全日本選手権2010 女子シングル

2010年12月31日

安藤美姫さんはSP、フリーともに完成度の高い演技を見せての見事な優勝。SPではコンビネーション・ジャンプでトリプル–トリプルを跳びたかったのをニコライ・モロゾフコーチに止められたのを悔しがっていたようだが、そういうことでモティヴェーションを低下されたり集中力を切らしたりしなくなったところに成長の跡が窺える。単独のトリプルジャンプはフリップからループに変更していたが、これは必ずしも消極的な選択というわけではなく、今シーズンのルール改正でループの基礎点が高くなったことを考えれば賢明な判断だったといえると思う。そしてそのループが実に高さのあるジャンプだった。ループであれだけ高いジャンプを跳ぶ選手はなかなかいない気がする。フリーは驚くほどの高得点だったが、スコアを見るとGOEで多くの加点を得ていて、採点方式が多少変更されてもやはり完成度の高さが重要であることに変わりはないのだということを印象づけられる。欲を言えばやはりフリップを跳んで欲しかったところではある。演技終了後の力強いガッツポーズは壮快で格好よかった。

浅田真央ちゃんは世界選手権の出場権を最優先に考えるならトリプルアクセルは回避してもよかったはずなのだが、SPから跳んできたところはやはり真央ちゃんだなと思った。そのアクセルもさることながら、本来は得意なジャンプなのにこのところ失敗の続いていたフリップがきれいに決まったことに心底ほっとした。ただこれまでの絶不調は脱したとはいえ、フリーで跳んだルッツはエッジエラーをとられ、苦手のサルコウもダブルになったあたりに課題も残った。今回の結果は真央ちゃんにとって到達点ではなくて、これからまた長い道のりを歩いて行かなければならないのだろう。ファンとしては辛抱強く見守っていくしかない。


村上佳菜子ちゃんはSPでアクセルがシングルになるというアメリカ大会と同じミスがあったが、フリーではこのところやや安定感のなかったフリップや難しい入り方からのループも含めてほぼノーミスの素晴らしい演技を見せてくれた。厳密にいうとルッツでエッジエラーをとられ、サルコウが回転不足と判定されているのだが、それはこれからの課題ととらえればいい。初めての世界選手権でもぜひ清新な演技と愛くるしい笑顔で魅了して欲しい。

鈴木明子さんはジャンプが本調子ではなくて表彰台と世界選手権の出場権を逃してしまった。しかしフリーではトリプルルッツをエッジエラーにならずに成功させていて、まだまだこれから伸びていく余地もあることを照明してみせた。うれしいことに終了早々に現役続行を表明してくれたので、これからも熱く応援していきたい。村主章枝さんはフリーでかなりミスが出てしまったのだけど、シーズン序盤からはかなり上げてきていて、高さのあるフリップなどに村主さんらしいところも見える演技だった。


庄司理紗さんはジュニアの全日本の演技なども見たのだが、ジャンプだけでなくスケーティングの質など全ての面でバランスのとれた完成度の高い選手だと思った。近い将来に世界のトップで活躍する選手になることは間違いないだろう。大庭雅さんは庄司さん同様フレッシュな選手で、初々しい演技の中にダブルアクセル–トリプルループという高度な技も織り交ぜて魅了してくれた。

このところしばらく低迷していた西野友毬さんが復活を果たしたのはうれしい出来事だった。ただ以前にくらべるとジャンプにやや迫力がなくなっているような気がした。以前はもう少し高くて力強いジャンプを跳んでいた印象があるのだが。まあ体型の変化などに応じて跳び方も変わってきているのだろう。ともかくこれを機に以前期待されていたように日本のトップ選手へと成長していって欲しい。同様に久々の復活を遂げたのが石川翔子さんで、以前よりもかなり大人っぽくなっているのが印象的だった。特にSPは妖艶な雰囲気も漂うような演技だった。フリーもよかったのだけど、後半のルッツやフリップがはじめからダブルを跳ぼうとしているかのよう覇気のないジャンプだったところがやや物足りなかった。

