「世界に一つだけの花」

2008年1月31日

作詞・作曲:槙原敬之

坂井泉水さんの追悼コーナーがあるということもあり、全部ではなかったけど断続的に見ていた昨年の紅白歌合戦、最後にいよいよお仕舞いという段階になって思いがけないサプライズがあった。出演者全員で「世界に一つだけの花」を合唱したのだ。実は槙原敬之さんが出演すると知った時からせっかくだからあの歌を歌ってくれたらいいのに、とは思っていたのだけど、こんな粋な計らいは予想してなくて思わずうれしくなってしまった。

この歌はSMAPの2002年のアルバム「SMAP 015/Drink! Smap!」の収録曲で、シングルカットされてヒットしたのはその翌年のことだが、私の最初に聴いた時の感想は「やけに理屈っぽい詞だな」というものだった。その後この歌が槙原さんの作であることを知って「なるほどそうだったか」と腑に落ちる思いがした。というのも彼の最初のヒット曲「どんなときも。」を聴いた時にも全く同じことを思ったからだ。この歌も普通歌の歌詞では使わないような複雑な構文を用いて書かれていて、「こういう歌もありなんだな」と新鮮な驚きを覚えたのが強く印象に残っている。11年の時が経っても彼の本質は少しも変わっていなかったのだ。

そんなわけで私にはこの「世界に一つだけの花」は“SMAPの歌”というよりも“マッキーの歌”という認識の方が強い。この歌の成功は何よりもソングライティングの素晴らしさに負っていると思うからだ。


21世紀に生まれたでき立てほやほやの作品ではあるが、この歌はすでに古典と言ってもいいほどに人々に愛され親しまれている。シングルカットされヒット曲となったのがちょうどイラク戦争が始まった年だったこともあり、内容についてはそのことを背景にした反戦歌と解釈されることが多い。実際この年の紅白歌合戦のトリでSMAPがこの歌を歌った時の木村拓哉さんの前振りのトークもそうした趣旨のものだった。しかし私には虚心にこの歌の歌詞を味わう限り、槙原さんはそうした国家レベルの軍事や外交のことではなく、むしろ私たち一人一人の生き方について問いかけたかったのではないかと思えてならない。「NO.1にならなくてもいい/もともと特別なOnly one」というフレーズは単なる狭義の武力衝突のみならず、現代の競争社会そのものに対して端的にアンチテーゼを突きつけているように見える。

この歌についてWikipediaで調べていて、槙原さんは謹慎中に僧侶から教えられた如来蔵思想の影響を受けてこの歌を作ったことを知った。如来蔵思想とはあらゆる存在に仏陀となる可能性が宿っているという考え方で、日本の仏教に大きな影響を与えてきた思想である。「仏になる種」というような実在を認めるのは全てを空と見做す仏教本来の思想からはやや異質な考え方だと評価されることもあるが、日本では広く受け容れられてきた。これは日本土着のアニミズムの影響もあるのではないかと言われている。

このことを知って私はなるほどと得心がいくとともに、宗教思想家のひろさちやさんの言葉を思い出した。

結局、日本人は、誰か偉い政治家が号令をかけて、何年何月何日、午前零時零分を期して、いっせいに競争をやめる—そういうふうになって欲しいと思っているのです。でもね、そんなこと、政治家がするわけがありません。…

だから、わたしたちのほうから、背伸びをやめないといけないのです。

ひろさちや著「仏教に学ぶ『かんばらない思想』」1999年、PHP研究所

この歌の素晴らしさは何よりも、無益な競争のために神経を擦り減らし感情を鈍麻させてしまう愚劣な生き方から足を洗うのに国家的指導者の号令など待たなくてもいいのだ、ということを教えてくれるところにある。あくまでも国際関係論の文脈でこの歌を反戦歌として称揚したがる知識人には、この歌がビートルズ的な「Love & Peace」よりもっと深いことを語っているのかも知れないということが見えていないのだ。

