「旧友再会」

2011年4月17日

作詞・作曲:河島英五

日付が変わってしまったが、昨日16日は河島英五さんの十年目の命日だった。突然のことであの時は本当に驚き、悲しみにくれたものだった。河島さんは確かその年の初めくらいに八代亜紀さんとの共演でTV番組に出演していた。その後に病気に罹り入院していたらしいのだが、そのことを私は知らなくて、TV出演時の元気な姿が印象に残っていたので、訃報を聞いてもすぐには信じられなかった。


私が河島さんのことを知ったのは「時代おくれ」がヒットしたのがきっかけだったが、この歌や「酒と泪と男と女」のような有名曲が歌謡曲風の叙情をたたえた作品なので、はじめ私は演歌に近いところから出てきた人なのかと勘違いしていた。そうではなくて生粋のフォーク歌手なのだということはかなり後になって知った。

しかし例えばアメリカのピート・シーガーさんだったりピーター・ポール・アンド・マリーといったような歌手たちの影響を感じさせるよりも、流しの演歌歌手をやっていたとでも説明された方がしっくりくるような親しみやすさがある。それでいて歌で時代の現実と切り結ぶようなフォーク歌手としての魂をしっかりと堅持していた人で、そんなところを私はとても敬愛していた。男くさく、そしてやさしく温かい人柄から、勝手に理想の父親像として思い描いていたりもした。


河島さんは入院後一時は快復して、長女の河島あみるさんの結婚式に出席し、ライヴにも出演していた。驚くことに亡くなる二日前の14日にもトークショーを兼ねたライヴを行っている。この時の音源は2枚組のライブ・ベスト・アルバム「河島英五 LAST LIVE」にDISC2として収録されている。さすがに声にやや力がないように感じられるのだが、それでも、これが臨終を間近に控えた人のパフォーマンスなのか、と驚き呆れるほどの歌を披露している。

この時最後に歌ったのが入院中に作ったという「旧友再会」である。旧友との再会を喜び、わざわざ訪ねてきてくれた旧友に感謝するという、シンプルながら心を打つ作品である。仕事で滞在していた静岡から急遽駆けつけて最後の一曲だけどうにか間に合ったあみるさんのアコーディオンとも共演している。このような歌で歌手人生の幕を閉じるというのは、いかにも河島さんらしい気がする。


なお、ご家族や友人たちでこの歌の新録音を行ったことを、次女の河島アナムさんがブログで報告している。

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「すべてが変わるだろう」再び

2011年4月 6日

日本語詞:岩谷時子 作詞:P. Delanoë 作曲:M. Fugain
アルバム「JUNCTION」(1994.09.24)所収。

東日本を襲った未曾有の大震災から早くも三週間あまりが過ぎた。しかし被災地では今なお苦しい避難生活を強いられていることだろう。一日も早い復興が待たれるところである。

しかしこの場合の“復興”とは、日本を元の姿にそのまま戻すということは意味しないだろう。:原子力発電所で起きている事故が、これまで私たちが享受してきた便利で快適な生活はそのリスクを一部の地域の人たちに押しつけることによって成り立っていた、という事実を否応なくあぶり出しているからだ。これ以上そんないびつな状況を放置し続けることが許される道理はないだろう。

それは単純に原子力の利用を停止ないしは抑制して従来の火力を主体とした電力に切り替えればいい、ということではない。温暖化への対策もまた同様に喫緊の課題であるからだ。代替エネルギーの技術開発はもちろんだが、過剰な電力の利用に依存した私たちの生活スタイルや価値観の見直しも必須だろう。深夜にコンビニエンスストアが煌々と灯りをつけて営業している便利さは、私たちの幸せな暮らしになくてはならないものなのか。冷え性の女性が真夏に過剰な冷房への対策に防寒用の上着を持ち歩かなければならないような状態を、“快適”といえるのか。

かねてから環境やエネルギーの問題に高い関心を寄せていた音楽プロデューサーの小林武史さんは今回の震災を受けて、環境や平和など様々な活動に携わる田中優さんと対談した。この緊急企画でもやはり、「必要なのは“元通り”にすることではなく、“よりよい仕組みを作る”こと」とテーマが設定されている。


昨年の1月に本田美奈子さんの歌う「すべてが変わるだろう」の感想を書いたが、その時「新しく生まれ変わることは避けることができない運命にあるといっていいだろう。世界も、そして私自身も」と述べたことを、今思い返している。事態がまさに切迫している中にあって、そうした認識はより多くの人に共有されてきているように見える。

このような破局的な事態に立ち至るまでそうした機運が盛り上がらなかったということには、いささか忸怩たる思いもある。2008年4月に松任谷由実さんと対談した際に「意地の悪い見方かもしれないけど、もっと痛い思いをして、悲鳴を出さないと日本は変わっていかないかなとも思います」と述べていた小林さんも、今の状況を痛切な思いで見つめているのではないかと推察する。

しかしともかく、今私たちが新しく生まれ変わるチャンスに面しているのは確かである。時間はかかっても、あの大震災を経てこんなに素晴らしく生まれかわったと犠牲者の方たちにいつか報告できる、そんな日本になって欲しい。いや、ぜひともそうしなければならない。でなければこれほど多くの喪われた生命に申し訳が立たないではないか。

あの時私は「ここに歌われているような未来への無邪気な信頼は、私の心境からはあまりにも遠く懸け離れてしまっていた種類のもの」だと述べた。しかし今、賢しらな失望や諦念などかなぐり捨てて、美奈子さんが「すべてが変る」「今夜人生 すばらしいね」とやさしく歌うこの歌に、虚心に耳を傾けたい。

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「ここは素晴らしい」

2011年4月 1日

今日4月1日はセルゲイ・ラフマニノフの生誕138周年に当たる。それを記念して歌曲を一つ紹介してみたい。「ここは素晴らしい」Op.21-7は1902年4月に、女流詩人グラフィーラ・ガーリナの詩に作曲された。結婚を間近に控えたラフマニノフが妻となるナターリヤに献呈した作品である。

ラフマニノフというと深い憂愁をたたえたメランコリックな曲想を思い浮かべる人も多いと思うが、透き通るような静かな喜びに溢れた作品も多く残している。この「ここは素晴らしい」などはその典型例といえるだろう。世界の美しさへの賛嘆とそれに包まれる喜びを優美な旋律に乗せて歌う、至福に満ちた作品である。

以下に紹介する動画はソプラノの中村初恵(@hanyachika)さんによる、心のこもった美しい歌唱である。



こんな静かで澄み切った平穏な幸せが早くみんなの心に訪れますように。

ここは素晴らしい

ここは素晴らしい
ご覧、遠くで川が燃えるように輝いている
草地は色柄の絨毯のように横たわり
雲は白くたなびく
ここには誰もいない
ここは静か
ここにいるのはただ神と、私
花々と年老いた松
そしてお前、私の夢

追記(2013年4月1日)

当初掲載していた動画が非公開になったため別の新しいものに差し替えた。

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