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第6回アイドル楽曲大賞2017

2017年12月 4日

アイドル楽曲大賞に今年も投票してみた。


メジャー部門

寺嶋由芙「天使のテレパシー」


今年リリースされた三部作の第一作。三曲とももちろん好きだけど、あとの二曲は歌詞が心にグサグサ刺さるので、心穏やかに聴けるこの曲を選んだ。レヴューは以前書いた通り。


Party Rockets GT「キミと見た空」


青春の感傷をさわやかに歌い上げた好曲で、今年特に好きになった曲の一つ。シングル「START!!」のカップリング曲だけど、こちらがタイトル曲でもよかったのではないかと思う。人気メンバー二人が卒業することになる彼女たちの、現体制の記念碑ともいうべき一曲。


SUPER☆GiRLS「スイート☆スマイル」


久しぶりにスパガらしい良曲を聴いたな、という感慨を抱いた。歌詞も曲調も明るいのに、聴いていてなぜか切なさがこみ上げてくるところがいい。幸愛ちゃんとなぁぽんのダブルセンターという配役がスパガの未来を切り開いてくれることを願って。


STU48「瀬戸内の声」


郷土愛を美しく歌い上げていて感銘を受けた。各地方に拠点を置いて活動している48グループの利点が生きた一曲だと思う。


Flower Notes「恋花」


4曲はすんなり決まって、あと一曲をどうしようか迷っていた時にこの曲がエントリーされているのに気づいて意外の感に打たれた。コロムビアのアイドルレーベル“LABEL THE GARDEN”からの第一弾となるグループ Flower Notes のデビュー曲だが、エース格と目されていたあいねってぃこと藤井愛願さんがあっけなく卒業してしまったのもあって、この曲のリリースが遠い昔のことのように思える。“花の音符”というグループ名がまず素敵だし、それに絡めたMVの作りもハイセンスで好印象。それもこめてこれを選ぶことにした。メンバーの卒業という転機も乗り越えて、後続の姉妹グループともども活躍の場を広げていって欲しい。


インディーズ部門

アイドルネッサンス「前髪」


“名曲ルネッサンス”をコンセプトに活動してきたグループが満を持して発表したオリジナル曲。提供した小出祐介さんのアイドルネッサンスへの並々ならぬ思い入れはメンバーたちとの対談記事からも窺い知れる。外部の楽曲提供者が対象のアーティストについてここまで深く考えて作品を創るというのもなかなかないことではないだろうか。今年のアイドルシーンを象徴する楽曲の一つだったし、今後の彼女たちにとってアンセム的な存在に育っていくことと思う。


Fullfull☆Pocket「キミトシル」


Fullfull☆Pocketらしいエモーショナルな一曲。こちらも初期メンバー二人が卒業することが発表されて、この曲はその忘れ形見のような存在になっていく定めにある。


転校少女歌撃団「ときめけ☆アフタースクール!」


自分がふだん好んで聴くのとはややテイストの異なる楽曲だが、なぜか不思議と耳について離れなくなった。


AIS「こいしょ!!!」


アイドルネッサンスの妹分のAIS。この曲はおはガールちゅ!ちゅ!ちゅ!のカヴァーだが、初期から中心的なレパートリーとして歌っていて、すっかり板についている。


ぜんぶ君のせいだ。「無題合唱」


現体制による新録音。この曲は前回も投票したばかりなのでほかを選ぼうかとも考えたのだが、この甘い感傷の誘惑には抗い難かった。


なお、メジャー、インディーズともにここに記載した順序で投票したが、ポイントは全て一律に2.0をつけた。


アルバム部門

今回も不参加。


推し箱部門

寺嶋由芙さんに投票した。


番外

橘ありす(CV:佐藤亜美菜)「in fact」


「アイドルマスター シンデレラガールズ」に登場するキャラクターの一人、橘ありすのソロ曲で声は元AKB48の佐藤亜美菜さんが担当している。最初に発表されたのはもう二年も前になるようだけど、音ゲーに実装されたのは今年のことなので、今年特に印象深かったアイドル楽曲の一つとしてここに記しておくことにする。作詞・作曲はシンガーソングライターとして今をときめく藤田麻衣子さんで、まさに“麻衣子さん節”とでもいうほかない独自の作風に心惹かれる。