「それなのに僕ら人間は/どうしてこうも比べたがる?」というフレーズはひろさんの次の言葉にぴたりと符合する。

自分を他人と比較することを、仏教では、
—慢—
と言います。「慢」は煩悩です。自分を他人と比較すれば、必ずそこに競争心が生れます。

優越感が生じ、劣等感が生じます。

なにも比較する必要はないのです。自分は自分でいいのです。

なぜなら、この自分という存在は、ほとけさまからいただいたものだからです。ほとけさまからいただいた自分だから、自分は自分でいいのです。

その自分を変えよう—よくしよう—と考えてはいけません。…ほとけさまを信頼して、ほとけさまが与えて下さった自分という存在を全面肯定すべきです。

ひろさちや著「『まんだら』のこころ」新潮文庫版、1998年、新潮社

「一人一人違う種を持つ/その花を咲かせることだけに/一生懸命になればいい」というメッセージはあるがままの自己へのおおらかな肯定を促している。この歌はこれからも、無益な競争の中で疎外され自己を見失った哀れな現代人に救いの光明を照らし続けるだろう。


この稿、早く書きたいと思いつつなかなか筆が進まなくて、仕上げるのに一月もかかりやや時期を逸した話題になってしまった。なお冒頭で少し言及した「どんなときも。」の方も真摯な自己省察が心を打つ素晴らしい名曲である。この時代に自己ヘの誠実さをテーマに歌った作品として尾崎豊のあの名曲「僕が僕であるために」と並ぶ双璧と言っていいだろう。哲学教師が主体という概念を考察の主題から捨て去り記号論やらグラマトロジーやらにうつつを抜かしていたあの時代に、この二人の音楽家が自己とは何か、何であるべきかを愚直に問い続けていたことを音楽ファンは銘記しておくべきである。

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ハンドボール北京オリンピック予選のやり直し 男子も韓国に惜敗

2008年1月30日

異例のやり直しとなったハンドボールの北京オリンピック予選、昨日の女子に引き続き今日は男子の日本対韓国戦が行われ、日本は25-28で敗れ今大会でのオリンピック出場権獲得はならなかった。

立ち上がりは両者ともピラミッド状に選手を配置して高い位置からプレッシャーをかける3-2-1ディフェンスを採用していたが、韓国は途中から6人が横一線に並ぶディフェンス隊形に変えてきた。これを日本は攻めあぐね、序盤から韓国にリードを許す試合展開となった。このあたりはもっと遠い位置から力強いシュートを放って欲しかったところで、無駄なパス回しが多くなかなかシュートにまで持ち込めない日本の攻撃にもどかしさを感じた。

後半途中からは日本もディフェンスを低い位置に下げ、これが効を奏して韓国の攻撃を抑えることに成功した。この時間帯に日本は連続得点を決め、一時は2点差にまで詰め寄った。しかしここから韓国も底力を発揮し、それ以上の日本の追撃を許さなかった。最後は左サイド(日本の右サイド)から相次いで得点を決められて突き放された。

それにしても最後まで勝敗の行方のわからない白熱した好ゲームで、フェアな条件で行われるスポーツの試合というものがいかに素晴らしいかをあらためて感じさせてくれた。今回の騒動をきっかけに初めてハンドボールに関心を抱いた人にもこの競技の魅力は十分伝わったのではないかと思う。両チームの選手の健闘を讃えるとともに、この試合の実現に尽力した日韓両国のハンドボール協会や国際ハンドボール連盟の関係者に敬意を表したい。

日本はまだ世界最終予選での北京オリンピック出場権獲得の可能性を残している。この試合の経験を生かしてぜひ悲願を実現して欲しい。

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ハンドボール北京オリンピック予選のやり直し 女子は韓国に敗戦

2008年1月29日

異例のやり直しとなったハンドボールの北京オリンピック予選、今日は女子の日本対韓国戦が行われ、日本は21-34で敗れ今大会でのオリンピック出場権獲得はならなかった。

前半日本は6人が低い位置に横一線に並ぶディフェンスの布陣を敷いたが、9mラインの中に入ってくる相手へのプレッシャーが弱く簡単に点を許してしまう。逆に日本のオフェンスは高い位置から積極的にプレッシャーをかけてくる韓国のアグレッシヴなディフェンスになかなか攻め入ることができない。後半に入ると日本は右45度の選手を高い位置に配する変則的な5-1ディフェンスの隊形に変えて互角の守り合いを演じてみせた。しかし攻撃でミスを繰り返し速攻からの失点を重ねて点差を広げられた。自分たちのやりたいプレーを相手にされてしまうという最悪の試合展開で、最後は地力の差が出て大差がついてしまった。

後半の最初に見せたような積極的なディフェンスを初めからすることができなかったのが惜しまれるが、元々実力差の大きい相手なので敗戦は仕方のないところだろう。この試合の教訓を世界最終予選に生かして欲しい。


