スケートアメリカ2009 女子シングル
2009年11月18日
レイチェル・フラットさんはフリーがとても素晴らしかった。彼女にとって生涯最高の演技だったんじゃないかと思う。トリプルフリップ–トリプルトウループのコンビネーションは実に見事だったし、全体としてもとても生き生きと滑っていて、見ていて引き込まれた。最後のスピンも回転方向の異なるものを組み合わせるという高度な技を披露してくれたのだけど、これが逆に災いし、二つのスピンをやったと見なされてノーカウントになってしまったようだ。しかしそういう状態でもヨナさんの点数を上回ったというのは凄いことだ。
浅田真央ちゃんにしてもそうだけど、キム・ヨナさんもやはり人の子だったんだな、とあらためて思い知った。どんなに力のある選手でも決して無敵ということはないものなのだろう。フランス大会であれほどの強さを見せたヨナさんがこれほど乱れるとは思ってもみなかったが、エッジ系のジャンプはほぼ問題なく跳べているのにトウ・ジャンプで大きな失敗を重ねたというのは、どこかコンディションに問題があったのではないかとも推察される。試合後にこうなることも覚悟していたとコメントしているのは、そうしたことを婉曲に語っているとも解釈できる。元々腰に持病を抱えている人なので、今後そうした面も含めてコンディションをいい状態に保っていけるかどうかが彼女にとって鍵になりそうな気がする。
ところでこの二人のフリーは奇しくもピアノのコンチェルタントな作品として20世紀を代表する二曲の対決となったのがおもしろかった。ラフマニノフとガーシュウィンはともに20世紀のアメリカで活躍したピアニストで、立ち位置はやや異なっていたとはいえ、互いにライバルとして意識したり、影響されたりするところもおそらくあったのではないだろうか。私は予てからパガニーニ・ラプソディー(正確には「パガニーニの主題による狂詩曲(ラプソディー)」)という曲名はラプソディー・イン・ブルーに影響された可能性があるんじゃないかと思っているのだったりもする。二人の演技を見比べながらそんなことに考えを巡らせるのが実に楽しい体験だった。
コメント
お久しぶりです。
永らくコメントはしておりませんが、ブログは拝見させていただいております。
キム・ヨナ選手のジャンプの失敗について、朝日新聞では、
“キム・ヨナが
「プレッシャー」という言葉を何度も口にした。”
とあります。
“SPで世界最高得点。フリーはふつうに滑れば優勝は間違いなかったが、SP同様に完璧な演技をしなければ、と
自分を追い込んでいた。出番前、いつもより靴ひもが緩く感じ結びなおした。
だが、今度は指呼しきつく感じた。
演技開始直後は「ナーバスになり、足が震えていた」
世界のトップに駆け上がってきた19歳は、勝つたびに自信をつけてきた。
だが一方で、よい演技をすればするほど、いつか大きなミスをするのでは、という不安も芽生え初めていた。”
とあります。
ずいぶんと細かい描写で書いてあったので、気になって採っておきました。
11月16日の夕刊からの採用です。
キム・ヨナは、トリノオリンピックに引き続いて、バンクーバーオリンピックでも、聖火ランナーに決まっていますね。
母国が、彼女によせる期待が大きいだけに、本当に大変だろうと思います。
-> tattiさん
こんばんは。お久しぶりです。コメントありがとうございます。
私も各種の報道には目を通しましたが、ヨナさん頻りに“プレッシャー”という言葉を繰り返していたようなんですよね。アスリートが「自分はプレッシャーに負けた」なんて気弱な発言を何度も強調して繰り返すというのは不自然なので、どうも私はこの言葉を額面通りには受け取る気になれないでいます。
まあしかし私の深読みは措いておくにしても、ヨナさんが過大なプレッシャーと戦っていることは間違いないでしょうね。周囲から寄せられた大きな期待を自分の力に変えていくことができるかどうかが、ヨナさんにとって課題になるのではないかと思います。これは日本の選手たちにも言えることですが。
オリンピック本番ではどの選手もプレッシャーに押し潰されることなく自分の持てる力を最高に発揮できるといいな、と願っています。