今年のアイドルシーンで起きた大きな出来事に、 Dorothy Little Happy の白戸佳奈さんの卒業・引退があり、ドロシーはついに高橋麻里ちゃんのソロプロジェクトになってしまった(ドロシーとミライスカートがソロプロジェクトになるなんて、今年初めの時点でいったい誰が予想できただろう?)。そんな麻里ちゃんが決断した新たな一歩が声優業への挑戦だった。いま名前を挙げた佐藤亜美菜さんがインターネットの配信番組で今が「人生で一番楽しいです」と話しているのを聴いて、いい決断をしたんだな、と感じさせられたのだが、麻里ちゃんにもそんな未来が待っているといいな、と願わずにはいられない。そしていずれ声優として大成した暁には、井上喜久子さんの17歳教に対抗して例の“15+◯歳”というのを声優界にはやらせて欲しい…、なんて思ったり。

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寺嶋由芙さん「知らない誰かに抱かれてもいい」

2017年11月16日


寺嶋由芙さんの今年3枚目となるシングル「知らない誰かに抱かれてもいい」が今月8日にリリースされた。「天使のテレパシー」「私を旅行につれてって」に続く三部作の最終作となる今作のタイトル曲は、まず何よりも正統派アイドルにあるまじき刺激的なタイトルに目を瞠る。9月にタイトルが発表された時はゆふぃすとの間に衝撃が走ったが、プロデューサーの加茂啓太郎さんはその狙いを「清純派と思われてるアイドルがショッキングな歌詞でブレイクするという事例を踏襲したんです」と説明していた[1]。おそらく山口百恵さんの「ひと夏の経験」のようなものを念頭に置いているのだろうと想定されたが[2]、この戦略にはなかなか平静ではいられなかった。というのも私はかつて「1986年のマリリン」や「Sosotte」の路線でそれまで好きだった本田美奈子さんから離れてしまったという前歴があるからだ。美奈子さんが亡くなった時、そのことをどれほど悔やんだかは言葉には尽くし難いものがある。ゆっふぃーを推すようになって以来、有り難いことに気持ちが離れるような危機もなく、幸せなヲタク生活を送ってこられたけれども、今作のリリースは私にとってゆふぃすととして結構な試練になることを覚悟しなければならなかった。

そんなわけでリリースイベントでの初披露の模様をかなりの緊張感を以て配信で見守ったのだが、実際に聴いてみると、奇抜なタイトルとは裏腹に中身は真っ当な失恋ソングという印象だった。前作「私を旅行につれてって」では全く無防備な状態で“それ以上”というキラーフレーズの不意打ちを食らったからショックが大きかったけど、今回はタイトルでまず打ちのめされたから、曲を聴いてさらに心を抉られるということはなかった。タイトルと同じフレーズはサビで歌われるが、恋人の心変わりに直面した女性のいじらしい反論として理解可能な文脈に収まっている。

むしろそれ以上に強く印象づけられたのは締め括りの「頭がいいのに バカ バカ バカ」という捨てゼリフだった。これを聴いた時のくすぐったいようなむず痒いような感覚は、曰く言い難いものがある。ゆふぃすとにはそれなりの高学歴者が多そうだと見越しての戦略もおそらくあるのだろう。私信といってはおこがましいけど、私のような聴き手が感情移入しやすいように作ってくれているのだろうな、というのは感じる。ゆっふぃーは実際にはたとえ売り言葉に買い言葉的な状況でも「知らない誰かに…」みたいなことはいわない人だと思うけど、「頭がいいのに」云々には妙なリアリティーがある。繰り返し聴いていると、推しと痴話喧嘩をしているような感覚に陥ってくる。