各選手が実力を発揮し極めてハイレベルな争いとなった今大会の中で、何とも残念だったのは今井遥さんの不振だった。よほど緊張してしまったのか、調子自体落としていたのか、SPでは全てのジャンプがうまくいかない不本意な演技。フリーは放送がなかったので見ていないのだが、やはり精彩を欠いた演技だったらしい。シニアに上がりたてでいろいろと難しいこともあるのだろうけど、気を取り直してぜひまた素敵な演技を見せて欲しい。

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全日本選手権2010 男子シングル

2010年12月30日

遅くなってしまったけど何とか年内に今年の全日本選手権について書いておきたい。

小塚崇彦選手は念願の初優勝で、史上初の親子での全日本制覇を達成した。本人はフリーの出来がよくなかったのを気にしていたけど、ミスがあっても高い点をもらえるのは地力がついてきた証拠だと思って自信にして欲しい。

織田信成選手は何となくフリーでの勝負弱さみたいなものがイメージとして定着しかかっているのが気になるところ。ただやはりSPから4回転ジャンプを跳んでいる積極性は頼もしく感じる。練習ではそれなりの成功率があるようなので、試合で跳ぶ経験をさらに重ねていけばもっと安定して跳べるようになっていくと思う。

高橋大輔選手はSPでの大きな乱れからするとやはりグランプリファイナルでの衝突の影響が残っていたものと推察される。しかしそんな状態でもフリーで立て直して圧巻の演技を見せてくれたところに世界チャンピオンの底力を見た思いがする。ステップなどは本人比でいつもよりやや激しさが足りない気もしたが、中間のスローパートの苦悩をイメージした表現などはゾクッとするものを感じた。回転不足と判定されてしまったけどプログラムの後半にトリプル–トリプルのコンビネーション・ジャンプが入ったのもおそらくかなり久しぶりのことで、今後の戦略として大きな材料になるのではないかと思う。

羽生結弦選手はSPが好調であわやと思わせたが、フリーでは本来の力を出し切れなかった。やはり表彰台に上った三人とは経験などあらゆる面でまだ差があるということなのだろう。それでも冒頭の4回転を狙ったトウループがトリプルになるというロシア大会の時と同じ状況になりながら、今回はザヤック・ルールを回避できたあたりに適応力の高さが現れていた。

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本田美奈子さんの「アメイジング・グレイス」が映画のイメージ・ソングに

2010年12月25日

2006年にイギリスで制作された映画『アメイジング・グレイス』が来年3月に日本でも公開されることになった。それに伴い、本田美奈子さんの歌う「アメイジング・グレイス」が日本版映画のイメージ・ソングに起用されることが決定した。

この映画は奴隷貿易を背景に名曲「アメイジング・グレイス」が誕生する様子を、奴隷制廃止を目指す政治家、ウィリアム・ウィルバーフォースの苦闘に絡めて描いている。私はこの映画の評価とか、どの程度史実に忠実に描いているのかといったことについてよく知らないのだが、ともかく美奈子さんの歌声がこうした重要な歴史的な出来事への理解を促すことにつながるのはとても喜ばしいことである。

映画の予告編が公開されているので下に貼り付けておく。



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グランプリファイナル2010

2010年12月16日

女子シングル

例年女子はミスの多い試合になることが多かったのだけど、思いもかけないほどいい演技の続出で大いに興奮させられた。中でもアリッサ・シズニーさんはこれまでの数年間を考えれば信じられないほど安定した演技で、SP、フリーを通してダブルアクセルがステップアウトしただけの最小限のミスに抑えての見事な初優勝だった。シニアのグランプリシリーズに初参戦したシーズンに一目惚れして以来ずっと応援してきた身として感慨に堪えない。スピンやスパイラルのポジションの美しさは誰もが認めるところだったが、佐藤有香さんに師事してからジャンプの安定感が増し、スケーティングの質もさらに向上してきたように思う。もう長いことあの不安定なジャンプに泣かされてきたので、この安定感をはたしてどこまで信用していいのかは未だ半信半疑なところもあるのだが、ぜひこの調子でシーズン後半も活躍して欲しい。

