NHK杯2010 男子シングル フリー

2010年10月24日

12人の出場選手中4人が4回転ジャンプに挑戦し全員が成功と、予想外にハイレベルなジャンプの競い合いになった。ケヴィン・ファン・デル・ペレン選手はオリンピックでの4回転–3回転–3回転のコンビネーションジャンプも記憶に新しいところだが、なお現役を続行し、高いレベルのジャンプの技術を維持しているのには驚くほかない。

無良崇人選手はSPに引き続きの成功。しかしこれもSPと同様その後のジャンプで苦労していた。4回転を跳んでなおかつほかのジャンプも成功させることができるようになればもっと飛躍できるはず。羽生結弦選手は試合では初挑戦での成功と、勝負強いところを見せてくれた。持ち前の柔軟性を生かした表現力に加え、ジャンプの難度でも世界のトップクラスに互角にわたりあえるだけの潜在能力を示してくれて、まことに頼もしい。

高橋大輔選手は練習では全く成功していなかったそうで、大会期間中に唯一成功させたのが試合の本番だったという勝負強さ。かつての高橋選手の姿を思い浮かべるとまるで別人のよう。終盤に立て続けにジャンプのミスが出たのは疲れのせいだったか。まあ連覇を狙うシーズンの最初の試合としては上々の出来といっていいんじゃないかな。

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NHK杯2010 女子シングル フリー

2010年10月23日

浅田真央ちゃん

満足に跳べるジャンプがループしかない状態ではさすがにつらい。そんな状態でもプログラムに6種類のトリプルジャンプを採り入れているその勇気を称えるしかないかな…。真央ちゃん本人も、そしてファンも今は辛抱の時だね。


キャロライン・ジャンさん

やはり体が大き過ぎて動きが重たく見える。ジャンプで着氷が乱れた際にややつらそうにしている様子が窺えたので、あるいはどこかに故障があって満足に練習ができていない状態なのではないかという気がする。


村上佳菜子ちゃん

昨シーズンまでは安定感のあったフリップで二回とも転倒してしまったのが惜しまれる。ルッツは相変わらずインサイド気味とはいえ前よりも幾分改善しているようなので、あるいは彼女もエッジの矯正に取り組んでいて、フリップの不安定さはその副作用なのかも知れない。

プログラムは彼女らしい溌剌さが生かされていなくて少しもったいないような気がした。まあしかしとにかくシニア初参戦で3位というのは素晴らしい快挙で、これからがますます楽しみになる。


カロリーナ・コストナーさん

牧神の午後の前奏曲」は幻想的な雰囲気の漂うプログラムで、SPとは対照的ながらともに彼女によく合っていると思う。どうも怪我のためにジャンプの構成を抑えてあるらしくて、優勝者の演技としてはやや物足りない感じはあるけど、これからもっと調子を上げていけばすごくいいプログラムになりそうな予感がする。今シーズンはコストナーさんから目が離せないことになりそうだ。


男子シングル SP

高橋大輔選手はさすがに世界チャンピオンらしい貫禄の演技。「暑苦しくむさ苦しく」というプログラムのコンセプトはかなり実現できていたのではないか。ディフェンディング・チャンピオンとして臨む今シーズンに、敢えてこれまでやってきた路線とは異なるプログラムで新境地を開拓しようとしているところに彼の心意気を感じる。フリップのエッジ・エラーをとられているのはやや気がかりではある。一方ルッツはやや凝った跳び方をしているがエッジ・エラーをとられなかったのは収穫だっただろう。

羽生結弦選手はシニア初参戦ながら全選手中最高のの技術点を叩き出して見事。男子ではめずらしいビールマン・スピンやドーナツ・スピンも披露してくれた。無良崇人選手は最初の4回転トウループ–トリプルトウループのコンビネーションが素晴らしかった。その後のトリプルアクセルがすっぽ抜けてしまったのは残念だが、今後に向けていい手応えをつかむことができたのではないだろうか。

