「白鳥」
2010年8月 6日
本田美奈子さんはクラシック・アルバムとしては第二作となるアルバム「時」に、カミーユ・サン=サーンス作曲の「白鳥」を収録している。原曲は13の小品からなる組曲「動物の謝肉祭」の一曲で、チェロの旋律の美しさにより広く親しまれている作品である。本来はチェロと2台のハープという編成だが、実際の演奏はピアノの伴奏などで行われることも多い。
作詞は美奈子さん自身で、「クラシカル・ベスト」のライナーノートによると知り合いの別荘に滞在中に海を見ながら着想を得たとのことである。海を見ながらということは実際に白鳥を目にしていたわけではないのだろうが、いかにも白鳥の優雅な姿が目に浮かぶような、幻想的な詞である。
音域が広く決して歌いやすい旋律ではないはずだが、美奈子さんの歌唱はまさに流麗そのもので、器楽曲を無理して歌っているような不自然さはどこにも感じられない。よほどこの旋律が気に入って、自然に歌いこなす術を体で会得していたのだろう。チェロのための作品をソプラノで歌っているので本来の音域よりもかなり高いところに設定されているわけだが、ソプラノで聴くこの名旋律もまた、チェロの落ち着いた音色で聴くのとは違った格別な味わいがある。
ミニアルバム「アメイジング・グレイス」の付属DVDにはこの曲のプロモーション・ビデオが収録されているのだが、白いドレスを着て舞う美奈子さんの姿がまさに典雅に空を行く白鳥のようである。こんな美奈子さんの姿を見ながら美しい歌声を聴いていると、自分まで風を切って空を飛んでいるかのような気分になる。連日の暑さに気がおかしくなりそうなこの頃だが、せめてこの曲を聴きながら少しでも涼やかな幻想にひたりたいものである。
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