カロリーナ・コストナーさんも優れた潜在能力を持ちながらジャンプの不安定さに泣かされてきた選手の一人だが、今シーズンは怪我のためにジャンプの難度を落とした構成にしていて、それが功を奏して銀メダルに輝いた。正直あのジャンプ構成で佳菜子ちゃんの上にくるというのは信じ難い気もするのだが、ルッツとフリップを欠いている点にさえ目を瞑れば最高に素晴らしい演技で、この人の魅力にあらためて開眼する思いだった。

村上佳菜子ちゃんも初出場での表彰台は素晴らしい快挙だった。特にトリプルトウループ–トリプルトウループのコンビネーションは見事な出来映えでGOEも高く評価されている。フリップがやや不安定なのが気がかりだが本来は得意なジャンプなのでそう心配しなくても大丈夫だと思う。

鈴木明子さんも十分に実力を発揮してくれたのだけど、わずかなミスで表彰台を逃す結果に。特にSPのステップでリンクの端から端までをしっかりと使わなかったためにレベル1と判定されてしまったのはもったいなかった。安藤美姫さんはSPで出遅れてしまったがフリーは素晴らしい演技だった。新しいSPはこれまで彼女が滑ってきたのとはタイプの異なるがとても素敵なプログラムなので、全日本ではより完成された演技を見せて欲しい。レイチェル・フラットさんは持ち前の安定感がなく不本意な結果に。体が重過ぎたのではないかという指摘もある。まあ彼女の場合は全米選手権に照準を合わせればいいというところもあるのかも知れないが。


男子シングル

チャン選手と織田選手というこれまで4回転ジャンプを(あまり)跳ばなかった選手達が率先してSPから4回転に挑んできているというのが非常に興味深い。パトリック・チャン選手はSPではアンダーローテーションの判定だったがフリーでは成功、フリーの中盤にいくつかミスがあったがそれを引きずらずに立て直したことで初の栄冠に輝いた。元々スケーティング技術には定評のある選手だけに、4回転ジャンプの成功率も高いとなると混戦の男子シングルの中でますます優位に立っていくことになるだろう。唯一死角といえるのがトリプルアクセルの不安定さで、今後はそのあたりが課題になっていくことだろう。

織田信成選手はSPでのコンビネーション・ジャンプが素晴らしかった。あれほど見事な4回転トウループ–トリプルトウループは滅多に見ることができないものだ。フリーではまたしても逆転を許してしまつたが、もっと自分の演技に自信を持って臨めばいい結果もついてくるはず。

小塚崇彦選手はインフルエンザ・ワクチンの影響もあったらしく実力を出し切れなかった。練習中の事故に責任を感じて終始冴えない表情だったのは気の毒だった。高橋大輔選手もめずらしく得意のステップでつまづくなどや精彩を欠いた。本人は否定しているけどあの衝突の影響はなかったはずはないと思う。この二人にとってはちょっと不運結果になってしまったけど、全日本選手権に向けて気持ちを切り替えて臨んで欲しい。

トマーシュ・ヴェルネル選手は4回転ジャンプを回避して完成度を高める戦術を採りながらミスが出てしまった。フロラン・アモディオ選手は彼なりに実力は発揮できたのだろうけど、世界のトップを争うにはまだ足りないものがあるということだと思う。この経験を糧に、さらなる飛躍を遂げて欲しい。

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天満敦子さん ヴァイオリン・ソロ・コンサート

2010年12月 9日

先週の金曜日(3日)に天満敦子さんのコンサートを聴いてきた。さるお寺のご住職が祖師堂の落慶を記念して檀家さんたちを招待した催しで、私の家はそこの檀家ではないのだけど、知り合いの檀家の方が行くことができないので招待券を譲って下さったのだった。ご住職は天満さんとは十年来のお付き合いだそうで、天満さんはお寺の建物の音響を気に入ってよく練習にいらしているのだという。そんな親密な集まりの雰囲気の中で、天満さんのヴァイオリンを心ゆくまで堪能できた一夜だった。