この問題含みの際どい歌詞を手がけたのはいしわたり淳治さんで、「私を旅行につれてって」に続く起用となる。加茂さんは「作詞家の最高のポテンシャルを引き出せた」と手応えを口にしていたが[3]、正統派のアイドル楽曲としてぎりぎり成立する境界を攻めた意欲作といえるだろう。ゆっふぃーは「いや嬉しかったですね、こういう曲を歌いたかったので」と話しているが[4]、大人の失恋ソングが歌いたいという望みはかねてから口にしていたことでもあり、まさに念願叶った一作ということになる。

作曲は藤田卓也さんで、コンペで70曲の中から選ばれたという。愁いを帯びたAメロから未練のうちに逡巡するようなBメロを経て決然としたサビへと至る展開が、ショッキングな歌詞によって綴られるドラマを的確に曲に映し出している。特にサビは同音反復が多いのに、平板な印象を与えずに劇的な効果を演出しているのが見事で、どこかベートーヴェンを彷彿とさせる。

最後に“バカ”と連呼する箇所に関して、詞が先にないとメロディーがこういう終止にはならないのではないか、ということを聴いた当初から感じていたのだが、はたしてこの曲は詞先で作られたことが明らかにされている。加茂さんによると自身の発案に加え、ヤマモトショウさんからの提言もあってのことだという[5]。ショウさんは自身のブログでもフィロソフィーのダンスのアルバムに絡めて詞先の意義を語っているが[6]、ゆっふぃーがMCを務めるテレビ番組「japanぐる~ヴ」のインタビューで松本隆さんも、近年は曲先が圧倒的に多くて詞先で曲を作る技術が継承されてきていないことへの懸念を表明していた。加茂さんが「業界の安易な慣習へのアンチテーゼにもなってます」と述べていた[7]のもそのあたりを意識してのことかと思われるが、業界でもめずらしいという詞先でのコンペという方式で作られたこの曲は、そうした意味でも価値ある挑戦だったに違いない。

タイトル公表時から謳われていた“1990年代前半のJ-POPを彷彿とさせるメロディー”というコンセプト[8]については、私の90年代の音楽についての知識に偏りがあるのか、実際に聴いてみてそういう印象はあまり受けなかった。藤田さんは大江千里さんに強く影響されているそうなのだが[9]、大江さんは「格好悪いふられ方」で爆発的にブレイクしたのは1991年だったものの、それ以前からすでに広く知られた存在だったので、私にはどちらかというと80年代の人というイメージが強い。ただ、イントロがちょっと古めのトレンディドラマの主題歌みたいだなという印象はあって、渋谷系とかビーイング系、小室サウンドといった系統のどれかに括るのは難しいけど、確かにあの時代の雰囲気をどこかに湛えているという気はする[10]

その印象的なイントロを含め編曲を手がけたのはrionosさん、ゆっふぃーにはおなじみの存在である。若さに似合わぬ熟練の手腕によって、曲のドラマティックな性格がより際立たせられている。

ゆっふぃーは幾分背伸びした感のあるこの曲で、他の曲よりも落ち着いたトーンで大人びた歌唱を聴かせている。特にブリッジ的なパッセージで、ポルタメント気味にやや音を下げながら「忘れないでね ずっと」と消え入るように歌うところは絶妙で、切なさや哀しさ、そしてこういってよければ少しの怖さをかき立てられる。

Shoさんによる振付けはなまめかしい手の動きが特徴的で、“知らない誰か”の愛撫や抱擁をほのめかしつつ曲の世界を際どく表現している。落ちサビで手を引っ張られるような動きもヒロインの未練を表しているようで、大きなアクセントになっている。