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NHK杯2010 女子シングル SP

2010年10月22日

いよいよ始まったグランプリシリーズ、今シーズンは例年と異なりNHK杯から。


村上佳菜子ちゃん

黒地にピンクの水玉模様の衣装とポニーテールがあまりにかわいくて、頭の中で「ポニーテールとシュシュ」が鳴った。開始のポーズでの笑顔に退場の際の転倒に、まったくこの子はどこまで人を萌え死にさせる気か。プログラムは少し子供っぽい感じがしたが、彼女の天性の踊り心を生かした選曲という気がした。

コンビネーション・ジャンプは一つ目の方のトウループが今シーズンから導入された中間点というのが腑に落ちなかったが、スローで見ると確かに万全の着氷ではなかったようだ。しかし二つ目の方の高さが実に素晴らしく、GOEで高い点をもらえる資質を感じさせた。スピンでレベル4を揃えているのも見事。シニアでも相当に活躍してくれるのではないかと期待させる、鮮烈なデビュー戦だった。


キャロライン・ジャンさん

一見して少しサイズが大きくなり過ぎているように感じられた。得意のはずのビールマン・スピンもやや苦しそうに見えた。フリップの踏み切りでの右足の蹴り上げが改善されたのはよかったと思う。


カロリーナ・コストナーさん

この人はいつも衣装のセンスが群を抜いている。フラメンコ風の振付けが大柄な体躯と長い手足によく映えた。技術点で佳菜子ちゃんに及ばなかったが、それでも伸びのあるスケーティングで高いPCSを得てトップに立ったのはさすがだった。


浅田真央ちゃん

フリップを一番心配していたのだけど、予想が悪い方に当たってすっぽ抜けてしまった。そのほかトリプルアクセルは回転不足で両足着氷、ループからのコンビネーションも二つ目をダブルにする安全策を採りながら一つ目が中間点と、ジャンプに関してはいいところがなかった。まあこれは矯正途上に起こる副作用として仕方ないことなので、ファンとしてはあまりこういうことに一喜一憂せずに長い目で見守って上げたい。彼女の最終目的が4年後のソチ・オリンピックにあるのだとしたら、今シーズンは最後の世界選手権までに一つの形を作ることができればいい、というくらいの感覚で取り組めばいいんじゃないかな。

ステップでのキャッチフットのポジションでのトゥイズルとか、随所に真央ちゃんならではの高い技術は発揮されていた。プログラムも非常に魅力的だと思った。

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ショパン・コンクール2010 結果発表

2010年10月21日

今月初めからワルシャワで開催されていたショパン・コンクールは日本時間の今日未明で本選の日程を終了し、今朝早くに審査の結果が発表された。注目の優勝者はロシアから参加したユリアンナ・アヴデエヴァさんだった。私はこの人の演奏はほとんど聴けなかったのだけど、ブログやTwitterなどでこの人を推す意見はほとんど目にしなかったので、この結果はかなり意外だった。ソナタ賞を受賞しているので、三次予選のアーカイヴあたりからチェックしてみようと思っている。

2位にはルーカス・ゲニューシャスさん(ロシアとリトアニアの二重国籍の模様)とインゴルフ・ヴンダーさん(オーストリア)さんの二人が選ばれた。ゲニューシャスさんはファイナルの演奏を途切れ途切れの映像で辛うじて聴けただけなのだが、落ち着き払った堅実な演奏という印象を受けた。ヴンダーさんも私自身は演奏を全く聴けていないのだが、三次予選くらいから急に世評が高まってきて、特にファイナルの演奏はかなり熱狂的に称賛されていた。コンチェルト賞と幻想ポロネーズ賞を受賞しているので、このあたりは聴衆と審査員の意見が一致したと言えそうだ。私もぜひコンチェルトの演奏はアーカイヴで聴いてみたい。