  • アダージョ〜無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番ト短調より(J. S. バッハ)
  • トロイメライ(シューマン)
  • タイスの瞑想曲(マスネ)
  • ロンドンデリーの歌(アイルランド民謡)
  • ねむの木の子守歌(山本正美)
  • 中国地方の子守歌(岡山県民謡)
  • ホーム・スイート・ホーム(ビショップ)
  • 独奏ヴァイオリンのための譚歌より(和田薫)
  • スワニー河(フォスター)
  • 祈り(ブロッホ)
  • 望郷のバラード(ポルムベスク)
  • ジュピター(ホルスト)
  • アンコール:この道・城ヶ島の雨(山田耕筰・梁田貞)

曲目などは一切わからない状態で会場に行ったのだけど、パンフレットをもらってまず驚いたのは、ピアノ等の伴奏楽器なしで天満さんのヴァイオリンだけで演奏することだった。演目には独奏ヴァイオリンのための作品も二曲含まれてはいたが、ほかはほとんどが普通は伴奏楽器を伴って演奏される曲ばかりである。

編曲に注目して聴いていたのだが、天満さんはどの曲もかなりシンプルな編曲で弾いているのが印象的だった。「タイスの瞑想曲」や「望郷のバラード」はおそらく原曲のヴァイオリン・パートをほぼそのまま弾いていたし、「祈り」は原曲のチェロ・パートをそのまま移調して弾いていたのではないかと思う。「トロイメライ」や「ジュピター」は主旋律だけを和声を交えずに弾いていた。「ねむの木の子守歌」「中国地方の子守歌」「ホーム・スイート・ホーム」「スワニー河」はそれなりに器楽曲的な編曲がほどこされていたが、それでも過度に技巧を前面に立てたようなパッセージが織り込まれることはない。

普通プロの楽器奏者が伴奏なしで演奏するとなれば技巧的な装飾を伴う変奏をふんだんに織り交ぜて自身の技巧をアピールしたいという誘惑にかられるものではないかと思うのだが、天満さんの演奏は決してそうした方向へは流れていかない。ヴァイオリンが本来はポリフォニーには不向きな単旋律楽器であるという事実を取り繕おうとする様子もなく、この楽器からひたすら豊かな歌を紡ぎ出すことだけを意識しているかのようである。

それは日々の研鑽によって培われた豊かな音楽性が可能にしているのだろう。朗らかで温もりのある音色、深い精神性に裏付けられた豊かな歌心、そういった天満さんのヴァイオリン演奏の魅力は、こうしたスタイルでこそより端的に伝わってくるようにも感じられた。

帰って来てから調べてみたところ、天満さんはこの形態でのコンサートが非常に多いとのことだった。中野雄さんが 天満敦子はもしかしたら、『無伴奏ヴァイオリン・コンサート』という新しい演奏芸術の開拓者として、演奏史にその名を留める存在になるかもしれないという予感すら、私にはある。 と評しているのだが(アルバム「望郷のバラード〜無伴奏ベスト〜/天満敦子」ライナーノート)、それもあながち強弁とはいえない気がする。


バッハ作品の演奏は、なだらかにクレッシェンド、デクレッシェンドするのではなく、不連続に階段状に推移する強弱のつけ方を興味深く感じた。私はバッハ作品のオーセンティックな演奏解釈がどういうものなのかをよく知らないので、これが通常の弾き方なのか天満さん独特のものなのか判断できないのだが。それはともかく、聴く者を深い瞑想に誘うようなバッハならではの音響世界を堪能した。

和田薫さんという作曲家はお名前を存じていなかったのだが、天満さんと一緒に仕事をする機会の多い方らしい。この「独奏ヴァイオリンのための譚歌」もおそらくは天満さんのために書かれた作品なのだと思う。民謡風の旋律にヴァイオリン的なイディオムを織り交ぜた親しみやすい作品で、天満さんの美質が遺憾なく発揮されていた。「中国地方の子守歌」でもそうだったのだが、右手の弓で旋律を弾きながら左手ではじくピツィカートがもの悲しい雰囲気を醸し出してして非常に効果的だった。なぜ日本風の旋律に左手のピツィカートがよく合うのだろうかと考えてみたのだが、それはこの技法が琵琶の音色を想起させるからだと気がついた。和田さんも天満さんも、おそらくそのことを意識しているのではないかという気がする。