“トレンディドラマの主題歌”という印象はMVの監督を務めた荒船泰廣さんも抱いたようで、MVもまさにそうした感じの作りになっている。荒船さんは今年の前二作に続く起用となるが、春の出会いから夏の旅行、そして秋の別れという恋の展開を三部作として描き出している。印象的なのは最後のシーンで、恋人にバカと言い放って走り去るヒロインが、朝食のパンをくわえて道を急ぐ姿と重ねられている。三部作の最初のシチュエーションへと回帰するこの構図は、長い黒髪と一緒に失恋の痛手を振り捨てたヒロインが、また元の日常を取り戻して前に進もうとしていることを暗示している。

ジャケット写真もおなじみとなった大川晋児さん、三形態それぞれ違ったテイストでゆっふぃーの魅力を引き出している。特に初回限定盤A、ゆっふぃーがボブがこんなに似合うとは知らなかった。ケース裏の埠頭にコート姿で佇むゆっふぃーも、長身が夕闇に映えて心惹かれる。

衣装は大人っぽさを意識しながらも、むしろシックなデザインで曲の危うい雰囲気とは対照をなしている。“伊勢丹の紙袋”などと揶揄されたりもしたが、緑を基調とした色合いは、タイトルに衝撃を受けたゆふぃすとの心を少しでも平穏にしようという効果も狙って選ばれたものと思われる。腋が大きくあいているのはゆっふぃー自身の発案だそうで、さすがにヲタクの喜ぶツボをよく心得ている。



カップリングの「世界で一番かわいい君へ」は一転して幸福感に溢れる明るい楽曲で、ゆっふぃーのゆるキャラへの一途な愛を歌っている。とはいえ聴く人それぞれが自分の“世界一かわいい君”に重ね合わせることができるように作られていて、ゆっふぃー自身「みんなはゆっふぃーだと思って聴いてくれる曲にしてほしい」と述べているので[11]、ゆふぃすととしては当然そのつもりで聴くことになる。

作詞は先に名前の出たヤマモトショウさんで、「なにもできないくせに」「なにもいわない君」「雨はにがてなくせに」とゆるキャラの特性を的確にとらえた文言が迫真のリアリティーを生み出している。作曲の芦沢和則さんは「終点、ワ・タ・シ。」のコーラスアレンジを手がけた方で、多面的な音楽性の持ち主なのだろう。フィロソフィーのダンスではブラックミュージック寄りの楽曲[12]を提供してもいて、加茂さんの「職業作家としてプロだから、良い意味で作家性がない」という評言[13]からは筒美京平的な才能が窺われる。

編曲の小佐井彰史さんについては私は知識がないのだが、rionosさんのコーラスをフィーチャーしていることが特筆される。先月「ハシタイロ」[14]で歌手としてもデビューを果たしたrionosさんの美声をOff Vocalヴァージョンで堪能するのもまた一興である。その歌手デビューというのが実はゆっふぃーのソロデビュー曲として提供した「#ゆーふらいと」が招き寄せた幸運だったそうで[15]、二人の運命的な縁を感じさせる。


もう一曲のカップリング「好きがはじける」はミナミトモヤさんの作詞・作曲で、「好きがはじまる」「好きがこぼれる」に続く“好きがシリーズ”の第三作である。過去二作はともにライヴで映える人気曲で、今作もゆっふぃーのレパートリーの中で切り札的な存在に育っていくに違いない。ミナミさんも最初期からゆっふぃーの楽曲制作に携わってきた一人だが、「今度はどこにも行かないから」とゆっふぃーの側からのマニフェストを歌ったのが「ほら みて/わたしはここにいるでしょ!」「ほら 来て/みんなもここにいるでしょ!」とヲタクへの呼びかけを含むものになり、今回は逆に「キミだ!決めたんだ!」「やっぱり キミなんだ」とヲタクの心情を歌っていると思われるものに遷移している。この移り変わりにゆっふぃーとゆふぃすとが積み重ねてきた歳月の重みが表れている気がする。

