これから本田美奈子さんの音楽にふれてみたいという方からお薦めのアルバムを紹介して欲しいというご要望があったのでお応えしようと思う。本当は私自身ファンを離れていた期間が長かったために美奈子さんの音楽についてよく理解しようと努力している最中であり、人様にアルバムをお薦めするというのはおこがましいのだけど、それでも今の時点で思うことを精一杯書いてみたい。
ただ美奈子さんの歌手としての活動の領域は多岐にわたり、どれか一枚に絞るのは極めて難しい。その人の関心に応じて好適なアルバムは変わってくるので、ケースごとに分けて紹介していくことにする。
今年4月にデビュー22周年を記念して発売されたのがクラシカル・クロスオーヴァーの領域での録音の中から14曲を収録したこのアルバム。全体に前向きで未来への希望を感じさせるような曲を中心に選ばれており、ひたむきに歌に取り組んだ美奈子さんの生き方がよく理解できるようになるアルバムだと思う。短調の曲がわずかに2曲しかなく、「ヴォカリーズ」や「ソルヴェイグの歌」のような系譜の歌が漏れてしまっているのは個人的には残念なのだけどこの種のことを言い始めるときりがない。付属のDVDにはN響と共演した「新世界」等の映像が収録されている。ソプラノ歌手としての美奈子さんに関心をお持ちの方にはこれをお薦めしたい。
美奈子さんが入院中の2005年5月に発売されたのがポップスの曲を集めたこのベストアルバム。選曲は美奈子さん自身が行った。一口にポップスと言っても多彩な曲調の歌が集められており、美奈子さんの芸域の広さを堪能できる。アイドル時代の代表曲3曲や、ミュージカル『ミス・サイゴン』の名アリア「命をあげよう」のスタジオ録音も収められている。ポップス歌手としての美奈子さんに興味のある方にお薦めのアルバムである。初回限定盤には3曲のPVが収められたDVDが付属している。
「心を込めて…」COCQ-84139(2006.04.20)
美奈子さんの逝去から約半年後の2006年4月に発売されたのがこのアルバム。美奈子さんはデビュー20周年にあたる2005年4月20日に記念のアルバムを制作する予定でいたが病気が発覚したために実現できなかった。一年遅れの記念アルバムの制作を励みに療養に励んでいたが、その日を迎えることなく逝去した。その美奈子さんの遺志を実現するために関係スタッフが未発表の録音や放送局に残っていた音源を集めて完成させたのがこのアルバムである。
収録されているのはソプラノ・アルバムの制作の際に録音されたもののCDへの収録が見合わされたトラックや、ミュージカル・アルバムの準備として録音されていたリハーサルの音源、NHKのBSの番組のBGMとして流されていた洋楽のカヴァーなど。いわば苦肉の策の寄せ集めではあるのだけど、結果的には美奈子さんの幅広い歌手活動を一枚で概観できる入門者向けのアルバムに仕上っていると思う。アルバムタイトルは美奈子さんがファンへのメッセージなどの最後にいつも書き添えていた言葉から採られている。一枚でなるべく幅広いジャンルでの活躍の様子を知りたいという方にお薦めしたい。
入門者向けにためらいなくお薦めできるアルバムというとまずは以上の3枚ということになると思う。都合のいいことにオリジナル曲としては最も人気があり評価も高い「つばさ」はいずれのアルバムにもそれぞれ違った音源が収録されている。
このほかにもう少し特殊なケースを考慮して挙げてみるとすれば…。
「アメイジング・グレイス」COZQ-147,8(2005.10.19)
亡くなる半月ほど前にリリースされたミニアルバム。逝去後の報道で繰り返し「アメイジング・グレイス」のライヴ映像が流されたことをご記憶の方も多いと思うが、このミニアルバムに付属のDVDに収録されているのがその映像。これを見て美奈子さんに関心を抱いたという方はやはりこのミニアルバムを入手することを検討されるといいと思う。CDの方にはソプラノ歌唱によるスタジオ録音の6曲が収められている。アルバム2枚分の予算を割く用意のある方は「LIFE」か「心を込めて…」と併せて入手すれば美奈子さんの歌の世界を幅広く知ることができる。ブックレットに掲載されている手書きのメッセージも素晴らしい名文なので味わって読んでいただきたい。
美奈子さんのミュージカルでの活躍に特に関心があるという方はやはり美奈子さんの歌手としての地位を不動のものにした『ミス・サイゴン』のライヴレコーディングを聴いてみるべきだろう。舞台での美奈子さんの渾心の歌唱が堪能できる。本公演が始まる前にスタジオ録音されたハイライト盤というのもあるが、やはりせっかく聴くのならライヴ盤で全曲を聴きたいものである。ミュージカルに大変お詳しい「375.歌姫伝説」の管理人ひろさんもこのライヴ盤の方を推奨されているので間違いないと思う。
美奈子さんのアイドル時代に関心のある方、懐かしくてもう一度聴いてみたくなったという方のためには東芝EMIから数種類のベスト盤が出ている。ここに挙げたのは「SHANGRI-LA」を除く全シングルのA面を収録したもの。CD初収録となった「モーニング 美奈子ール」も今となっては貴重である。ケース裏面には「Temptation(誘惑)」のジャケット写真が採用されている。これがあまりにもかわいいのでこのCDを私からのお薦めとしたい。ほかにDVDも付属している「CD&DVD THE BEST 本田美奈子(DVD付)」というのもある。曲目が若干異なるのでお好みに合わせて選択されるといいと思う。私としてはやはり「青い週末」や「the Cross–愛の十字架–」、「STAND UP–Full Metal Armor」を含む「ゴールデン☆ベスト」を推したい。
結局数多く挙げてしまったので却って迷わせてしまうことになるかも知れない。これを参考にした上でご自身の関心に合わせて上手に選択していただけたら、と思う。