明日は男子の日本対韓国戦が行われる。男子は女子ほどには実力差は大きくないはずだが、それでも格上の相手であることに変わりはない。体格とパワーで上回る韓国に対し日本は堅いディフェンスからの速攻に活路を見出したい。昨年9月に行われた最初の予選では後半途中に同点に追い付く粘りを見せたが最後は突き放されてしまった。今度は最後まで相手に喰らいつく執念を見せて欲しい。

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白鵬 3連覇

2008年1月27日

横綱同士の相星決戦となった大相撲初場所千秋楽は東横綱白鵬が西横綱朝青龍を上手投げで下して3連覇を果たした。

立ち合いからすぐに右を差し、一度巻き替えられるも再度巻き替えて終始得意の右四つで相撲を取ったのが最大の勝因だろう。途中の両者の引き付け合いはさすがに横綱同士の対戦で、見ている側も思わず力が入った。朝青龍のつりに白鵬の体が浮く場面もあったが、最後は逆に朝青龍の方がバランスを崩し白鵬の上手投げが決まった。場所前から「二場所休んでいた横綱には負けられない」と口にして闘志をむき出しにし、自らにプレッシャーをかけて臨んだこの場所で宣言通り優勝したのは見事というほかなく、これでまた大横綱への階梯を一つかけ上がったと言えるだろう。

対する朝青龍の方も優勝は逃したものの二場所のブランクをものともせずに13勝を挙げ、呆れるほどの図太さと勝負強さを発揮してみせた。これも見事といえっば見事だが、少しほかの力士たちの不甲斐なさを嘆きたい気持ちにもなる。特に大関陣は一人が休場、残りの三人も勝ち越すのがやっとの状態で、来場所以降の奮起を促したい。

そのほかの力士で特筆すべきなのはやはり琴奨菊である。白鵬戦で右膝を痛めて休場しながら再出場後に3勝を挙げて合計9勝としたのは素晴らしい奮闘だった。この調子なら近い将来の大関挑戦も見えてきそうで楽しみになる。

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村田亙選手 今季限りで引退

2008年1月26日

ラグビー・トップリーグのヤマハ発動機に所属する村田亙選手が今シーズン限りで引退することが明らかになった。村田選手は3回のワールドカップに出場し、フランスのプロリーグで2シーズンプレーするなど、日本のラグビー界を代表する名選手である。爆発的なスピードを武器にする超攻撃的スクラムハーフで、ある程度ラグビーの観戦歴のある方なら密集サイドを壮快に突破する彼のプレーに胸を踊らせたことが幾度となくあったはずだ。

彼の同期にはどういうわけか名選手が集中していて、日本代表で正SHの座を争った堀越正巳さん、その堀越さんとともにスーパー一年生トリオとして早稲田大学で活躍した今泉清さん、藤掛三男さん、第2回ワールドカップのアイルランド戦での日本のトライを生み出した伝説的なスワーヴが名高い吉田義人さんなどがいる。競技は違うが野球の佐々木主浩さん、清原和博選手、桑田真澄投手なども彼の同期で、スポーツ選手ではないけど本田美奈子さん、南野陽子さんなどとも同期になる。

ラグビーでは同期のライバルたちが引退した後もあくまで現役にこだわってプレーし続けてきたのが村田選手だった。ラグビーのような激しいスポーツでこれほど長く現役を続けたプレーヤーはほかになかなかいないだろう。その彼もついに引退とは、時の流れを感じさせられる。これまで幾度となくほかでは得られない興奮を覚えさせてくれた彼の輝かしいプレーの数々を懐かしく思い出しながら、心から「ありがとう、お疲れ様」と伝えたい。

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ベートーヴェン「不滅の恋人」

2008年1月21日

昨日の『N響アワー』はゲストにベートーヴェン研究家の青木やよひさんを迎えてのベートーヴェンの特集だった。ベートーヴェンには死後に発見されたラヴレターがあり、そこで彼が「不滅の恋人」と呼んでいるのが誰なのかが長い間謎となっていた。青木さんは現在最も有力な説となっている「アントーニア・ブレンターノ説」を世界に先駆けて最初に提出した人である。