編曲はこちらもおなじみ宮野弦士さん。本人のいう「眠れるロック魂が燃えたギターソロ」[16]もさることながら、サビのコード進行も素敵で胸がときめいてしまう。


かくしてゆっふぃーの2017年のシングルリリースは、ハッピーエンドとはいかなかったけれども、ともかく無事に完結することとなった。推しが出逢った彼と自己同一化することで病んでしまいそうなシチュエーションを乗り越えるすべをどうにか習得してきたゆふぃすととしては、二人の恋物語にようやく愛着も湧いてきたところで結末を迎えることには、一抹の寂しさがある。

実は、歌詞自体は最終的な破局に至る一歩手前を描いているようなので、MVを見るまでは、今回の大きな危機を乗り越えた二人が次作以降でさらに絆を深めていく、という展開もあり得るかと思っていた。しかしMVがああいう終結をして“おわり”のテロップまで出てしまった以上は、これで本当に完結なのだろう。それまでロジカルな思考しかできなかった彼が彼女の捨て身の反論にほだされて、三軒茶屋に行こうと思って草加にたどり着いてしまう彼女の謎思考[17]も許容できる度量を身につける、という展開もなかなか感動的だと思うのだが…。

しかしともかく、今作のリリースが私にとってトラウマと化してしまう事態はどうやら避けられそうなことに胸をなで下ろしつつ、来年以降の新たな展開を楽しみに待つことにしたい。


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2017年10月31日










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2017年9月30日










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最近の動画から

2017年8月31日

今月公開されたアイドル動画から印象的なものを二つほど。



“さや姉”こと山本彩さんは今のアイドル界を代表する名歌手といっていいだろう。艶のある声にハスキーなトーンが混じるのが堪らなく魅力的で、その恵まれた天分と豊かな歌心が、彼女を傑出したヴォーカリストに仕立てている。この「365日の紙飛行機」は朝ドラのテーマ曲として広く親しまれた曲だが、やはり歌い出しにさや姉のソロを起用したところに成功の要因があったのではないだろうか。AKB48名義の曲でありながら自身の持ち歌のようにしてしまっている貫禄が素晴らしい。



こちらはアイドルネッサンスが今月リリースした4曲のオリジナル曲のうちの一つ、「5センチメンタル」のMVだが、リリースした音源に映像を被せたのではなく実際に歌っているシーンを一発撮りした異色のMVである。校舎の屋上から校庭へと移動しながらアカペラで破綻なく一曲を歌い切っているところに彼女たちの実力のほどが窺える。この曲は石野理子ちゃんをリード・ヴォーカルに据えた構成になっているが、理子ちゃんも声に魅力のあるアイドルの代表格で、伴奏がないことでその魅力をより純粋に堪能できる卓抜なMVに仕上がっている。

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寺嶋由芙さん「わたしを旅行につれてって」

2017年7月20日


今月12日に寺嶋由芙さんのシングル「わたしを旅行につれてって」がリリースされた。今回はタイトル曲をコンペで発注したそうで、105曲の候補曲の中から選ばれたのが望月ヒカリさんによるこの曲だった。プロデューサーの加茂啓太郎さんによると80年代風の夏のイラストを見てもらって、それに合ったイメージの曲を、ということで発注したらしい[1]。おそらく構想の段階で既に大瀧詠一的な方向性が定まっていたのだろう。望月さんは新進の作曲家で、これがメジャーでは初仕事になるそうだが、実にさわやかなメロディーでこの注文に応えている。今回はサビから始まる構成ということもあり、一聴してすぐに陽光きらめく夏空のイメージが胸に広がってくる。

