「奇跡のクラーク・コレクション」

2013年5月29日

先日三菱一号館美術館に「奇跡のクラーク・コレクション」を見に行ってきた。この美術館はオフィス街の真ん中にある赤煉瓦のイギリス風建築で、明治時代のオフィスビルを模して近年再建されたものらしい。周辺の駅からのアクセスが少しわかりづらかったり、館内の移動経路の導線があまり効率的でないように感じられたりもしたが、なかなかに趣きのある建物だった。中庭がちょうどバラの盛りだったこともあり、展示を見るのはもちろん、この美術館を訪れること自体が楽しい体験でもあった。

座る裸婦

この展覧会は主にルノワールなど印象派の画家を中心に据えた企画なのだが、私が最も目当てにしていたのはウィリアム・アドルフ・ブグロー(1825年 - 1905年)の「座る裸婦」(1884年)だった。印象派の画家たちの作品についてはよく知られ人気も高いが、私は寧ろアカデミズム絵画に属するアングルやブグローの描く女性像に強く惹かれるものがある。ドミニク・アングルは有名なので昔から知っていたが(「」は誰もが一度は目にしたことがあるだろう)、ブグローという画家は割りと最近になって知った。何がきっかけだったかはもう覚えていないのだが、どのような作品があるかネットで調べてみて、気品のある女性像の数々にひどく魅了された。いつか実物を見る機会があればとおもっていたところ、今回の企画にブグローの作品が含まれていることをたまたま知って出かけて行った次第なのだが、やはり本物には匂い立つような気品と美しさがあり、これを目にすることができたのは幸せな体験だった。

Wikipediaでブグローについて調べると次のようなことが書かれている。

構図や技法はアカデミックなものだが、官能的な裸婦像、可憐な子どもの像、憂愁を帯びた若い女性の像などに独特の世界を築いている。甘美で耽美的な彼の画風は当時の人々の好みに合ったと見え、生前には彼の名声は非常に高かったが、20世紀以降、さまざまな絵画革新運動の勃興とともにブグローの名は次第に忘れられていった。再評価されるようになるのは20世紀末のことである。

……

20世紀に入り、印象派、ポスト印象派、キュビスム(立体派)などのモダニスムの台頭とともに、これに対抗する旧勢力としてのアカデミックな絵画は等閑視されるようになり、やがて美術史から忘れ去られた存在となった。しかし、20世紀末頃からアカデミスム絵画を再評価し、美術史の上で正当に位置付けようとする動きが高まり、ブグローについても再評価がなされるようになった。

ウィリアム・アドルフ・ブグロー - Wikipedia

何だかどこかの作曲家と似たようなことをいわれていて苦笑してしまうのだが、こうした再評価が順調に定着していくことを望みたい。ただし現状ではまだまだというところのようで、美術館のショップでもこのブグローの絵は絵葉書が売られていなかった。おそらく主催者からはこの絵が集客力のある呼び物だとは認識されていないのだろう。今回はたまたま運よく展示にブグローの作品が含まれていることに気づいたが、下手をするとせっかく作品が日本に来ているのに気づかずにに見る機会を逃してしまうということもありそうで、今後注意していかないといけないな、と思った。


もちろん印象派も決して嫌いなわけではなく、ルノワールの描く女性像もすばらしく魅力的だった。ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841年 - 1919年)の作品としては、特に三つ並んで飾られていた「若い娘の肖像(無邪気な少女)」(1874年頃、画像)、「うちわを持つ少女」(1879年頃、画像)、「かぎ針編みをする少女」(1875年頃、画像)が圧巻の美しさだった。「テレーズ・ベラール」(1879年、画像)はやや古典的な手法に近い作品とのことだが、背景の色彩のグラデーションを見ているだけでも飽きない。

後に妻となるアリーヌ・シャリゴをモデルにした有名な「金髪の浴女」 (1881年、画像)も展示されていたが、裸婦に関しては私はやはりブグローを推したい。「シャクヤク」(1880年頃、画像)は他の作品にくらべるとやや色彩が派手な印象を受けたが、やはり独特の美しさがある。「タマネギ」(1881年、画像)は静物画なのになぜか色っぽいというユニークな作品で、これを見られたのもラッキーだった。

ほかに私が特に気に入ったのはエドゥアール・マネ(1832年 - 1883年)の「花瓶のモスローズ」(1882年、画像)だった。晩年ですでに健康状態が思わしくなかったとのことで小ぶりの作品だが、バラの花の透明感ある色彩が素晴らしく、この画家の力量を窺い知るに十分だった。


ここで挙げた以外にも、バルビゾン派やポスト印象派など多彩な作品が展示されていて、実に充実した展覧会だった。東京の三菱一号館美術館での展示はすでに終了しているが、6月8日から9月1日まで兵庫県立美術館で展示されるので、関西地方在住で印象派やその周辺の画家がお好きな方はぜひ見に行かれるといいと思う。


Bookmark and Share BlogPeople 人気ブログランキング にほんブログ村

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:

管理者の承認後に反映されます。

http://vita-cantabile.org/mt/tb-vc/687

コメントを投稿

最新のコメント

author

author’s profile
ハンドルネーム
sergei
モットー
歌のある人生を♪
好きな歌手
本田美奈子さん、幸田浩子さんほか
好きなフィギュアスケーター
カタリーナ・ヴィットさん、荒川静香さんほか

最近のつぶやき

おすすめ

あわせて読みたい

Giorni Cantabili を読んでいる人はこんなブログも読んでいます。