全日本選手権2009 女子シングル

2009年12月29日

ついに結果が出た全日本選手権、選手たちが背負っているものの重さを考えるとお気楽に感想など書くこともできなかったが、二日経ったところで熾烈な争いとなったこの大会を回顧してみる。見所の盛り沢山なこの大会の中でも、特に注目されたのはやはり鈴木明子さんと中野友加里さんの争いだろう。どちらもとても好きな選手なので、この二人が三人目のオリンピック代表の座を争うのは、見ていていたたまれなかった。0.17というのはほとんど誤差といってもいい数字で、このわずかな差によってオリンピック出場の可否が決まったのだから、勝負というものは本当に残酷なものだと思い知らされる。日本の女子はレベルが高過ぎるんだ、とか、一国当たりの最大の枠が三つというのはおかしいんじゃないか、とかいろいろ愚痴を言ってみたくもなる…。


この僅差の争いを分けたポイントは何だったかと振り返ってみると、やはり鈴木さんが5種類のトリプルジャンプをバランスよくプログラムに採り入れることができていた、ということにあるのではないかと思う。SPではフリップからのコンビネーションと単独のループという無理のない組み合わせで、ルッツとフリップを跳んだ中野さんとほぼ互角の点数を出すことに成功した。フリーでもやはりフリップとループを二度ずつ跳んで、エッジに問題のあるルッツを一度だけ跳ぶという無理のない構成だった。しかも5種類のトリプルジャンプを跳べるために、必須要素であるアクセルをジャンプシークェンスの二つ目として組み入れるという効率的な配置にすることが可能だった。これは国内の選考会だけでなく、オリンピック本番でも有利に働くことが予想される、彼女の強みである。

片や中野さんはループがないためにフリーでは難しいルッツとフリップを二度ずつ跳ばなければならならず、鈴木さんに比べるとややリスクの大きいプログラム構成になっていた。冒頭のルッツで回転不足でステップアウトしてしまったのは、確率的にいうと起こることが想定され得るミスだった。彼女の場合逆にハイリスク・ハイリターンを狙ってトリプルアクセルという博打的な手に打って出る方法もあるにはあったのだが、さすがにこの大事な試合ではそういうことができる状況でもなかっただろう。このルッツのミス以外はどこも文句のつけようがない素晴らしい出来で、日本以外の国ならどこででも間違いなく代表に選出されたはずで、オリンピックで彼女の姿を見ることができないというのは何とも残念である。

まあともかく選ばれた鈴木さんの今シーズンの勢いには目覚ましいものがあり、オリンピックでまたあの「ウェストサイドストーリー」を見ることができるのは楽しみである。この間のグランプリファイナルの時から着ている赤い衣装がとてもかわいくて、彼女の魅力を実によく引き立てている。


浅田真央ちゃんに関してはまあ順当な出来で、取り敢えずはほっとできた。ただ国内選考会ではあれでよくても、オリンピックで金メダルを目指すとなると少し不安なところもある。今シーズンはルッツを全く放棄しているし、トリプル–トリプルのコンビネーションジャンプも跳んでいないので、トリプルアクセルをSPとフリーで合計三度跳ぶというハイリスクな挑戦に賭けなければならないという状況を作ってしまっている。大舞台の重圧の中でそういう試みが果たしてうまくいくのか、ファンとしては何ともやきもきさせられてしまう。

安藤美姫さんは可もなく不可もなくという感じの中途半端な内容だったかな…。すでに内定を得ていたことを考慮すれば四回転のサルコウやトリプル–トリプルのコンビネーションジャンプにも挑戦して欲しかったところ。それで結果が悪くても仕方ないが、失うものがない状況で安全策を採り、それでいて細かなミスをしてしまうというのはある意味最悪の結果ともいえる。しかしインタビューの受け答えなどはとてもしっかりしていて、四年前とは別人のよう。すっかり頼もしい存在になったな、と思わせられる。彼女は二度目の出場なので、他の選手たちをリードするような役割りを期待したい。


村主章枝さんは大舞台で力を発揮する人なので今回もあるいは、と予想していたが、何度も見せられてきた奇跡は今回ばかりは叶わなかった。これまでずっと武器にしてきたルッツとフリップで大きなミスを連発しての落選という結果なので、本人としてもある意味ふっきれているのではないか。四大陸や世界選手権の代表からも洩れたので、あるいはこれが彼女にとって最後の試合ということになるのだろうか。

今回はオリンピック代表の選考会という位置付けに大会なのでそのことに関心が集中してしまったが、もちろんそれ以外にも見所はたくさんあった。その中でもやはり、村上佳菜子ちゃんのかわいさにはふれないわけにはいかない。フリーでは直前に演技した鈴木さんの涙を見て自分も感極まって泣きそうになってしまったそうで、スタートのポジションを間違えて横歩きで移動し、笑いながら演技を始める姿はこの大会の重苦しい雰囲気を瞬時に一新してしまった。ほとんどの選手は演技前は他の選手のことは気にしないようにするのが普通だが、鈴木さんの喜びに一緒になって感涙してしまう素直さは得難いものだと思う。このまますくすくと成長していって欲しいと願わずにいられない、貴重な逸材である。

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