青木さんの著作は私も以前読んだのだが、その論旨はとても説得的で興味深いものだった。このアントーニア・ブレンターノという女性は手紙についての詳細な研究から明らかにされた条件を理想的に満たしているばかりでなく、洗練された教養と豊かな感性の持ち主でベートーヴェンの恋人として実に相応しい人でもあったようだ。しかし彼女は人妻であったためにそれまでの研究では注目を集めることなく見過ごされてきたらしい。こうした多くの人がとらわれてきた盲点をつく青木さんの洞察力には深い感銘を受けた。これ以上はとてもここでは説明できないので詳しくは直接彼女の著作を参照して欲しい。

このベートーヴェンの恋が作品に影響を与えている例として紹介されたのが交響曲第8番だった。この曲はベートーヴェンのアントーニアへの想いが燃え盛っていた時期の作品で、彼女とボヘミアの温泉地で夏を過ごした想い出など、当時の彼の幸福感が盛り込まれているようだ。特に第3楽章のトリオに現れるホルンの旋律はこの地方の郵便馬車の発着の合図に用いられるポストホルンを模したものらしい。

番組では紹介されなかったが、青木さんはベートーヴェンの最後の三つのピアノソナタもアントーニアと関わりの深い作品だと推理している。こうした事情に思いを馳せながら聴くと作品をより身近に感じられる気がする。


なお青木さんはベートーヴェン研究家のほかにもう一つ、フェミニズムの論客という肩書きも持っている。実を言うと私はそちらの方面での活動にも関心を持っているのだけど、これはこのサイトの趣旨を超えた話題になるので深入りするのはやめておきたい。

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アイスショー二題

2008年1月17日

先日放送されたアイスショー二つについて少しばかり感想を。


ジャパン・スーパー・チャレンジ

お遊びの大会にしてはみんな技術的に手抜きのない演技をしていたのが目を引いた。安藤美姫さんなどはエキシビション用のプログラムにも関わらず律義にキャメルスピンでのチェンジエッジなどという小技を採り入れていた。浅田舞さんはフリップを跳んでいた。NHK杯から全日本にかけてやや不調だったので心配していたけど、だいぶ調子を取り戻してきたようで一安心。

テレビでは前半と後半の間に放送された荒川静香さんはスパイラル姿勢からトリプルトウループ–トリプルトウループのコンビネーションを跳んでみせた。プロになっても技術のレベルを維持しているのは本当に素晴らしいと思う。真央ちゃんと合わせてアイスショーで女性スケーターのトリプル–トリプルのコンビネーションジャンプが二回も見られるなんて日本でなければあり得ないな、と感嘆した。

その浅田真央ちゃんが最後に跳んだアクセルは見ていて「あれ?」と思いつつも「まさか」と頭の中で打ち消してしまったのだけど、やはりトリプルアクセルだったようだ。競技会だったらおそらく回転不足をとられたのではないかと思うけど、演技の終盤に軽々と跳んでしまうとはやはりただ者ではないと再認識した。


スターズ・オン・アイス

テレビ東京の放送は余計なVTRもなくさくさくと進んで快適だったのだけど、前半は演目がややおもしろくなかったように感じた。アメリカでやっているものをそのまま持ってきたのだろうけど、もっと日本の観客を意識した演出を施すべきだったのではないだろうか。特に伝説のバンドとかいう演目はアメリカのポピュラー音楽に疎い私には何のことかわからず退屈してしまった。

そんなこともあって、また日本のゲストスケーターたちは地上波で放送されていたのでBSでの放送はノーカットでやるとわかっていたのだけど見逃してしまった。そしたら地上波ではカットされていたサーシャ・コーエンさんのもう一つの演目「Anytime, anywhere」が放送されたということを後で知りかなり後悔…。しかしそれはともかく久しぶりにサーシャの演技が見られたのはうれしかった。

やはりこの人の演技はいつ見ても美しい。競技で見る時にくらべて適度にふっくらしていることでより女性らしさが感じられたような気がする。実況アナウンサーは競技への復帰にも意欲を見せていることを伝えていた。技術の進歩が著しい女子のフィギュアスケート界にあって彼女が競技者として今後どの程度やっていけるのかは正直よくわからない。しかしもし本当に戻ってきてくれるのならまた心から応援して上げたい、そう思わせてくれるショーでの演技だった。


なお「Anytime, anywhere」はサラ・ブライトマンさんによる「アルビノーニのアダージョ」の翻案であり、申&趙組もこの曲を元にした歌で演技していた(こちらはおそらくララ・ファビアンさんによるヴァージョンだと思う)のでこの日は実質同じ曲で二つのプログラムをやっていたことになる。そのあたりのすり合わせは事前に行わないのかな、と疑問に思った。

