寺嶋由芙さん「#ゆーふらいと」

2014年3月26日


アイドルの寺嶋由芙さんが先月26日にシングル「#ゆーふらいと」でソロデビューを果たした。それまで所属していたBiSを昨年5月に脱退した際にはその後の活動の継続が危惧されたが、本人の努力や才能はもとより周りのスタッフのサポートや熱心なゆふぃすと(ファン)の後押しも得て、ソロ歌手として順調に再スタートを切ることとなった。そのしなやかな知性と誠実な人柄に惹かれて微力ながら応援してきた私としても、まことに喜びに堪えない。

このデビュー曲は作詞をでんぱ組.inc夢眠ねむさんが手がけているのだが(「#ゆーふらいと」歌詞)、ゆっふぃーがこれまで歩んできた道のりや、今置かれている状況をそのまま歌った曲になっているのが印象深い。二人の対談によるとそれまで直接会って話したことはあまりなく、一度写メを撮ってうなりくんの話をしたくらいの関係だったという。プロデューサーの加茂啓太郎さんから「メタ構造を入れてほしい」という発注があってこの詞になったとのことだが、それほど親交の深かったわけでもないゆっふぃー周辺の状況を、ねむきゅんはよく観察していたのだな、と驚かされる。まあでんぱ組は現在のアイドルシーンの中ではややBiSと似た立ち位置にいるグループなので、意識するしないに関わらず種々の動向は否応もなく目に入ってしまうということもあるのだろう。

タイトルの冒頭に#(ハッシュ)がついているのもねむきゅんのアイディアで、ゆっふぃーが普段ツイッターでハッシュタグを多用していることを反映させている。誰かがツイッターでこの曲の感想をつぶやくと自動的にハッシュタグ検索に引っかかるという仕組みで、サビでの「#(はっしゅたぐ)辿って」という歌詞とも連動している。ゆっふぃーにとってツイッターのエゴサーチがファンとのつながりの何よりの拠り所となっていることを踏まえた、粋なはからいである。

アイドルのプロモーションとSNS(特にツイッター)の相性のよさはつとに指摘されるところだが、ツイッターそのものを楽曲の主題として取り上げた例というのはあまり多くない気がする。私の知っている範囲だとFairiesに「Tweet Dream」(PV)という曲があるが、彼女たちの場合はこの曲のリリースに合わせてメンバー個々のアカウントが開設されたもので、メンバーたち自身がツイッターを利用するようになったのはそれ以降のことだった。しかし常日頃からツイッターの廃人級の使い手であるゆっふぃーにとっては、この趣向はまさにうってつけというほかない。この曲はいずれ、アイドルのメディア利用のあり方の一つの好例として参照され続けることになるかも知れない。

作曲・編曲はrionosさんという女性作曲家で、おそらく加茂さんの推薦で起用されることになったものと思われる。一年以上前のものになるがインタビューで「言葉とか意味が先にあって、そこに曲をつける方が私はやりやすいです」と述べているので、ゆっふぃーの今の状況を物語として想定して、それに合わせて作った結果がこの曲なのかも知れない。期待と不安に胸を躍らせながら再スタートを切ろうとする、そんな境遇にまさにぴったりの曲調になっている。

編曲で気になるのは最後の大サビの転調のところで、伴奏にきっかけとなる音がないのでヴォーカルが自力で音を探り当てないといけない作りになっている。(CDにはカラオケが付属しているのだが、この転調をちゃんと歌えるゆふぃすとさんてどれくらいいるだろう?) こういう難易度の高い設定にした意図はよくわからないが、私がインストアイベントで聴いた際も問題なく歌えていたし、他のライヴ等でも事故を起こしたという報告は聞かないので、プロの歌手として当然といってしまえばそれまでだが、やはりさすがと思わせられる。(ヴォーカル音源を被せているのかどうか確証が持てないのだが、少なくとも付属DVDに収録の赤坂元気劇場でのライヴの際は完全に生歌で歌っているものと思われる。)

本人のインタビューによると、ソロ歌手として歌うに当たっては自分のクセをあまり強く出し過ぎないようにということを意識したらしい。私はBiSでの“ダサい”ゆっふぃーも好きだったけど、たとえば「hitoribochi」(PV)のAメロみたいな調子で全曲を歌ってしまったらクドすぎるのは確かで、賢明な判断に違いない。その甲斐あってアイドルポップスらしい自然で聴きやすい仕上がりになっている。欲をいえばもう少し歌詞が明瞭に聴き取れるといいのだが、ソロになってからヴォイストレーナーの指導も受けるようになったようなので、そのあたりも含め今後に期待したい。

勝見拓矢監督によるPVは、シンプルな作りながら恋人(?)のうなりくんをはじめみんなの愛がが感じられる温かい映像になっている。誰かがツイッターでつぶやいていたので気がついたが、アニメーションの利用はa-haの「Take On Me」のPVを彷彿とさせる。竹中夏海さんによる振付けは曲中のハッシュタグとかリロードといったキーワードをポーズで対応させながら、楽曲にまつわる物語性を視覚的に表現している。



カップリングの「ぜんぜん」はふぇのたす山本奨さんの作詞・作曲による軽快な楽曲で、ファンとの適切な距離感を求めて戸惑いながら手探りしているかのような、そんな姿が思い浮かんでくるかわいらしい作品である。自らストーカー気質だ称するゆっふぃーにしては表現が穏当に過ぎるという感もあるが、BiS時代の自作詞のような変態的な世界観は、現在の路線では当面は封印しておいた方がいいのだろう。


今こうしていろんな方のお名前を書き連ねながら、ソロ転向後のゆっふぃーがいかに周りのスタッフの温かく力強いサポートに恵まれてきたか、ということをあらためて感じさせられる。その陰には表にはお名前の出ない方も多くおられるはずで、おそらくあの真摯な人柄に魅了されているのはゆふぃすとばかりではなく、業界関係者も同様なのだろう。BiS在籍時のゴタゴタに心を痛めていた方も少なくないに違いない。冒頭で脱退後の活動の継続が危惧されたと述べたが、それは杞憂に過ぎず、こうして順調に再デビューできたのもある意味では必然の成り行きだったのかも知れない。

そうした現在のゆっふぃーの業界人脈のキーになっていると思われるのが加茂啓太郎さんだが、ちょうど一年ほど前のインタビューで「これから挑戦してみたいと思うこと」を問われて「アイドルの発掘育成」と答えているので、お互いにいいタイミングでの出会いだったのだろう。この邂逅が今後さらなる果実を結ぶことを祈りたい。

ゆるキャラ愛を前面に押し出したゆっふぃーのセルフプロデュースは、BiS在籍時からすでに目を瞠るものがあったが、ソロになってその手腕はさらに生き生きと発揮されているように見える。最近になってようやく所属事務所が決定したものの、それまではマネージメントまで自分でこなしていたのだから畏れ入る。これだけの能力を以てすれば、いかに競争の激しい世界とはいえ、現在のアイドル界に確固たる地歩を築いていくのは間違いないと思われる。今その途に就いた機窓から見える景色を、一緒に楽しませてもらうことにしたい。

追記(4月15日午前0時34分)

4月15日に公開された「ぜんぜん」の踊ってみた動画を追加。


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