「TAKE IT OR LEAVE IT」

2009年7月 6日

作詞・作曲:Ben Weisman, Evie Sands, Richard Gaminaro 編曲:John Wilson
アルバム「OVERSEA」(1987.06.22)所収。現行のCDでは「Anthem of Life」TOCT-26383(2007.10.24)に収録されている。

先月25日(日本時間では26日)にマイケル・ジャクソンさんが亡くなって以来世の中はそのことで持ちきりなのだが、私は彼の音楽にはほとんど思い入れがなくて、何か世間から取り残されたような気分がしている。私が十代の頃に洋楽シーンで絶大な人気を誇っていたのがマイケル・ジャクソンさんだったのだが、私は彼の音楽に少しも共感することができなかった。振り返ってみると、私が今に至るまで洋楽というものにあまり関心を持つことができずにいるのは最も多感な時期にはやっていたのが彼の音楽だったことに起因するのではないか、という気さえする。

マイケルの音楽を回顧する最近の報道に接していて、唯一楽しんで聴けるな、と思ったのが「Beat It」だった。しかし調べてみるとこの曲にはエディ・ヴァン・ヘイレンさんとスティーヴ・ルカサーさんという二人の高名なロック・ギタリストが参加しているそうで、この曲が私の心をとらえるのはそのためのようだ。

1987年に日本を訪れて公演した際の模様は当時TVの放送で少し見たのだが、唯一覚えているのはやはりギタリストの超絶的なテクニックに驚いたことだった。このギタリストはジェニファー・バトゥンさんというロック界ではややめずらしい女性のギタリストだったらしいのだが、このギタリストが女性だったということは全く覚えてなくて、これは私としては迂闊なことだった。

この当時マイケルのシングル「BAD」が世界中を席捲していたのだが、唯一日本だけはBOØWYの「Marionette」がシングル・チャートの一位に踊り出てマイケルの世界制覇を阻んでいたのだそうだ。このことも、あの頃の日本の音楽ファンの趣味のよさを示す事実として誇らしく感じたりする。

4日の朝日新聞にはピーター・バラカンさんによるマイケル評が載っていたのだが、それによると彼の最も特筆すべき点は「Thriller」をはじめとするミュージック・ヴィデオの斬新さにあったようだ。多額の予算をかけ、映画監督のジョン・ランディスさんを起用して作り上げた映像の視覚的効果が、当時開局間もないMTVの影響力の増大と相乗的に作用して、彼を史上最も成功したエンタテイナーに仕立て上げた、というのがあの当時の音楽シーンの実相らしい。そう説明されてやっと彼の尋常ならざる人気の秘密が少し理解できた気になった。


さて、前置きが長くなったがいよいよ本題に入ると、本田美奈子さんはクイーンのギタリスト、ブライアン・メイさんのプロデュースで楽曲を制作するなど、当時の“アイドル歌手”としては異例なほど海外のミュージシャンと交流のあったアーティストだが、このマイケル・ジャクソンさんとも縁があった。きっかけはマイケルの姉のラトーヤ・ジャクソンさんの日本公演のプロモートを美奈子さんの所属するボンド企画が手がけたことにあったらしい。美奈子さんはロサンゼルスのマイケルの自宅にも招かれ、そこで彼のスタッフたちの協力を得てアルバムを制作した。それが1987年発表の「OVERSEA」で、「TAKE IT OR LEAVE IT」はその中の一曲である。

サックスを効果的にフィーチャーしたサウンド作りや最後のサビのリフレインで半音上がる転調などにいかにもアメリカのポップスらしい洗練されたセンスを感じるが、チェレスタ風の打楽器群(もしくはシンセサイザー?)とピアノが絡むイントロ部分の響きがあまりにもチャチなのは惜しまれるところである。この部分の音色にもっと深みがあればどんなにかよかったろうと思う。歌詞は具体的な情景を描いたり切実な想いを伝えようとするよりは韻を踏むことに主眼が置かれているようで、これといった特徴はない。タイトルが「Beat It」と似た発想なのは偶然なのか必然なのかよくわからない。

肝腎の美奈子さんの歌唱はというと、バラード風のゆったりとした曲調に加え音域がやや高めに設定されていることもあり、美奈子さんの美しい高音がたっぷりと楽しめる作品となっている。「a well without love will run dry」の後の高音のスキャットなどは後年のソプラノ・ヴォイスの萌芽を思わせるものがあり、この頃からすでに高い潜在能力を示していたことを物語っている。

それと同時に、この頃の美奈子さんの声にはまだ少しあどけなさが残っているのが感じられる。全体的な音作りのコンセプトとしては大人向けのポップスを志向していながら、そこに美奈子さんの少女らしい“かわいらしさ”が顔をのぞかせているという、その微妙なアンバランスさ加減こそがこの曲の最大の魅力となっているとも言えそうだ。

美奈子さんはロサンゼルスから帰ってくるとマイケルのことばかり聞かれるのに不満を示し、自分の新しいアルバムのことも聞いて欲しいとこぼしていたようだ。世界的なスーパースターとの対面であっても気遅れすることなく、自分も歌手だという矜持を失わない気丈さはいかにも負けん気の強い美奈子さんらしいところで、この曲にもそんな美奈子さんの健気な自己主張が精一杯込められているのだろう。そう思って聴くとこの愛らしい歌唱がより一層いとおしく感じられてくる。

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