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川嶋勝重 タイトル奪取ならず

2008年1月14日

WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチは横浜文化体育館で行われ、挑戦者の川嶋勝重はチャンピオンのアレクサンドル・ムニョスに3-0の判定で敗れ、王者への返り咲きはならなかった。

ハードパンチャー同士の対戦で一瞬も目が離せない試合。川嶋がすでにそのキャリアの下り坂にある選手であることを考えると無謀とも言える挑戦だったが、始まってみると予想外の接戦になった。王者は減量がうまくいかなかったようで動きの切れがない。序盤はほぼイーブンの立ち上がりだったが4Rに川嶋の左ボディーが当たり始めると王者が嫌がって下がるシーンが目につくようになる。その後も要所でハードヒットを加えるが、どうも9Rくらいでスタミナ切れを起こしてしまったらしく、最後の詰めが決め切れない。苦しい表情を浮かべながらも細かいパンチを当てる王者に対し圧倒的な優位に立つことができなかった。

判定には納得のいかないところもある。おそらくムニョスの手先だけの細かいパンチを評価して手数で上回ったと判定した結果なのだろうが、ハードヒットでダメージを与えていたのは明らかに川嶋の方だった。それはともかく内容は素晴らしい試合だった。ここ数年で見た中では最もエキサイトした試合だったと思う。終了後に引退を宣言したそうだけど、圧倒的不利と言われた中で最後にこれほど素晴らしいファイトを見せてくれた川嶋を心から称えたい。


なお川嶋の入場のテーマ曲として使われたのはヴァネッサ・メイさんのヴァイオリンによる「ジョニーがいなくてがっかり」。原曲はスコットランドの民謡で(千葉ロッテマリーンズのファンの心情を代弁した歌ではない)、マックス・ブルッフの「スコットランド幻想曲」の第3楽章に用いられたことでも知られる歌である。先日の長谷川穂積の防衛戦に引き続きボクシングのタイトルマッチでケルトの音楽を聴くとは思いがけないことだった。

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ブラジル先住民が伝えた歌 続報

2008年1月13日

昨年の7月にブラジルの先住民族が突然姿を現して二曲の歌を残し去っていったというニュースが伝えられ、このサイトでも取り上げたが、その後この報を伝えた朝日新聞が12月28日の朝刊に続報を掲載した。話題の主であるメチキチレ族とはカヤポ族の一グループだが、文明と共存して生きる道を選んだカヤポ族とは異なり文明との接触を絶って今も森に暮らす部族である。

メチキチレ族は5月末、カヤポ族の村カポに現れた。最初に姿を見せたのはリーダーの男だった。メチキチレ族との仲介役を務めたメガロン・チュカハマエさんによると「彼らはひどくおびえていた」。村ではしきたりに従って焼き魚やバナナ、芋を贈った。危険はないと知ったリーダーは歌うような声で仲間を呼び、男女計87人に脹れあがった。

チュカハマエさんの前で突然、彼らは歌い始めた。彼らは開発で住みかをなくし、行き場がない窮状を訴えた。村人たちは「里帰り」の受け入れを決め、祝いの食事の準備を始めた。その時一機の小型機が静けさを切り裂き、低空を飛んだ。国立インディオ基金(FUNAI)の飛行機だった。パイロットが部族の出会いがうまくいっているかどうかが気になって近づいたらしい。驚いたメチキチレ族は森に走り去った。


ブラジル政府にとってアマゾン流域は開発の対象であり、経済振興の上でインディオは長らく邪魔な存在とみなされた。そのくらしと文化を保護する公的機関としてFUNAIが設立されたのは67年。参政権や土地所有権を認められたのは73年だ。いまは保護区であれば一般人が入ることは厳しく規制されていある。しかし広大な国土を綿密に監視するのは困難で、保護区に伸びる乱開発の波を防ぎ切れていないのが現状だ。

朝日新聞2007年12月28日朝刊より要約して引用

ウェブ上で公開されていた彼らの歌を聴いて、意味は全くわからないながらも何とはなしに物悲しさを感じたのは彼らの置かれている窮状ゆえのことだったのだろうか。彼らが今どこにいるかはチュカハマエさんにもわからないそうで、それを思うと胸が痛む。

