世界選手権2009 女子シングル フリー
2009年3月30日
アリッサ・シズニーさん
今日はいい方のシズニーさん。ジャンプがそれなりに決まれば持ち前の美しさが引き立ってくる。しかしSPと揃わなかったのが残念なところで、アメリカは3枠を得ることができなかった。それを思うと下位二人の順位の合計でも3枠を確保できてしまっている日本女子の実力ってすごい。
村主章枝さん
サルコウの失敗はある程度織り込み済みだとしても得意のフリップの二つ目が乱れてコンビネーションにできなかったのはもったいなかった。でも総合で8位はさすがに実力者だな、と思わせられる。
サラ・マイヤーさん
今シーズン怪我のためにほとんど試合に出られなかったマイヤーさんだが、根性で仕上げてきたといった風情の演技で存在感を見せつけた。新しいプログラムのピアノ協奏曲「黄河」は一度だけ見たけど細身の体が壮大な音楽に負けてしまっている感じがしたので、昨シーズンのプログラムに戻したのは正解だったと思う。
アリョーナ・レオノワさん
グランプリ・シリーズではうまくいかなくて悲しそうな表情を浮かべているところの方が印象的だったのだけど、ジュニアの世界選手権のフリーの演技終了後には飛び跳ねて喜んで見せて本来はとても陽気なお嬢さんだということが判明したレオノワさん。この大会でもSP、フリーともに素晴らしい笑顔を見せてくれた。あの笑顔の愛くるしさにはどことなくエレーナ・ソコロワさんを彷彿とさせるものがある。このところ低迷が続くロシア女子だけど、これからもぜひあの笑顔で活躍を続けて欲しい。
浅田真央ちゃん
最初のトリプルアクセル–ダブルループのコンビネーションは見事に決まったものの二つ目のトリプルアクセルは回転不足で転倒。ルッツを回避してトウループに代えたのは妥当な判断だけど、サルコウをループに代えて二つ目のフリップの後のループをダブルにしたのは真央ちゃんにしては消極的な選択なので、あるいはどこかが本調子ではなかったのかも知れない。四大陸選手権の時に一部で報じられた右膝の故障というのは真央ちゃん自身が否定したそうだけど、これまで有言実行を旨としてきた真央ちゃんが今回はあまり連覇という言葉を口にしなかったのには何か理由があったのではないか。今日のジャンプの構成を見てそんな風に感じた。
ジョアニー・ロシェットさん
ループがダブルになるミスはあったものの後半の二つのジャンプ・シークェンスをクリーンに決めて見せた。私が見たことのある限りではあれが二つとも成功したのは今回が初めてだと思う。特にトウループ–サルコウはシークエンスとはいっても降りた右足を左足に踏み替えてすぐにサルコウを跳んでいるので非常に難しい技だと思う。彼女が世界選手権初の表彰台というのはちょっと意外だけどそういわれると確かにそうだった。今シーズンはヨーロッパ勢が総崩れで、アメリカ選手も振るわない中、アジア勢の間に割って入っての銀メダルば実に見事だったと思う。
安藤美姫さん
こちらも真央ちゃんと同じくルッツの後のループをダブルにする安全策。事前に足のトラブルがあったようなのでそれに即しての対応だったのだと思う。しかしほかはダブルアクセル–トリプルトウループのコンビネーションを含め予定したジャンプを全て成功させ(ただしループはダウングレード)、総合で3位、フリーだけなら2位という素晴らしい成績となった。これで途中棄権した昨シーズンの悔しさを晴らすことができて、さぞうれしいことだと思う。あらためて安藤さんの存在感をアピールした試合となった。
ちょっと意外なのはこれまでスケーティング技術をそれほど高く評価されてきたわけではない安藤さんやロシェットさんがPCSのいくつかの部門で8点台をもらっていること。SPではヨナさんのPCSの高さに驚かされたのだけど、フリーでは真央ちゃんも含めて8点台がいくつも出ているということは、女子シングルのPCSの算定基準が変わってきているということなのだろうか。
なお、安藤さんにしても真央ちゃんにしてもいえることだけど、今シーズンを通じて見て感じたのはこれまでこの二人が得意にしてきたトリプル–トリプルのコンビネーション・ジャンプが武器として通用しなくなってしまっているということ。今シーズンは回転不足の基準が厳しいということもあるようだけど、彼女たちの技の精度自体もやや劣化しているというようなことがもしあるのだとすると、これは何か対策を考えないといけないような気がする。
キム・ヨナさん
後半にサルコウがダブルになるミスはあったものの、心配されたスタミナ切れによる大きな崩れには至らなかった。苦手のループを回避してイナバウアーからのダブルアクセルに変更したのは当然の判断だろう。SPでの圧倒的なリードをさらに広げての圧巻の優勝だった。
200点を大きく越える歴代最高得点には驚くばかりだけど、ジャッジ・スコアを見ると最初のフリップは‘!’マーク、それから私には理由がよくわからないのだけど最後の足替えのコンビネーション・スピンが規定違反ということでノーカウントになっている。そのせいもあって技術点はそれほど無茶苦茶に高いわけではないので、この快挙にはPCSの基準がこれまでと変わったらしいことが大きく作用したものと思われる。おそらく真央ちゃんもクリーンな演技ができていればこれくらいのPCSはもらえていたはずなので、今後の女子シングルはより一層高い得点で争われることになるのかも知れない。
カロリーナ・コストナーさん
SPに続きとにかく衣装が素敵。白地に金の模様が入ったシックでゴージャスなデザインに彼女のブロンドの髪が美しく映えていた。これまでのショッキング・ピンクの衣装はドヴォルザークの室内楽には合わないんじゃないかとずっと思っていたので、この変更は私にはうれしかった。
しかし肝腎の演技はというと最初のルッツがお手つき、ダブルアクセルの後のトウループはダウングレード、ほかはトリプルジャンプが一つも入らないという惨澹たる内容。私は今シーズンの彼女の演技は女性らしいやわらかな雰囲気が出てきてとてもよくなったと思っているのだけど、それと反比例するようにジャンプの質が悪くなってしまっている。フィギュアスケートって本当に難しい競技だな、と思う。