寺嶋由芙さん「君にトロピタイナ」

2018年10月30日


今月17日に寺嶋由芙さんのシングル「君にトロピタイナ」がリリースされた。タイトル曲は西寺郷太さんが作詞・作曲・編曲を手がけている。西寺さんは周知の通りノーナ・リーヴスの中心メンバーであるとともに、多くのアーティストへの楽曲提供やプロデュースなどで幅広く活躍するミュージシャンである。アイドルシーンとの関わりも深い方だが、ゆっふぃーとのコラボレーションはこれが初めてとなる。

注目されるその初提供曲について、西寺さんは“トロピカルミネアポリスユーロ歌謡”という耳慣れないジャンル名を謳っている。詳しい趣旨はゆっふぃーとの対談記事[1]において語られているが、要はゆっふぃーの受容力の高さを見込んで、思いつく限りのアイディアを欲張って全部詰め込んだということのようだ。あまり細かいことは私の知識ではついていけないのでここでは深入りしないでおくが、大雑把にいえば80年代に隆盛を極めたユーロビートを基調とした楽曲作りと見ていいのだと思う。“古き良き時代から来ました”というコンセプトに沿って80年代をフィーチャーしたという点で「ふへへへへへへへ大作戦」や「天使のテレパシー」などと共通するが、それら過去作とは違った方向を追求したものということになるだろう。いわば聖子ちゃんからWinkへのシフトチェンジとでもいったところか。

ゆっふぃーは今月でソロデビュー5周年になるが、Dorothy Little Happyの髙橋麻里ちゃんとの対談で「この5年、やりたいことを経験してきて、今の時点では自分の中にあるものを出しきったな、という想いがあ」り、今度のシングルでは「西寺郷太さんを始め、初めてご一緒する方々が手掛けてくださったので、そこから新たな刺激をいただき、そこから出てきた反応に私がどう応えていくのか?に挑戦したい」と語っている[2]。この曲を一聴して感じるのは、やはりこれまでのゆっふぃー楽曲にはないタイプの“懐かしさ”ということで、サウンドからもそうしたゆっふぃーの新たな抱負を感じ取れる。リリース週最終日の21日に開催された5周年記念のワンマンライヴではメドレーも混じえてこれまでの持ち曲全てを披露したのだが[3]、その際もそうした思いを深くした。

歌詞はタイトルにもある“トロピたい”という謎めいた造語が耳を惹くが、ゆっふぃーには「トロッとして、ピタッとしたい」という意味だと説明されたという[4]。対談では西寺さん自身がやや詳しく説明しているが、「言葉のキャッチーさで攻める作詞をしたい」とのことなので、あまり深く穿鑿するのは野暮というもので、そこはかとない熱帯感に身を浸しつつ、語感のおもしろさを楽しめばいいのだと思う。夏フェスでプロモーションしていた際にはちょうどよい趣向だったのだが、リリースのタイミングではやや季節外れになってしまったのが惜しまれる。

録音の際は西寺さんが直々にヴォーカル・ディレクションを行ったそうなのだが、ゆっふぃーの持っている癖を出さないように、フラットな歌い方をするように指導したという[5]。「たぶん…」の時に作詞したクリス松村さんから受けたアドヴァイスとはまさに逆方向のディレクションで、様々な作家さんの要求に応えるのも容易なことではではないのだな、と思わせられる。しかしそれだけ多彩なクリエイターが明確なイメージを負託したくなるような素材としての魅力を、ゆっふぃーが備えてきているということでもあるのだろう。初回限定盤Aに付属のDVDにはおまけとしてレコーディング映像が収録されていて興味深いのだが、こちらの方がCDの音源よりもゆっふぃーらしい癖が自然に出ている感じなので、おそらく西寺さんの手直しを受ける前の別テイクなのではないかと思う。

