チャイコフスキー・コンクール2011

2011年7月 1日

先月半ばから開催されていた第14回チャイコフスキー・コンクール、私も連日ストリーミング配信でピアノ部門の模様を楽しんでいたが、昨日で全ての審査が終了し、日本時間の深夜に結果が発表された。ピアノ部門で優勝したのはダニイル・トリフォノフさん、ロシアの二十歳のピアニストだった。

彼は昨年のショパン・コンクールにも出場して3位という好成績を収め、ピアノ音楽の愛好家の間で高い人気を獲得した人である。その時はイタリアのピアノ・メーカー、ファツィオリを使用して、この楽器特有の澄明な響きを最大限に生かした演奏が非常に印象的だったのだが、私は正直に言ってこの時の彼の演奏はあまり好きになれなかった。

しかしあれからわずか半年程度に間に彼の演奏スタイルは進化を遂げていたようで、今回聴いた彼の演奏は、表面上の美観に過剰にこだわることなく、より柔軟で闊達な精神で楽曲の真価に迫ろうとしているように感じられた(楽器もスタインウェイだった)。特にファイナルで演奏したチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は、以前の彼のスタイルからすれば彼の特長が出にくい曲目のように思われたが、実際に聴いてみると、チャイコフスキーらしいチャイコフスキーでありながら、なおかつ豊かなイマジネーションによって独自の新鮮な魅力も感じさせるという、実に素晴らしいものだった。もちろん、彼特有の繊細な感受性は失われていない。彼の優勝という結果は大方の納得のいくものだったのではないかと思う。


しかし、それにもまして私が感銘を受けたのはアレクサンドル・ロマノフスキーさんがファイナルで弾いたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番だった。この曲にこめられた感情の陰影を繊細かつ雄弁に描き出し、単にうまいとかいったような次元を超えて、本物の芸術とでもいうべき演奏だった。終楽章でもったいないミスが出てしまっているのだが(提示部第2主題)、そのような小さな傷は音楽の本質に全く影響を与えていない。この神がかったような名演奏はアーカイヴで聴くことができるので、(Silverlightというソフトをインストールしたり利用者登録をしたりしなければならなくて少し面倒くさいのだが)この曲がお好きな方はぜひ一度ご覧になることをお薦めしたい。

ロマノフスキーさんは総合では4位という結果に終わったのだが、この演奏は聴衆のみならず審査員の方々にも深い感銘を与えたと見受けられ、今年の4月に亡くなったヴラディーミル・クライネフを記念して設けられた特別賞に、このラフマニノフの演奏が選ばれた。この賞の発表の際にはクライネフの妻であるタチヤナ・タラソワさん(アレクセイ・ヤグディンさんや荒川静香さん、浅田真央ちゃんなど多くの名選手を育てたフィギュアスケートの名コーチ)が挨拶し、実行委員長のヴァレリー・ゲルギエフさんとともにロマノフスキーさんを祝福した。


もう一人私の印象に強く残ったのがエドゥアルト・クンツさんが一次予選で弾いたベートーヴェンのワルトシュタインだった。知的に構築された演奏でありながら、生き生きとした愉悦感にも事欠かない、実に優れた演奏だった。この人が二次予選の第一フェーズで落選してしまったのは惜しまれる。この時の演奏も悪くなかったと思うのだが、プログラムの最初にラヴェルの作品を弾いたのが、チャイコフスキーの名を冠したこのコンクールの求める方向性と違っていたのか、などと邪推してみる。しかしパデレフスキ・コンクールで優勝したり「BBC Music Magazine」誌の選ぶ明日の名ピアニスト10人に選ばれるなどすでに高い評価を得ているピアニストのようなので、この結果に関わらずいずれ頭角を現していくことになるのではないかと思う。


ともかく半月ほどにわたっての鑑賞は楽しい体験だった。惜しむらくは日本人の演奏家の活躍が見られなかったことだが…。過去には複数の優勝者が日本から生まれていることでもあり、若い演奏家の奮起に期待したい。

最後に、第1回大会での優勝者であるヴァン・クライバーンさんが表彰式の挨拶で述べた言葉がとても素敵だったので、これを紹介しておきたい。

私は音楽とは神の息吹だと信じています。

ヴァン・クライバーン
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