私のお気に入りのニコライ・ホジャイノフさんは残念ながら入賞を逃してしまった。ファイナルの演奏はまずまずよかったと思うのだが、最初かなりかたくなっている様子が見てとれて、本来の力は出し切れなかったようだ。オーケストラと合わせることにもあまり慣れていなかったようで、若さによる経験不足も影響したのかも知れない。少し残念な結果ではあるが、何しろまだ若いピアニストなので、もしまた5年後に挑戦することがあれば、その時は押しも押されもしない優勝候補として臨むことになるだろう。


半月ほどに亙ってこのコンクールの模様を追跡してきたわけだが、ショパンの作品ばかりを集中して聴き続けたのも初めてだったし、短期間にこれほど多くのピアニストの演奏を聴いたのもこれまでなかったことで、いろいろな意味でいい経験になった。その中で何人か自分が魅力的だと思えるピアニストに出会えたことは実にうれしい。選考の結果は自分の思い通りにならないことも多かったが、そんなことに一喜一憂しながら成り行きを見守るのもコンクールの楽しみ方なのだと思う。この経験を通じて私の音楽観が少しでも深いものになっているといいのだが…。

最後に、コンテスタントのみなさん、そしてマエストロ、アントニ・ヴィトとワルシャワ・フィルのみなさんに、「ありがとう、そしてお疲れ様でした」。

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ショパン・コンクール2010 いよいよ本選へ

2010年10月16日

ショパン・コンクールは昨日で三次予選を終了した。三次予選の演奏はあまり多くを聴けなくて、残念ながら新たなお気に入りのピアニストを見つけるには至らなかった。逆に、具体名を挙げるのは避けておくけど、聴きながら「そうか、こういう演奏が評価されるのか」と鼻白んでしまうことも何度かあって、本来は多分に主観的な営為である“芸術”の分野に競争という要素を持ち込むことの理不尽さに思いを致したりもした。

そんな中でも依然として私のこのコンクールへの関心をつなぎ止めてくれているのは、やはり一次予選の演奏を聴いてただならぬ才能を予感したニコライ・ホジャイノフさんである。三次予選の演奏はほぼ全て聴くことができたが、期待に違わぬ素晴らしいものだった。私の能力ではどこがどういう風にいいとか説明するのが難しいのだが、とにかく彼が弾き始めるとその演奏に心を奪われてしまう。何というか、曲の全体像をつかんだ上でそれを立体的に構築してみせる力量が際立って優れているように思う。


ファイナルへの進出者10名は日本時間の今日午前0時過ぎに発表され、ホジャイノフさんも順当に進出を果たした。アジアやアメリカからの参加者は全て落選し、10名全員がヨーロッパからの参加者が占めるという、近年ではめずらしい結果となっている。

ファイナルの演奏は時間帯がこれまでより遅く設定されていて、日本時間では深夜から未明にかけてということになり、リアルタイムで聴けるのはかなり限られた人数になってしまいそうだ。しかし幸いにしてホジャイノフさんの演奏は早い時間なので何とか聴くことができると思う。彼の演奏の魅力は聴く人の好みによって左右されるような性質のものではないはずなので、有力な優勝候補の一人であることはおそらく間違いないと思う。私としてはやはり、一次予選からリアルタイムで聴いてその演奏に魅了されてきた彼が栄冠に輝いてくれるとうれしい。

ただ、本選進出者の中には私が未だに演奏を聴けていないピアニストに、かなりの人気や評価を獲得している人もいるようだ。ファイナルの演奏をできる限り聴きたいのだが、これからアーカイヴもチェックしておこうと思っている。

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ショパン・コンクール2010 二次予選終了

2010年10月14日

現在ワルシャワで開催中のショパン・コンクールは日本時間の今朝未明に二次予選を終了し、三次予選への進出者が発表された。今大会の注目の存在となっているロシアのホジャイノフさんなど20名が進出を果たした一方、私が気に入っていた岩崎洵奈さんを含め日本からの参加者は全て落選してしまった。