その一方で保護区に隣接する町コリデルには保護区から出てきた多くの若者が暮らし、カヤポ族の村祭りの踊りや歌をディジタル映像で保存する活動も行われているということに興味を惹かれた。ブラジル先住民出身の青年がPCを操る姿は奇妙な取り合わせに見える。しかし文明社会の住人たちの表現の自由を飛躍的に増大させたネットワーク技術が、アマゾン奥地の森の民の文化を保存し彼らの姿を世界に伝えることにも役立つとしたら素晴らしいではないか。

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長谷川穂積 判定で5回目の防衛

2008年1月10日

WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦は大阪府立体育会館で行われ、チャンピオンの長谷川穂積が挑戦者のシモーネ・マルドロットを3-0の判定で下し5回目の防衛を果たした。バンタム級での5回連続での防衛はファイティング原田さん、薬師寺保栄さんを抜き日本人最多記録となった。

長谷川は序盤2Rで右目の上を切り、サウスポーへのスイッチも織り交ぜた幻惑的なスタイルとうまくかみ合わずやりずらそうな印象。それでも持ち前のスピードとテクニックで終始優勢に試合を進め、危なげなく判定での勝利を収めた。8R終了後にそれまでの採点が発表され、挑戦者は倒すしか勝つ方法がなくなったがあまり無理して攻める様子がなくやや物足りなかった。しかし最終12R終了直前には両者足を止めての打ち合いを見せて試合を盛り上げてくれた。試合終了のゴングが鳴るとマルドロットが軽く挨拶代わりに長谷川の頭をこづき、その後互いに健闘を称え合う姿がすがすがしかった。

長谷川が入場のテーマ曲にエンヤさんの「ONCE YOU HAD GOLD」(アルバム「THE MEMORY OF TREES」所収)を使っていたのも印象に残った。戦いを前にして聴くのにこういう静かな音楽を選ぶ感性に共感を覚えた。

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桑田真澄投手 パイレーツに復帰

2008年1月 9日

桑田真澄投手が8日、自身のブログでパイレーツと昨シーズンと同じ条件で契約したことを明らかにした。また今年も球春が楽しみになる。今度こそは怪我などアクシデントなく開幕を迎えて欲しいものだ。

このニュース、今日になって各メディアも扱っているけどソースはこの桑田投手のブログである。ファンもマスメディアも全く同じ立場で情報を手にしていたことになる。ネットワーク技術によってマスメディアを介さずにファンがアスリートから直接メッセージを受け取る時代になったんだな、とあらためて認識した。すでにこういうことはめずらしくなくなっているのだろうけど、自分ではこれまであまり経験したことがなかったので新鮮な感慨があった。

情報を入手するのに特権的なブローカーを介する必要がなくなっていくというのはまことに気分がいい。ネットワーク技術の進歩がもたらした喜ばしい効用である。その一方で既存のマスメディアはこれからどういう方向に向かっていくのだろうか。まあ私が心配することではないけれど。

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「新世界」

2008年1月 6日

作詞:本田美奈子. 作曲:アントニン・ドヴォルザーク 編曲:井上鑑
シングル「新世界」COCA-15673(2004.05.19)、アルバム「」COCQ-83683(2004.11.25)所収。ベスト・アルバム「クラシカル・ベスト〜天に響く歌〜」COZQ-255,6(2007.04.20)にはこの音源とともにNHK交響楽団と共演した際のライヴ映像が収録されている。

本田美奈子さんの楽曲の中で新年に相応しいものを、ということで今回は「新世界」を選んでみた。原曲はアントニン・ドヴォルザーク(“ドヴォジャーク”という表記が原語の発音に近いらしいがここでは慣例に従っておく)の交響曲第9番「新世界より」、言わずと知れたクラシック音楽屈指の名曲である。ニューヨークのナショナル音楽院の教授に招かれてアメリカに渡ったドヴォルザークがアメリカ国民音楽の創成の礎となることを意図して作曲した作品で、ここで彼は現地の黒人音楽などに啓発を受けながらも、同時に故郷ボヘミアの音楽の特徴も織り交ぜて心踊らせる魅惑的な音楽世界を築くことに成功している。

美奈子さんが歌っているのは第2楽章で、美しい情感溢れる名旋律によりこの曲の中でも特に広く親しまれている楽章である。この楽章を歌曲にすることは古くから行われていて、1922年にドヴォルザークの弟子フィッシャーが「Goin' Home」という題の英語詞をつけて歌曲としたのものが有名になり、一時はドヴォルザークの方がこの歌曲を引用したという誤解が生じたほどだという。日本では堀内敬三作詞の「家路」(1932年頃)が有名で、「遠き山に日は落ちて」で始まる歌詞は広く親しまれている。あまり知られていないが野上彰も「家路」という題で詞をつけている(年代不詳)ほか、宮沢賢治も1924年に「種山ヶ原」という題の詞をつけているのだという。