いしわたり淳治さんによる歌詞は恋人との旅行を前に揺れ動く乙女心をかわいらしく描いている。夏を直接イメージさせるような言葉は入っていないが、ゆっふぃーからは「夏のドキドキする感じをテーマに」という依頼をしていたそうだ。メロディーも含めて夏にこだわったのは、持ち歌も増えてきたことで、これまで避けてきた季節感の強い歌にもそろそろチャレンジしてみよう、という意図があったようだ[2]。ヲタクにとって衝撃的なのは2番の出だし、“きっとノーメイクも それ以上も見られてしまうね”というフレーズで、リリースイベントを配信で観て初めて聴いた時からすごい歌詞だな、と戦慄したが、何度聴いてもその度に心を抉られる思いがする。字面だけ見ると特にどうということもない言い回しなのに、ヲタクが勝手に色々と想像して病んでしまうというのはなるほどよく出来た仕掛けだ。

編曲はゆっふぃーにはおなじみのrionosさんで、クレジットの記載はないが演奏には宮野弦士さんがギターとベースで参加している[3]。作曲を公募した本作でも周りをいつもの面々が固めているのは心強く感じる。

ゆっふぃーの歌唱は、発声を少し工夫しているのか、声があどけない感じになっているのが印象的だった。初めはこの曲の曲調に合わせているのかとも思ったのだが、8日の生誕ワンマンライヴでは全曲そんな感じだったので、これが20代後半を迎えたゆっふぃーの新たなヴァージョンということなのだと思う。BiSに所属していた頃のゆっふぃーが吐息混じりの色っぽい歌声で曲にアクセントを与えていたことを思うと隔世の感があるが、年を経るごとに声が若返っていくとのいうはなかなか稀有なことに違いない。


「天使のテレパシー」に引き続き荒船泰廣さんが担当しているMVは、内容的にも前作の続編のような構成になっている。今作の見所は何といっても水着姿を披露していることで、ソロになってからのMVとしては初めてになる(ここに貼り付けたショートヴァージョンでは見られないが、フルヴァージョンが8月31日までの期間限定で公開されているほか、30秒のCM用ダイジェスト版でも一部を見ることができる)。短パンを履いているのでそれほど露出度が高い印象は受けないが、元々はもっと布面積の大きい水着を予定していたそうなので[4]、これでもゆっふぃーにしてはかなりのサービスということになるだろう。とはいえもっと水着シーンを大々的にフィーチャーしたアイドルのMVは数多くあるし、あんまりいうと申し訳ないけどゆっふぃーはそれほど見映えのする体型でもないので、大きなインパクトのある映像というわけにはいかない。それでも数多のセクシーなMVの中に埋もれないよう見せ方をうまく工夫して、控えめな露出ながらもアイドルヲタクの界隈を騒然とさせることには成功していたと思う。そうした奥ゆかしさといい意味での計算高さこそはゆっふぃーの真骨頂だろう。体型ということでいえば浴衣姿の折れてしまいそうな細さが可憐で、強く印象づけられた。演技に関しては雨宿りのシーンと最後の待ち合わせのシーンの表情の変化が自然で、演出の意図をうまく体現していてとてもいい。セリフはないのに会話が聴こえてきそうなこれらのシーンが全体を一つのドラマに仕立て、淡い色気と文芸性とが同居した秀逸なMVに昇華させている。

衣装はオードリー・ヘップバーンをイメージしたはずがバスガイド風になってしまったとこぼしていたが[5]、今作の旅行というテーマに添ったものになったので結果的によかったのではないか。青を基調にした色合いが砂浜でのダンスショットによく映えている。配信で最初に見た時にはスカートのテラテラした感じが些か安っぽく感じられて不満を抱いたのだが、MVを観て陽光きらめく海の水面をイメージしているらしいとわかり、得心がいった。

アイドルヲタクの間での話題作りにMVの水着シーンと並んで貢献したのは、濡れたTシャツにビキニが透けた初回限定盤Aのジャケット写真で、撮影の大川晋児さんはこちらも「天使のテレパシー」に続いての起用となる。このショットに限らず三形態全て、ジャケット裏やケース裏との表情の対照が見事で惹き込まれる。



