バンクーバー・オリンピック エキシビション

2010年3月 3日

浅田真央ちゃんは今シーズンずっと滑ってきたパガニーニのカプリース。さすがに疲れがあったようでフリップは抜けてしまったが、スパイラル姿勢やステップを織り込んだ凝った助走で跳んでいて、エキシビションでも手抜きをしないところが真央ちゃんらしい。場内放送のアナウンスが“the queen of triple axel”と紹介したのには感激した。

今回のオリンピックを通じて、真央ちゃんの振る舞いには感心させられ通しだった。公約通りトリプルアクセルを三回成功させたことはもちろん、演技後のインタビューの受け答えなども実に立派だった。彼女が小さい頃から知っているのでつい“ちゃん”付けで呼んでしまっているわけだけれど、尊敬すべき偉大なアスリートだとあらためて思った。

最も印象に残ったのは、フリーはどんな4分間だったかと聞かれて答えた「長いというか、あっという間でした」という言葉である。一見矛盾しているかのような言葉だが、この日のために人生をかけて取り組んできた真央ちゃんだからこそ体感できた感覚だったのだろう。


エキシビションでの真央ちゃんというとエヴゲニー・プルシェンコ選手とのツーショットも話題になったが、あれは悪ふざけというより彼なりの真央ちゃんへのリスペクトの表明だったのだと思う。このオリンピックでの一連の彼の言動からは自分のことしか考えていないような傲岸さを感じなくもなかったのだが、ああいう姿を見ると人の心を慮ることのできるやさしさもあるのだと思い、ちょっと彼のことを見直してしまった。演技の方では4回転ジャンプこそ跳ばなかったもののトリプルアクセルを二度も決め、さすがというところを見せてくれた。


ジョアニー・ロシェットさんはセリーヌ・ディオンさんの曲。お母さんが好きな歌手だったらしい。この人は以前は滑りにやや無骨なところが感じられたのだけど、最近はやわらかい感じが出せるようになってきたと思う。フリーの演技では後半にジャンプでの着氷の乱れが重なってやや雑なところが目立ったように感じたのだが、エキシビションでは実に優雅な演技を見せてくれた。


キム・ヨナさんは今シーズン滑ってきたものから変更して「タイスの瞑想曲」での演技。解説の八木沼純子さんがヨナさんのエッジワークから音楽が奏でられているようだと評したのがこの演技の本質をよく物語っている。フィギュアスケートというのは基本的には録音された音楽を使うので、選手が音楽に合わせて演技するわけだが、本当に音楽をとらえる能力の高い選手が滑ると音楽の方が演技に合わせて鳴っているように見えてくる。ヨナさんはそういう域にまで達した数少ない選手の一人だと思う。

その意味で私は今シーズンの競技用のプログラムにはやや物足りなさを感じていた。フリーのガーシュウィンのピアノ協奏曲は演技の内容は素晴らしかったけど、トリノの時の荒川静香さんの『トゥーランドット』とくらべた場合に、この人がこの曲で滑ることの必然性のようなものがあまり感じられないところに、どうしても不満が残ってしまった。しかしこのエキシビションはそういう彼女の美質が最大限に生かされたプログラムで、胸の中に残っていたもやもやを完全に払拭してくれた。うれしいことにNHKでの再放送が決まったようなので、今度はスケートに集中してたっぷりと楽しませてもらうことにしたい。

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コメント

初めまして、
エキシビジョン 〜 〜 一番最初に、男子銅メダルの高橋大輔選手の演技が始まり、驚きました。それでも、この後にこの日のクライマックスがあるのだろうと楽しみにしましたが、金メダリスト達のアンコールが無く、淡々と終わってしまいました。
バンクーバーオリンピックでは、多分、アイスホッケーか何か、フィギュアスケート以外の競技の方で、大きく盛り上がっていたのではないでしょうか。
顰蹙だった、とさえ、私は感じてしまった、女子シングルで出た過去最高得点、等、今回は、フィギュアスケートファンにとっては、非常にガッカリなオリンピックだった と思います。

お久しぶりです、お元気そうでなによりです。
オリンピック、終わってしまいましたね。
私も、違う意味になるかもしれませんがプルシェンコを見る目が変わりました。
実はプルシェンコよりもヤグディンのほうを応援していたので
復帰すると聞いたときは「何で今更!?」と思ったのが
正直なところでした。
しかし4回転ジャンプなしのOPチャンピオンが誕生しようとしている
その現実を絶対に食い止めるという姿勢で臨んだ勇気には
やはり世界の彼を見る目が間違いなく変わったと思います。