美奈子さんが歌っているのはこれらのいずれでもなく、自身で新たに書き下ろした日本語詞である。「時は待たず 過ぎてゆく」というフレーズで始まる、“時”を主題として歌っていると推量されるその歌詞は、収録されたアルバムのタイトルなどとともに晩年の彼女がこの主題にいかに強い関心を寄せていたかを物語っている。途中の「消える心 持つならば/実る心 与えよう」という箇所などは難解で、美奈子さんは何を伝えようとしたのだろうか、と考えさせられる。


美奈子さんは2004年8月29日に行われた『N響ほっとコンサート』に出演した際に、岩村力さん指揮のNHK交響楽団との共演でこの「新世界」とガブリエル・フォーレの「シシリエンヌ」を歌っている。その時の模様はNHKの教育テレビ『N響アワー』で放送されたのだが、私は当時たまたまこれを見ていた。その前の週の放送を何も知らずに見ていて、最後に池辺晋一郎さんが「来週は歌手の本田美奈子さんが…」と話し始めたのに驚嘆したものだった。翌週の放送では二曲の歌声を堪能することができた。美奈子さんが歌っている姿を映像で見るのはそれこそ十数年ぶりだったけど、以前にも増して美しいその姿に陶然となって見つめていたのはよく覚えている。ファン歴に大きな空白のある私にとって数少ないリアルタイムでの美奈子さんの思い出である。

国内最高のオーケストラの一つであるNHK交響楽団との共演は美奈子さんのキャリアの中でも記念すべき出来事と言っていいだろう。フル・オーケストラの伴奏で聴く美奈子さんの歌声はまた格別である。もう少し長く生きることさえできれば世界のトップ・オーケストラと共演する機会にも数多く恵まれただろうと思うとあらためてその早過ぎる逝去が惜しまれてならない。

美奈子さんはこの二曲を“振り”つきで歌っていた。「新世界」の方はそれほどでもないが、「シシリエンヌ」はクラシックのコンサートとしてはいささか過剰とも思えるほどで、私も当時少し違和感を覚えたものだった。逝去後に一部で“おばかなダンス”などと揶揄されてもいたが、あの「1986年のマリリン」の振り付けで名を馳せた美奈子さんとしてはやらずにはいられなかったのだろう。今はそんなところさえ愛おしく感じられる。


この時の「新世界」の方の映像は昨年4月に発売されたベストアルバム「クラシカル・ベスト〜天に響く歌〜」に付属のDVDに収録された。すっかり忘れていたのだけど、これを見て編曲が大島ミチルさんだったことにあらためて気づき感慨を深くした。大島さんは現代の日本の映画やドラマの伴奏音楽の第一人者であり、吉永小百合さんの原爆詩の朗読の伴奏などでも活躍されている。ちょうど美奈子さんの亡くなった年、2005年の紅白歌合戦で詩を朗読する小百合さんの傍らでオルガンを奏でる美しい姿をご記憶の方も多いだろう。

この(容姿もその音楽も)美しい女性二人のコラボレーションがこうした形で実現していたことは感慨にたえない。と同時にこうした機会がもっと多くあれば、という叶わぬ願いにもとらわれてしまう。大島さんの衒いのない素直で品格の高い音楽世界は美奈子さんの伸びやかな歌声を支える伴奏としてまさに打ってつけだったはずで、彼女のアレンジによるオーケストラ版での美奈子さんの歌声をもっと数多く聴きたかった。


この「新世界」は新たな年の始まりに穏やかで平和な一年を願いつつ聴くのに好適な一曲と言えるだろう。美奈子さんの歌声で聴くこのクラシック音楽屈指の名旋律は聴く者に豊かで芳醇な時を与えてくれる。晩年の美奈子さんがきっと探り当てていたであろう時の秘密に思いを馳せながら、この音楽に浸る幸せを少しの悲しみとともにかみしめたい。

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新年のご挨拶

2008年1月 1日

新年明けましておめでとうございます。年はあらたまりましたがまたこれからもアーティストやアスリートへの愛を私なりに訥々と語っていきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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