「HARD TO SAY “I LOVE YOU”」
2010年11月 6日
本田美奈子さんが亡くなって、今日で五年になる。これまでこのサイトで美奈子さんのいろいろな楽曲について拙い感想を述べてきたけれど、デビュー初期の楽曲についてはあまり取り上げてこなかった。今日は初期の楽曲の中から特に今の気分に相応しい曲を聴いて、当時のことを思い出しつつ在りし日を偲ぶことにしたい。
美奈子さんはデビューから半年ほど経った頃に、ファースト・アルバム「M’シンドローム」を発表している。このアルバムはファースト・アルバムでありながら既発シングル4曲のうち「Temptation(誘惑)」以外の三曲は収録しないという、凝った作りになっているのが特徴的である。このあたりには美奈子さんのアーティスト魂が反映されていると見るべきなのだろうか。ともかく普通のアイドルの売り出し方でなかったことは間違いない。
当時私は中学生で、美奈子さんの歌はせいぜいシングル曲をTVの歌番組で聴いて楽しむくらいのことしかしていなかった。しかし今あらためて聴いてみると、むしろアルバム収録曲の方にこそ美奈子さんらしい個性が生かされていたようにも感じられる。
美奈子さんの声には独特の緊張感があって、後に恩師となった服部克久さんは“悲壮感”と形容したのだが、デビュー当初の声には幾分あどけなさが残っていて、その危うく不安定な雰囲気が妖しい魅力を醸し出している。後年のソプラノ的な発生による美声ももちろん素晴らしいが、この時期の声で聴く美奈子さんの楽曲もまた格別である。
「HARD TO SAY “I LOVE YOU”」は特に、この頃の美奈子さんの声の特質が生かされた佳曲だと思う。当時もしこの曲に親しむことができていれば、美奈子さんのことをより好きになれたかも知れない。そう思うと、少し悔しくもある。
この歌が特に私の胸に迫るのは、美奈子さんに夢中になっていた当時の私の心中をよく思い出させてくれるからでもある。この頃親しかったクラスメイトに中山美穂さんの熱烈なファンがいて、その彼から“ミポリン”がいかに魅力的かという熱弁をいつも聴かされていた。しかしシャイな私は美奈子さんへの愛をうまく語ることができず、専ら聞き役に徹するほかなかったのだった。
バラード風の叙情的なメロディとともに、この曲のタイトルにしてリフレインで繰り返されるフレーズが甘美でノスタルジックな感傷を否応なく掻き立てる…。募る思いをどうすることもできなかったいじましい想い出は、日頃は胸の奥深くにしまい込まれたまま静かに眠っている。しかし今日ばかりはこの甘い痛みの追憶に、存分に身を委ねることにしようと思う。
聞かせないで あの日のメロディー さよならには 似合いすぎてるわ もうこれ以上 愛せないのなら … Hard To Say “I Love You” Hard To Say “I Love You”
コメントを投稿