キム選手のフリー、私は2007年シーズンのあげひばりを超えるものは
まだ見ていないように思います。
SPがここ数シーズン、どれも彼女にピタリとはまっているので
よけいにそう思うかもしれません。

真央ちゃん(私も永遠にこう呼びたいと思います)は
後半のミスこそあれ素晴らしい滑りだったと思います。
たらればで申し訳ありませんが、もしもキム選手と滑走順が逆だったら??
どうなっていたのだろうと。
ノーミスだったキム選手とノーミスだった真央ちゃんで見てみたかった。
しかし彼女がここで金メダルをとってしまったら
ソチOPを目指すと言ってくれたかどうかわかりませんので
もうしばらく真央ちゃんの滑りを見せてもらうための
ファンにとっての試練だったのかもしれないな、
と思うことにしています。
世界選手権はパーファクトを目指すと言ってくれているし
非常に楽しみですね。
長々と申し訳ありません。

-> 五節句さん

初めまして。コメントありがとうございます♪

最初の演技者が高橋選手だったのには驚きましたね。順位にとらわれない出場順というのは悪くないアイディアだと思いますが、それにしてはあまり演出の工夫がなかったな、と感じました。ロシェットさんなどは後半のクライマックスにもってきてもよかったように思いますし。金メダリストさえアンコールがないというのは本当にがっかりしました。

しかし選手たちはそれぞれに持てる力を精一杯発揮してくれて、なかなか見応えのある大会になったのではないかと思います。それだけに最後はもっとうまく演出して盛り上げて欲しかったですね。


-> sashaさん

お久しぶりです。オリンピックが終わってしまって、何だかちょっと寂しいですね。

プルシェンコ選手は何というか、いろんな意味で今大会の台風の目になりましたね。3年ものブランクがありながらジャンプで他を寄せ付けない圧倒的な力を見せつけたのは、まさに驚異的でした。もう一シーズン早く復帰していればまた違った結果になったのかな、という気もします。

「あげひばり」懐かしいですね。ヨナさんはあれ以来技術の安定感では格段の進歩を遂げましたが、プログラムの個性という点では逆に後退してしまった感がありますね。彼女にとってはバンクーバーでの金メダルが至上の命題となってしまって、振付けで冒険できる余地はあまりなかったのかも知れません。アマチュアを引退ということがささやかれていますが、荒川静香さんと同じように、競技を離れた方がより自分の表現したいものを追求できるようになるのかも知れませんね。

真央ちゃんのことは、タラソワさんが当初からソチまで一線で活躍できる素材だということを強調していましたので、今回こういう結果になったことは彼女の競技人生にとって却ってよかったのかな、と前向きにとらえることにしたいと思います。世界選手権はもしかするとヨナさんと最後の対決ということになるかも知れないんですよね。楽しみに見たいと思います。

以前はどこかの時点で“真央さん”と呼ぶようにしたいと考えていたのですが、今はもう開き直って、尊敬と愛情をこめてずっと“真央ちゃん”で通そうかと思っているところです。^ ^

はじめまして。
八木沼さんのキム・ヨナ選手へのコメントですが
浅田選手にも全く同じことを数年前に言われてたのでちょっとビックリです。
浅田選手のカプリースの独特なステップが大好きです♪
コーチが誰になるのか非常に気になります。

バンクーバーのEXは結構特殊だったようですね。
順位等関係なく1部に日本人選手+ロシェット選手
2部はキム・ヨナ選手のスケーターとして成長していく過程のような演出。。

-> tommyさん

初めまして。コメントありがとうございます♪

そうですか、八木沼さん真央ちゃんにも同じことを仰ってましたか。タラソワさんは健康問題などもあって今季限りのようなので、これからは誰に師事することになるのか、そのことで真央ちゃんの演技にどんな変化が起きるのか、興味は尽きません。

今回のエキシビションはすごく特殊な演出だったので驚きました。でもそれならそれでもう少し効果的に盛り上げる手法を採用して欲しかったな、という気がします。やはり金メダリストにはアンコールがないと…。

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