「風流風鈴初恋譚」

2011年8月 6日

作詞:岩谷時子 作曲:弦哲也 編曲:萩田光雄
アルバム「JUNCTION」(1994.09.24)所収。

本田美奈子さんは主演したミュージカル『ミス・サイゴン』のロングランを成功に導いた後、「豹的 (TARGET)」以来5年ぶりとなるオリジナルアルバム「JUNCTION」を1994年9月にリリースした。このアルバムはタイトルの通り、様々な音楽ジャンルの合流点となることを意図して制作されている。収録曲にはシャンソンありファドありと多彩な楽曲が並んでいるが、その中に演歌と見做し得る楽曲がある。それが「風流風鈴初恋譚」(ふうりゅうふうりんはつこいばなし)である。

作詞は『ミス・サイゴン』の訳詞者として出会って以来、生涯に亙って美奈子さんの恩師となり、このアルバムのプロデュースを買って出た岩谷時子さんで、作曲は演歌界の大御所、弦哲也さんである。演歌歌手としての実績は全くないのに弦さんのような大物を起用することができたのも、おそらく岩谷さんの人脈によるところが大きかったのではないかと思う。夏の風物詩、風鈴に絡めて淡く儚い初恋の想い出を綴った、ほろ苦さと甘酸っぱさの交錯するような、味わい深い作品である。岩谷さんの歌詞からは可憐な下町娘と粋でいなせな風鈴職人の姿がありありと浮かんでくるようで、弦さんはこの詞を繊細で情緒豊かなメロディーで彩っている。

美奈子さんは元々演歌歌手志望だったそうで、ロックバンド Wild Cats を解散してソロに復帰した時期には演歌歌手への転身が真剣に模索されたと聞いている。そんな美奈子さんにとって、オリジナル演歌の制作はまさに待ち望んでいた企画だったに違いない。ただ、この作品は、そのように演歌志向の強い歌手が初めて公にしたオリジナル演歌にしては、やや地味な作品という印象を受ける。

全体にあまり抑揚のない曲調なので、『ミス・サイゴン』では遺憾なく発揮されていた美奈子さんのドラマティックな表現力は、ここでは十分に生かされているとはいい難い。やや長めの歌詞が3番まであるので演奏時間が5分半程度あり、それをこの平板な曲調で飽きずに聴かせるというのは実に至難の技だと思う。美奈子さんとしては自分本来の実力を発揮しにくい、難しい作品をもらってしまったな、というのが率直な感想である。

詞もメロディーも非常に丁寧に作られているので、実績のある演歌歌手のレパートリーの一つとしてなら、地味ながら底光りのする渋い存在感を放っていたことだろう。しかし演歌初挑戦の歌手が歌う楽曲としては、もう少しインパクトの強い楽曲が望ましかったという気がする。美奈子さんの表現力を以てすれば、それこそ「天城越え」のようなドラマティックな作品の方が間違いなく映えていただろう。

美奈子さんはコンサートでは演歌の名曲をカヴァーすることも多かったという。この曲のほかにも、自身のオリジナル作品にもう少し多彩な楽曲があれば、というのは惜しまれるところである。生前の計画では美空ひばりさんのカヴァー・アルバムを制作することも予定されていたそうだが、それも果たされることはなかった。美奈子さんは多方面で活躍しながらも、元々の志望であった演歌の分野ではその実力を十分に発揮し切ることなく終わってしまった。誰より本人が悔しかっただろうが、演歌好きの私としても残念でならない。

この「風流風鈴初恋譚」は美奈子さんの本領が発揮された楽曲とは必ずしもいえないように思うが、ともかく美奈子さんのオリジナル演歌として貴重な作品であることは間違いない。季節は今暑い夏の盛りだが、風鈴を主題に据えたこの曲を聴きながら、少しでも涼しく過ごしたいものである。

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