全日本選手権2006 女子シングル フリー
2006年12月30日
これまで放送についていろいろと文句をいってきたけど、今回に関しては12位の由希奈さんの演技を放送してくれてありがたいと思った。由希奈さんよりも順位が上だったのに放送してもらえなかった選手のファンのみなさんには申し訳ないけれど。
武田奈也さん
フリップがダブルになった後ダブルアクセルの予定を変更してもう一度フリップに挑戦したが転倒してしまう。最後の3連続のコンビネーションジャンプはザヤックルールにひっかかって点がつかないのでは、と心配してしまったがこれは私の勘違いで、最初のフリップははじめから2回転の認定なので問題ないのだった。選手達は演技の最中にこうした計算をしなければならないのだから本当に大変だと思った。ピンクの衣装はこの人には似合っていない気がする。
太田由希奈さん:ファリャ 火祭りの踊り
6分間練習でルッツを失敗している場面を見てしまいひやひやしながらの観戦だった。最初のルッツは何とかこらえてほっとした。ループがダブルになったほか最後の二つ目のトウループで転倒したもののまずまずジャンプも跳べていたので少し安心して演技を見終えた。ところがTESが思いのほか低くて悲しくなってしまった。プロトコルを確認するとルッツと二つのサルコウ、そして転倒した二つ目のトウループがダウングレードされてしまっている。3回転と認定されたのが一つ目のトウループだけではこの点数も仕方のないところ。素人目にはルッツもサルコウも昨日のSPのサルコウよりはよかったように見えたのでショックだった。
表現面に関していえばこの「火祭りの踊り」はこれまで由希奈さんが演じてきたものとはかなり違った趣きのプログラムだと思う。少し前のインタビューで「振り付け師から新たな挑戦をしてはどうか、ということでこの曲を薦められた。はじめはとまどいもあったけど今は前向きにとらえて取り組んでいる」といった趣旨のことを語っていた意味が実際に見て初めてわかった。
この「火祭りの踊り」は激しい情熱や猥雑なエネルギーといった要素が求められるプログラムといっていいだろう。由希奈さんは小柄な体格で、決してスケール感や力強さを持ち味とするスケーターではないので、このプログラムは彼女にとってかなりの挑戦だったと思う。今シーズンは2シーズンぶりの競技会復帰であり、もう少し自分にとって慣れ親しんだスタイルで臨んでもよかったのではないかという気もする。叙情的な音楽に乗せた由希奈さんらしいプログラムなら、もう少しいい結果を生んでいたのではないかという思いもある。ただ新たなスタイルへの模索は、かつての自分を取り戻すのではなく、新たな輝きを放ちたいという由希奈さんの前向きな姿勢なのだろう。今はただ一言、「戻ってきてくれてありがとう」と声をかけて上げたい。
澤田亜紀さん:Paint it black
ループがダブルになったほかは大きなミスのないまとまった演技。もう少し彼女らしい元気のよさが前面にでるとよかったと思う。
恩田美栄さん:レッドヴァイオリン
最初のルッツは高さがありとてもよかった。それだけに2度目のルッツがシングルになったのが惜しまれる。それでも今シーズン一番のできだったのではないか。去年の大会ほどではなかったものの力を出し切ることはできたと思う。
中野友加里さん:プロコフィエフ シンデレラ
最初のトリプルアクセルは回転不足で転倒。中野さんのトリプルアクセルはうまくいかなくても転倒してしまうことは少ないので驚いた。インタビューによると本人にとっても意外だったらしい。しかしそれを引きずらずに後の演技をノーミスでこなしたのがいい結果をもたらした(ルッツの後はダブルトウループとのコンビネーションに変えていた)。今シーズンは序盤からやや不調に苦しんでいたが、大事な日本選手権で一番の演技をすることができた。世界選手権ではさらに磨き上げた美しさで世界の強豪達と競り合って欲しい。
浅田真央ちゃん:モンティ チャルダーシュ
初めてステップからのトリプルアクセルに成功。続くダブルアクセルからのコンビネーションは二つ目のトウループがダブルになってしまったが予定した要素がこなせなかったのはここだけ。後は真央ちゃんでしかできないような完璧さで圧倒的な優勝を決めてしまった。よほどうれしかったらしく演技後は涙ぐんでいた。こんな演技をしたらほかに敵う選手は一人もいないはず。改めて真央ちゃんの強さを見せつける演技だった。
村主章枝さん
いつも大一番では底力を発揮する村主さんだが今回は力を出し切れずに終わってしまった。やはりNHK杯からの連戦は体力的にきつかったのかも知れない。グランプリファイナル進出を逃してこの大会に照準を合わせてきた中野さんと明暗を分ける結果となってしまった。サルコウの失敗は折り込み済みだとしても、SPに続き得意のフリップでミスが出てしまったのは痛かった。ただサーシャやスルツカヤさんなど去就を明確にしないまま競技会を欠場し続けるベテラン選手も多い中で、全ての大会に全力で臨んできた村主さんの一途なスケートへの取り組みは大いに讃えて上げたいと思う。
安藤美姫さん:メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
最初のルッツからのコンビネーションはめずらしく二つ目のトリプルループの着氷が乱れてしまった(プロトコルを見るとダウングレードされている)。サルコウを跳んだ後のフリップに入る動作が少しぎこちなくてやや苦しそうな表情を浮かべていたのでまた腰にでも痛みがあるのかと思った。2度目のフリップで転倒し、ダブルアクセルを跳んだ後のスピンでついに動きを止めてしまいやはりどこかに痛みがあることが明白になった。インタビューによると昨日のSPの後で肩を脱臼し、自分ではめた時にどこか筋を痛めてしまったとのこと。このスピンの後には両腕を大きく振り回すストレートラインステップが控えていたので演技を続けられるかとても心配になったが、気を取り直して激しいステップを始めた時には驚かされた。その後も二つのスピンをこなし精神力の強さを見せつけた。
今シーズンは由希奈さんを別にすれば安藤さんに最も肩入れして応援してきたので彼女がこうした強さを見せてくれたのはとてもうれしい。トリノで4回転サルコウを失敗した後立て直すことができずにずるずると失敗を重ねてしまった時とは見違えるような成長ぶりだった。グランプリファイナルに続きトラブルを抱えた状態で試合に臨んでしまったのは残念だけど、こうした状況でも2位に入れたというのは今の安藤さんの充実ぶりを象徴する結果だと思う。世界選手権では今度こそ万全の状態で最高の演技を見せて欲しい。
浅田舞さん:白鳥の湖
シーズン開幕直前にプログラムを「白鳥の湖」に変更したはずなのに元の黒い衣装で登場したのにまず驚いた。フリップで転倒したのをはじめミスが多かった。フライングシットスピンでバランスを崩して手をつく場面もあった。せっかくの美しさをいかせず、もったいない演技になってしまった。