2012年10月

BiS「IDOL is DEAD」

2012年10月31日

かねて注目していたアイドルグループ、BiS(Brand-new idol Society新生アイドル研究会)のメジャー移籍後初のアルバム「IDOL is DEAD」が24日にリリースされたので、早速入手して聴いてみた。アイドルのアルバムとはいっても松隈ケンタさんがプロデュースするサウンドはロックそのもので、それも一枚のアルバムの中に実に多彩な楽曲が詰め込まれている。今はロック志向のアイドルグループも少なくはないが、そうした中でも本作が一つの極北に位置していることは間違いないだろう。参加ミュージシャンも多彩な顔ぶれで、特に私には元 Hysteric Blue の楠瀬拓哉さんが2曲(「I wish I was SpecIaL」「hitoribochi」)でドラムを演奏しているのがうれしい。

リーダーでありグループのそもそもの設立発起人でもあるプー・ルイさんは音楽的にもグループの中心で、アイドル風のふわふわとした萌え声ながら、そこに芯が一本通っている歌声が魅力的である。一方ゆっふぃーことテラシマユフさんは声や歌い回しに歌謡曲風のウェットで粘っこい質感があり、旋律や歌詞にこめられた情感を細やかな陰影を以て描き出す。このタイプの異なる二人のヴォーカルが形作る弁証法的対立がこのグループの音楽の基本的な推進力となっているといえそうだ。そこにみっちぇることミチバヤシリオさんのかわいらしいアニメ風の声と、わっきーことワキサカユリカさんの張りのあるピュアな声がアクセントとして効いていて、全体をのぞしゃんことヒラノノゾミさんが職人的なハモりで下支えしている。そんなところが現在のBiSの音楽の大まかな見取り図である。

アルバムにはインディーズ時代の人気曲を現在のメンバーで再録したものを含め、全部で13曲が収録されている。ロックの細かいサブジャンルについての知識が足りなくて背景にある文脈を十分に読み解くことはできないのだが、以下かなり付け焼き刃の知識も交えて一曲ごとに解説してみる。


IDOL is DEAD

スクリーモというらしいのだが、耳をつんざくような咆哮が全編を覆い、もはや歌の体裁をなしていない楽曲。私は正直この手の音楽は好きではないのだが(ヴォーカルの有無に関わらず豊かな歌心のある音楽が好きなので)、メジャー第一作のアルバムのオープニングトラックにこのような楽曲を持ってくるところにこのグループの自由奔放さが表れているといえるだろう。YouTubeでPVが視聴できる。

ASH

激しいリズムながらシンプルなメロディと軽快なシンセ音の演出で前曲よりもかなり聴きやすい一曲。ピコリーモというらしい。最後のおならみたいな音はわっきーが腕で出しているのだという。同じくYouTubeにPVが公開されているのだが、後述のことに関連した理由があってここでは紹介したくない。

PPCC

メジャーデビューシングルのタイトル曲。爽快で力強いロックナンバーが新たな門出に胸を高鳴らせるメンバーたちの姿と重なり合う。サビの「ぺろぺろちゅっちゅー」は病みつきになる。短く編集されたヴァージョンだがPVが視聴できる。

BLEW

みっちぇるの作詞作品。軽快な曲調ながら内省的な歌詞が印象的で、聴きこむほどにじわじわと心にしみてくる。

CHELSEA

言葉遊び的な歌詞とリズミックなギターが賑やかに踊り跳ねる。ガレージパンクという分類になるそうなのだが、理屈抜きに愉快で楽しい作品である。

nerve

インディーズ時代の人気曲の一つで、現メンバーによって録り直している。ノリのいいメロディとかわいい歌詞が印象的な愛らしい曲で、本アルバム収録曲の中では最も正統派アイドルポップスに近い作品といえるだろう。それを埋め合わせる意図もあってか低音がかなり歪ませてあるのだが、私の感覚ではこれは少しやり過ぎという気がして、ちょっと聴きづらい。ライヴではサビの部分でメンバーたちが口パクであることが丸わかりの振付けで踊り狂うのだが、そんなバカさ加減もこのグループの魅力の一つなのだろう(BiSは最近のライヴでは基本的に生歌と録音された音源を半々で流す“半出し”で行なっているそうである)。初期メンバーによるヴァージョンのPVが視聴できる。

Our Song

難波章浩さんのヴォーカルをフィーチャーした大沢伸一さんの楽曲のカヴァー。シューゲイザーというちょっとかわった名前で呼ばれるスタイルの編曲なのだそうなのだが、重層的なギターの音響の中から顔を出すソフトなヴォーカルが幻想的な雰囲気を形作っている。

My Ixxx

インディーズ時代の人気曲の録り直し。最初の発表時はメンバーたちが全裸(に見える姿)で樹海を駆け回るという奇想天外なPV(閲覧には年齢認証が必要)が話題となり、100万を超える再生回数を記録した。しかし決してそうした話題性にばかり目を奪われてはならない楽曲で、私自身それまで主に奇抜なプロモーションを面白がって注目していたこのグループが、実は音楽的にも十分高いクォリティを備えていることに気づかされたのがこの曲だった。本アルバムでも大きな聴きどころの一つである。