すでに三次予選の演奏が始まっているが、二次予選の印象を回顧しておきたい。ニコライ・ホジャイノフさんは二次予選の演奏は少ししか聴けなかったのだが、聴いた人の話によるとどうもあまり本調子ではなかったようだ。それでも私が聴いたバラードの演奏は一次予選の時に見せた才気を十分に感じさせるものだったように思う。

二次予選での演奏を聴いていいと思ったのは、中国系アメリカ人のクレア・フアンチさんである。いかにもアジア女性らしい感じのたおやかな演奏で、聴く人の心にすんなりとしみこんでくるようなみずみずしい音楽を聴かせてくれた。以前この人が浜松のコンクールに参加した時の演奏を聴いた人によると、その時は技術偏重で若さにまかせて突っ走るような演奏だったのだという。しかし今回はそんなことが信じられないような音楽性豊かな演奏で、人は変われば変わるものなのだと感じさせられた。

もう一人私が気に入ったのは地元ポーランドのパヴェウ・ヴァカレツィさんだった。アクの強い演奏が印象的で、マズルカもさることながらポロネーズでも土俗的な味わいの濃い演奏を聴かせてくれた。


一次予選の演奏を聴いて気に入っていた岩崎洵奈さんは、二次予選でも多彩なタッチに自然なアゴーギクやさりげないルバートを織り交ぜたいきいきとした演奏で魅了してくれた。二次予選で私が聴いた中では最も音楽性豊かないい演奏だと思った。次へと進むことができなかったのは何とも残念だが、私の個人的な聴衆賞はこの人に差し上げたいと思う。(そんなものもらってもうれしくないだろうけれども。)

日本のピアニストではほかに渡辺友理さんが明晰な響きで清冽な演奏を聴かせてくれた。前回のファイナリストの大崎結真さんもそれに相応しい堂々とした演奏でとてもよかったと思ったのだが、ともに残念ながら落選してしまった。

このほか二次予選の落選組では、少ししか聴けなかったのだがウクライナのアンナ・フョードロヴァさんが印象に残った。内に秘めた暗い情熱の燃焼がほの見えてくるような演奏は私の好みだった。しかし三次予選進出者の顔ぶれを見ると、こういったタイプとは逆に軽い響きで明朗な演奏をする人が多く残っている気がする。


今大会の選考については、はっきりした個性を持ったピアニストが高く評価されているという意見を目にした。私も確かにそんな印象を受けるし、それは非常にいいことだと思う。ただ、その評価されている個性が私の好みとはやや方向性が違っていて、正直少しテンションが落ちてきてしまっている。しかしそれでもまだ演奏そのものは聴いていないけど評判を目にして気になっているピアニストも何人かいたりするので、今後のコンクールの行方も楽しみに見守りたいと思う。

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ショパン・コンクール2010 開催中

2010年10月 8日

5年に一度開かれるクラシック音楽のビッグ・イベント、ショパン・コンクールがワルシャワで開催されている。コンクールの模様はインターネットを通じて世界に配信されていて、私も連日若手ピアニストたちの競演を楽しませてもらっているところである。回線の速度の都合からか途中で何度も映像が途切れてしまっていらつかされたりもするのだが、こうして日本にいながらにして世界最高峰のピアノ・コンクールの模様を楽しむことができるとは、すごい時代になったものである。Twitterを通じてリアルタイムで人といろんな意見を交わすことができるのもうれしい。

現在はちょうど一次予選が終わったところで、日本時間の今朝、二次予選への進出者が発表された。演奏を聴いて気に入ったピアニストが何人か落ちてしまっていて残念に思う一方、この後が楽しみな名前も残っている。


私は一部のピアニストの演奏しか聴いていないし、接続の状態によって満足に聴くことのできなかった人もいるのだが、取り敢えず私の聴いた範囲で気になったピアニストの名前を何人か挙げてみる。まず筆頭に挙げたいのはロシアのニコライ・ホジャイノフさんである。まだ18歳の少年であどけなさが残る容貌なのだが、とにかく才気煥発といった感じの鮮烈な演奏を聴かせてくれた。何というか、場内を圧倒するようなオーラの持ち主で、今大会の注目株といっていい存在だと思う。最初にノクターンを聴いた時は右手の動きがやや重たく感じられるところがあるのが気になったのだが、その後のエチュードは壮快に弾き切っていたから、技術的に何か問題があったわけではなくそれが彼なりの表現だったのだろう。

