしっとりとした情感をこめて歌っているのだが、本来のポップス歌手としてのヒット曲にはむしろかなり陽気な歌の方が多かったようだ。このアルバム一枚だけからでは窺い知ることのできない広がりのある芸風の持ち主だったらしい。

私生活ではレコード・デビューと同時期かむしろそれより早い時期に最初の結婚をし、四人の娘に恵まれたが、常に歌手活動よりも家庭生活の方を優先するやさしいお母さんでもあったようだ。1960年代以降はあまり大きなヒットに恵まれなかったのは娘たちと過ごす時間を優先させていたためという事情もあったらしい。「私の最大のヒットは娘たち」とも語っていたという。

この「When Your Lover Has Gone」というアルバムの彼女のキャリアの中での位置付けも少し理解できるようになった。レコードのセールスという点では軽快なポップ・ソングがヒット・チャートの上位を賑わせることが多かったものの、テレサ本人はむしろバラードを歌うことを好んでいたとのことなので、このアルバムはある意味では彼女の本来の美質が最も発揮された一枚だったのかも知れない。


今回の作業に当たってあらためて調べてみても、やはり日本語の資料はいくつかの一般の音楽ファンの方によるレヴューのほかはほとんど見出せなかった。2007年に亡くなっていたことも私は英語版を見て初めて知った。単に私が見逃していただけなのかも知れないが、日本ではほとんど報道されなかったのではないだろうか。日本の音楽界はこの人の音楽を雪村いづみさんのカヴァーを通して接点を持った以外はほとんど受容してこなかったようだが、それは実に大きな損失だったように私には思われる。

どれだけ需要があるのかわからないが、この翻訳作業によって彼女が日本でも少しでも広く認識されるようになれば、と思う。まあ雪村いづみさんのファンの方なら興味を持って読んで下さるだろうか…。

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