I wish I was SpecIaL

オリジナル曲だがHi-STANDARDの「stay gold」という曲に酷似していると専らの評判である。オマージュを意図したものなのか、そのあたりよくわからないが、「Our Song」も含めて本アルバムの制作陣にとって難波章浩さんの音楽が大きな存在であることを窺わせる。

hitoribochi

本アルバム収録の新曲中の白眉というべき名曲である。孤独や不安、言葉では伝わらないもどかしい思いが、エモーショナルな旋律に乗せて切々と歌われる。5人のメンバーそれぞれの特徴を生かした歌割りも絶妙で心憎い。PVは下に表示。

IDOL

メジャー移籍の発表と同時期にリリースされた、インディーズとしては最後となったシングル曲の録り直し。この曲の最初のリリースにはちょっとした仕掛けがあったのだが詳細は割愛。デスメタル風のシャウトが強烈で、歌詞は日本語で書かれているのだが実際は英語のように聴こえるという遊び心も盛り込まれている。PVが視聴できる。

urge over kill of love

作詞のゆっふぃーが描いた得体の知れない不気味で暗い衝動がラップを交えて歌われる。正確に何の楽器を使っているのかよくわからないが、シタール風の音色による伴奏を効果的に配して異国情緒を演出している。

primal.

インディーズ時代の人気曲の録り直し。もがき傷つきながらも前へと進んでいくBiSの姿をそのまま描いたたような作品で、今や彼女たちのアンセム的な存在にもなっている名曲である。切迫した情感をいやが上にも煽り立てるギター・リフのアレンジも素晴らしい。THE YELLOW MONKEY の「プライマル。」という曲にインスパイアされているようだ。初出時の音源によるPVが視聴できるが映像がグロいので注意(閲覧には年齢認証が必要)。



動画は「hitoribochi」のPV。プー・ルイとわっきーが100キロマラソンに挑戦した際のドキュメント仕立てになっている。

このグループの一つの特徴はメンバーたち自身が(全ての曲ではないが)作詞を手がけていることで、特にBiS名義の作品(本アルバムでは「ASH」「PPCC」「My Ixxx」「hitoribochi」「primal.」の5曲)には独特の世界観があって優れたものが多いように思う。「primal.」や「hitoribochi」を名曲といっているのは、もちろん歌詞も含めてのことだ。

欲をいえば、せっかくこれだけ中身のある詞を歌っているのだから、ブックレットに頼らなくても歌詞を聞き取れるくらいに言葉を明瞭に歌ってくれたら、と思う。ただ、もともと歌が抜群にうまい子を厳選して結成されたグループではないので、そのあたりはあまり高望みしても仕方ない。ヴォーカルがあまり前面に立たないようなミックスを敢えてしているらしいなので、そういうせいもあるだろう。

ともかくこのアルバムは現在の音楽シーンのある一面が見事に凝縮された一枚ということができる。今を盛りと咲き誇るアイドルブームが生み落とした一つの精華ともいうべき作品であり、アイドルファンに限らず幅広い音楽ファンに受け容れられるだろう。ロックファンこそ聴くべきだとの声も多いが、あまり激しいロックは好みでない方も、「primal.」と「hitoribochi」だけでも聴いてみて欲しい。

パッケージはCDのみ、PV集収録のDVD付き、主演映画収録のDVD付き、そのそれぞれに初回限定盤と通常盤があり合計6種類用意されている。初回限定盤には6種類ある生写真(メンバー一人ずつと5人揃ったもの)のうち一枚が封入されている。

これらを全て集めるみたいなことは熱心な研究員さん(BiSファンの呼称)たちにお任せして、私は慎ましくPV集付きの初回限定盤を一枚だけ入手した(生写真はのぞしゃん)。映画は見ていないので論評できないが、音楽ファンとしてはこれが最も妥当な選択ではないかと思っている。大半の映像はウェブでも視聴できるが、「PPCC」はYouTubeにあるのは短いヴァージョンだし、「アイドル」という曲は音源が発売されておらず、PVも現在はウェブになく、収録されたパッケージ作品もほかにないようなので、このPV集でしか接することができないものと思われる。


ところで、このアルバムのリリースと赤坂ブリッツでのワンマンライヴという重要なイヴェントを控えた時期に、BiSの運営サイドによってメンバー間の“内部抗争”を謳ったプロモーションが繰り広げられた。本当に実在していたのかも定かでない内部抗争なるものをプロモーションの一環として衆人環視のもと演出するというこの無謀な企画は、せっかく順調に飛翔し始めたこのグループを空中分解させかねない、極めて危険な賭けだったと思う。実際にメンバーの一人が脱退を決意する寸前にまで追い詰められたのは、見ていて胸の痛むことだった。

BiSがそのユニークな活動スタイルによってこれほどまで大きな存在になったのは、マネージャーのじゅんじゅんこと渡辺淳之介さんの才覚によるところが大きいのは間違いない。このグループの存在自体が彼の作品だといってさえ過言ではないだろう。私も彼の仕掛ける奇抜なアイディアの数々を面白がってウォッチしていた一人だが、メンバーにもファンの心にも傷を残すことになった今回のプロモーションだけは支持できない。

もっとも、この騒動以来すっかりBiSのことに心を奪われて、連日「IDOL is DEAD」をリピートして聴いている私のような者もいるわけだから、この無謀なプロモーションもそれなりの成果をあげたということなのかも知れない。何だか策略にまんまと乗せられてしまったみたいで悔しいのだが、今後もBiSのことは危なっかしい言動に絶えずハラハラさせられながら見守っていくことになるのだろう。

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