カップリング曲「夏'n ON-DO」(通常盤と初回限定盤Bに収録)は怒髪天の増子直純さんによる作詞、上原子友康さんによる作曲の音頭である。これも加茂さんのアイディア[6]とのことだが、怒髪天はテイチクのレーベルメイトでもあり、前作の演歌「終点、ワ・タ・シ。」に続き老舗レーベルへの所属によって切り開かれた新境地ということになるだろう。音頭という情報だけ先に公表された時点では「イエロー・サブマリン音頭」的な奇抜なものになることも予想したのだが、実際に出来てきたのは極めて真っ当な、どこかの町の盆踊りで使われてもおかしくない正統的な音頭だった。実際にもアイドル現場を盆踊り会場に変えてしまう[7]、魔法のような曲である。

作詞の増子さんは合いの手として歌にも参加していて、“なんならスイカになりたいよ!”はヲタクの願望を代弁してくれているようで楽しいし、そう思って聴くと“ズッキンドッキン罪なヤツ!”も“それ以上”で抉られた傷に対して一矢報いようとしているかのようでもある。さらに曲を賑やかしているのはでんぱ組.incの成瀬瑛美さんで、えいたそのハイテンションな合いの手が入ると体感温度が数度上がったような感覚に陥らされる。ゆっふぃー自身の“たまや〜”“かぎや〜”のかけ声もチャーミングだ。

編曲は先に名前の出た宮野弦士さんで、「終点、ワ・タ・シ。」に続き川嶋志乃舞さんの三味線をフィーチャーしている。三味線のカラッとした音色が刻む小気味よいリズムが祭り気分をいやが上にも高めてくれる。8日のワンマンライヴではさらに和太鼓アイドルの桜りりぃさんが華を添えてくれた[8]のも楽しい体験だった。


もう一つのカップリング曲は早見優さんのカヴァー、「夏色のナンシー」である(通常盤と初回限定盤Aに収録)。この選曲は、今年3月くらいから放送されたロート製薬のテレビCMでゆっふぃーがこの歌の替え歌を歌ったことがきっかけだった。因みに先に名前を挙げた大瀧詠一の「君は天然色」もリリース当時ロート製薬のCMに起用された[9]そうで、どこか不思議なつながりのようなものを感じさせる。

編曲はタイトル曲と同じくrionosさんで、オリジナルを尊重しつつも今の音に生まれ変わらせることに成功している。ヲタクが口上を入れられる[10]ように長い間奏を挿入している[11]のもまさに今風の趣向である。実は原曲の音源をたまたま持っていたのであらためて聴いてみたのだが、今は亡き茂木由多加のアレンジワークに今さらながら瞠目させられて、繰り返し聴き入ってしまった。ピコピコした装飾音にやや時代を感じるものの、全編にわたって楽しい仕掛けがほどこされていて、伴奏にだけ注目して聴いていても少しも飽きることがない。やはり近年亡くなった佐久間正英が「僕は打ちのめされた」と述べた[12]のも頷ける話で、名曲というのは作詞や作曲だけでなく編曲家の確かな腕前があってこそ生まれるのだということを示す好例だろう。こうした歴史ある名曲を旬のアイドルのフレッシュな歌唱で聴けるのは何ともうれしいことだ。


今回のシングルではヲタクとして試されている感じの作品をつきつけられた形になった。ヲタクの道もなかなかに険しいが、それでも強い心を持って乗り越えていきたいものだ。幸いタイトル曲の歌詞は旅行の相手を二人称で“君”と呼んでいるし、MVの主要なシーンも“君”から見た主観映像になっているので、その構図に乗っかっていつかゆっふぃーと二人で旅する未来を夢見て乗り切るのもいいだろう。前作のレヴューでも引いた名言[13]を俟つまでもなく、ヲタクの“好き”を受け止める覚悟こそはゆっふぃーがこうしてシーンに立ち続ける理由の一つに違いないのだから。


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