曲中にはオーディエンスにクラップを煽る箇所があり、一体感を醸し出す演出になっている。前述のワンマンライヴの時はうまくできるか不安だったのだが、やってみるとそれほど難しくはなかった。同じリズムで7回叩くだけなので、リズム感に自信のないヲタクにもやさしい作りなのはまことにもって有り難い。

MVはレトロ感を強調した映像で、ゆっふぃーにはめずらしく人間のダンサー二人(“トロピ隊”と命名されている)と共演している。これまでにはなかったタイプのダンス曲なので、そのことをアピールしたい狙いもあるのだろう。トロピ隊の二人はワンマンライヴにも登場してステージを盛り上げてくれた。振付けはソロデビュー曲「#ゆーふらいと」であのハッシュタグポーズを考案した竹中夏海さん。5周年というこのタイミングでまたコラボが実現したことにゆっふぃーは感慨深そうにしていた[6]が、ヲタクとしても同じ思いを抱く。

今回の衣装は思い切って明るくポップな雰囲気で、このところはシックなものが続いていただけに対照が際立っている。ポイントは何といってもおなかを出しているところで、ゆっふぃーの見事に縦に割れた腹筋を堪能できる。ワンマンライヴの時はアンコールでソロとして初のステージで着ていた衣装で登場したのだが、5年前の衣装がまだ着られるというより、むしろややゆるそうなのが印象的だった[7]。日頃の節制の賜なのだろうが、本人はそんな素振りを見せないのがまたすごい[8]


カップリング「彼氏ができたの」はまたしてもヲタクを病ませる系譜の作品となった。しかし実際に聴いてみるとタイトルとは裏腹に、嬉しい報告というよりは元彼への未練を強くにじませた、切ない女心を歌った曲になっている。作詞はハナエさんで、同じ加茂啓太郎さんのプロデュースを受ける歌手同士という縁もあっての起用だろう。作編曲は“ヲタクを病ませる担当”[9](?)の藤田卓也さんで、曲想が明るい分だけ歌詞の切なさが際立ってくる。藤田さんは大江千里さんへの憧れが強いそうなのだが、なるほどイントロのキーボードなどに大江千里的なセンスを感じる。


このほか初回限定盤Bには今年7月の生誕記念ライヴの音源から「コンプレックスにさよなら」「天使のテレパシー」の2曲が収録されている。いずれもGOOD BYE APRILとの共演で、前者はバンドメンバー二人からの提供曲を録音時の編成で再現している。後者はアコースティック編成というゆっふぃーのライヴにはめずらしい取り組みの貴重な記録である。


前述の通りゆっふぃーは今月でソロ活動を始めてから5年になるのだが、その勤続期間を表彰するかのように、このところゆっふぃーにはアイドルクイズ王、木更津警察署一日署長、串カツ田中一日店長、Pop’n’Roll編集長、@JAM EXPO総合司会といった肩書が立て続けに増えている。そのあらましは最近のインタビュー[10]で詳しく述べられているが、東京アイドルフェスティバルのアイドルクイズ王決定戦は私も配信で見ていて衝撃を受けた。賢い人なのでかなり健闘するだろうとは期待していたが、予想を遥かに上回る圧倒的な強さだった。出題者の古川洋平さんも強い印象を受けていたようなので、今後はより広い場でその才能を発揮できるチャンスもめぐってくるかも知れない。

本業ではすでに来春のシングルリリースが決まっているそうで、アイドルの解散や卒業が相次ぐ昨今にあって順調に活動が継続できているのは喜ばしい。この稿で参照したインタビューや対談記事はどれもライターさんの意気込みが溢れんばかりの力作だったのだが、楽曲制作陣の並々ならぬ創作意欲もそうした記事からは伝わってくる。そうした周辺の業界人はもとより、ワンマンの現場で感じたヲタクの盛り上がりも含めて、アイドルシーンは今なお高い熱気を保っているように見える。明るい話題ばかりではない中でも、そうした周囲の熱量と、それに応えられるアイドルの力量さえあれば、シーンは更なる進展を遂げることができると信じたい。そんなことを考えさせられたこのひと月だった。


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