彼が演奏した5日の午後(日本時間だと6日午前0時過ぎ)はレベルの高い時間帯で、この前に弾いたイタリアのイレーネ・ヴェネツィアーノさんも華やかな演奏が印象に残った。彼女はファツィオリのピアノを弾いたのだが、このピアノの独特の音色もうまく生かした演奏だったように思う。

さらにその前に弾いた Louis Schwizgebel-Wang さん(読み方がわからない)はおそらくアジア系と見られるスイスのピアニストで、やや渋めの音色でショパンが曲にこめた感情の陰影を繊細に描き出していて好感を抱いた。私が聴いた中ではいい意味で最も個性的な演奏だと思ったのだが、残念ながら二次予選進出は逃してしまった。

この大会には日本から国別では最大となる16人のピアニストが参加していて、印象的な演奏を聴かせてくれた人も多かった。その中で私が特に気に入ったのは岩崎洵奈さんである。演奏前はひどく緊張している様子が伝わってきて、舞台に上がる階段のところで長いドレスのスカートの裾を踏んづけてよろけていたりして、大丈夫かなと心配になったのだが、いざ始まると集中して曲の世界に没入した演奏を聴かせてくれた。軽快なタッチで愉悦感に溢れたエチュードと深い内省に沈潜したノクターンとの対照が印象的で、曲の性格を的確に描き分けた演奏に、聴いていて惹きこまれた。演奏を終えて緊張から解き放たれた後の笑顔がまた素敵で、ちょっとファンになってしまった。


コンクールはいよいよこれからがたけなわで、ホジャイノフさんはコンクールが終わった頃には“神童”の名をほしいままにしているんじゃないか、とか、私のお気に入りの岩崎さんはどこまで行けるだろうか、とかいろいろと予想しながら胸がわくわくする。もちろん一次予選の演奏を聴き逃したピアニストを聴くのも楽しみだ。1985年の大会で4位に入賞した小山実稚恵さんが今回は審査員席にいつもの穏やかな笑みを浮かべて鎮座されているのを拝見できるのもうれしい。5年に一度のこのイベント、心ゆくまで楽しみたいと思う。

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「グリーンスリーヴス」

2010年10月 6日

イングランド民謡 日本語詞:岩谷時子 編曲:井上鑑
アルバム「AVE MARIA」COCQ-83633(2003.05.21)所収。

本田美奈子さんはアルバム「AVE MARIA」にイングランド民謡の「グリーンスリーヴス」を収録している。この曲はウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ウィンザーの陽気な女房たち』で言及されていることでも知られる、とても古くからある民謡である。

自分の元を去っていった恋人への未練を歌った曲で、“グリーンスリーヴス”(緑の袖)とはその恋人の女性が身につけていた衣服を指し、その恋人そのものの象徴として歌われている。この緑の袖という隠喩が何を意味しているのかについては諸説あってよくわかっていないらしく、その恋人の身元も高貴な身分の婦人から娼婦まで様々な説があるようだ。

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズは『ウィンザーの陽気な女房たち』を元にした1928年作曲のオペラ『恋するサー・ジョン』で、この「グリーンスリーヴス」を間奏曲として用いている。この間奏曲はラルフ・グリーヴズの編曲により「グリーンスリーヴスによる幻想曲」として単独でも親しまれている。このほか先月の記事でちょっと名前を出したロック・ギタリストのジェフ・ベックさんもアルバム「トゥルース」でこの曲のギター版を披露している。このように現代に至るまで、幅広い音楽家に愛好されている名曲である。


美奈子さんがソプラノ歌手としてのデビューアルバムでこの曲を取り上げたのは、サラ・ブライトマンさんがアルバム「La Luna」でイングランド民謡の「スカーボロー・フェア」を歌っていることに影響されたのではないかと私は想像している。サラさんは美奈子さんに多大な影響を与えた人で、この「La Luna」は諸般の事情から特に美奈子さんが愛聴していたことが想定されるアルバムなのである。今あらためてこの2枚のアルバムを並べてみると、ジャケット・デザインからしてよく似ており、「AVE MARIA」が「La Luna」の強い影響下に制作されたものであることが推察される。

美奈子さんが歌っているのは岩谷時子さんによる日本語詞で、岩谷さんはこの曲に春の訪れへの喜びを歌う詞をつけている。実は私は秋に聴くのに相応しいものを、と思ってこの曲を思いついたのだが、この日本語詞が春の歌であることにいささか当惑してしまった。原詞には特に季節の限定はないが、このメロディから受ける印象を強いて季節に当て嵌めるなら、私には秋こそが最も相応しいように思われる。同じメロディでも岩谷さんと私とでは受け取り方が違っていたわけで、こうしたところも音楽というものの奥深さだと思う。

サラさんの「スカーボロー・フェア」は合唱も交えたゴージャスなアレンジで、民謡らしい素朴さは幾分失われているのだが、美奈子さんは衒いのない自然な歌唱により、この曲の民謡としての素朴な味わいをストレートに表現している。しっとりと落ち着いた調子の歌唱は岩谷さんの日本語詞の浮き立つような春の喜びとはやや異質なもので、両者が共存することで独特の世界となっているように感じられる。


なお、私の手持ちの中からこの曲のお薦めの音源をもう一つ紹介しておくと、アイルランドの女性歌手、メイヴさんが歌ったものが二枚目のアルバム「銀色の海」に日本盤ボーナス・トラックとして収録されている。こちらはデイヴィッド・アダムズさんのハープシコードとデイヴィッド・アグニューさんのリコーダーの伴奏による、まるでルネッサンス期の芸術歌曲を思わせるような格調高い歌唱で、私はこれもとても気に入っている。

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ジャパンオープン2010

2010年10月 2日

いよいよフィギュアスケートの新シーズンが本格的に開幕。浅田真央ちゃんのフリーはリストの「愛の夢」。冒頭からトリプルアクセル–トリプルトウループというとんでもなくすごい技ダブルアクセル–トリプルトウループを見せてくれた。でもトウループは回転不足だったかな…。ルッツとフリップがどれもうまくいかなかったのはエッジ矯正の過渡期としては仕方ないところだと思う。サルコウも着氷が万全でなかったようだけど、6種類のトリプルジャンプを組み込んできたところに意欲を感じる。エッジの問題はあまり性急に結果を求めても仕方ないだろうから、長い目で取り組んで欲しい。私たちファンも気長に見守って上げるようにしたい。

ほかの選手ではやはり高橋大輔選手が4回転のトウループを見事に成功させたのが目を引いた。今シーズンは抜群の表現力に加え4回転ジャンプも武器として使えそうで、世界選手権連覇に向けて明るい見通しが開けてきた。女子でもう一人挙げるとジョアニー・ロシェットさんが素晴らしかった。彼女は昨シーズンもこの大会で目の覚めるような演技を披露してくれたのだけど、よほどこの大会と相性がいいのだろうか。今シーズンは競技への参加を見合わせるようだけど、何だかもったいない気がする。

この大会は各選手の新プログラムのお披露目の場としての意味合いもあるのだけど、今シーズンはピアノ協奏曲の名曲を使う選手が多いのがうれしい。小塚崇彦選手(リストの第1番)、安藤美姫さん(グリーグ)、アダム・リッポン選手(ラフマニノフの第2番)、シンシア・ファヌフさん(パガニーニ・ラプソディ)、それぞれの選手がこうした名曲を使ったプログラムをどんな風に仕上げていくのか、とても楽しみだ。

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