「望郷のバラード」は天満さんの代名詞のような存在にもなっている重要なレパートリーだが、この曲の演奏でおもしろかったのは、照明を極端に落としてほとんど暗闇の中で演奏していたことだった。あの状態ではおそらくほとんど手元も見えていなかったのではないかと思う。照明を暗くして演奏するということは晩年のスヴャトスラフ・リヒテルがやっていたそうだし、近年ではミハイル・プレトニョフさんなどもやっていると聞いているが、これほどまでの暗さというのはほかにあまり例がないのではないだろうか。数え切れないほど演奏してきて、今さら手元など見る必要もないくらい手になじんだ作品だからこそできる試みというべきか。このようにすることで、奏者も聴衆も一体となって作曲家が曲に込めた望郷の想いに浸れるような効果があったかも知れない。


この日の聴衆はクラシック音楽の熱心なファンというわけでは必ずしもない人たちだったわけだが、拍手のタイミングも「望郷のバラード」では十分に余韻をおいてから、「ジュピター」では壮快に弾き終えた天満さんのヴァイオリンの音が鳴り止むや否や、といった感じで、全体にマナーもよくて気持ちよくコンサートを楽しむことができた。ご住職は冒頭に簡単な挨拶をされたのだが気さくな話しぶりの中に温和なお人柄が窺われて、そのご人徳が檀家の方たちにも伝わっているからなのかも知れない。

客層が普通のクラシックのコンサートとは違うということもあり、アンコールには「北の宿から」をやってくれるんじゃないかと秘かに期待したのだけど、それがなかったのだけが少し心残りだった。実際に弾いてくれたのは「この道」と「城ヶ島の雨」を編曲したもので、これもちろん十分に聴き応えがあった。


終演後にサイン会があり、CDを買ってサインをもらい、握手もしていただいたのだが、ぶ厚い手から伝わる温もりがヴァイオリンの音色から受ける印象そのものだった。あまりお話することはできなかったが、コンサートの中ほどにちょっとしたトークがあり、その姿が童女のようでもあり、山姥のようでもある(失礼!)という、不思議な人だった。

手にしたのは小林英之のオルガンと競演した2005年発売の「祈り」。ほかに欲しいものもあったのだけど、品揃えが十分でなく置いてあるものの中からこれを選んでみた。ヴァイオリンとオルガンという編成もこれまためずらしいが、これも深みのある音楽となっている。

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「Sweet Dreams」

2010年12月 6日

作詞:かみにしやすし 作曲・編曲:小森茂生
アルバム「優しい世界」(2006.12.06)所収。

本田美奈子さんはミュージカル女優としての活動が多忙な合間にも、「JUNCTION」と「晴れ ときどき くもり」という二枚のアルバムを制作している。それぞれ渋谷森久さんと牧田和男さんのプロデュースのもと、いずれも丁寧に作り込まれた作品に仕上がっており、これにより美奈子さんはレコーディング・アーティストとしても確かな一歩を踏み出したかのようにも思われるのだが、その後この方面では思わぬ不遇に見舞われることになる。

新たなアルバムの制作を試みるもその計画は頓挫、しばらくは数枚のシングルを発売したりアニメやゲームの曲を歌うといった程度の活動に終始した。結局新たなアルバムの制作はコロムビアの岡野博行さんに見出された後にまで持ち越された。美奈子さんの経歴を振り返る時、この時期の録音面での不遇は—ミュージカルではめざましい活躍をしていたにせよ—返す返すも惜しまれることである。


この時期にアルバムの制作を企図して録音されていた楽曲は、美奈子さんの亡くなった翌年の2006年12月6日にアルバム「優しい世界」として発売された。収録されたのは当時録音されたそのままの音源ではなく、美奈子さんのヴォーカル・トラックだけをそのままに、バッキングは全て小森茂生さんが新たにアレンジしてリミックスしたものである。小森さんはこの当時美奈子さんの歌う楽曲のアレンジを多く手がけていたミュージシャンとのことである。

収録曲にはどれも似たような雰囲気が感じられるのだが—小森さんの単独作業によるリアレンジで聴いているせいもあるかも知れないが—、それにも関わらずアルバム全体を貫く音楽の芯のようなものが全く感じられない。このことは、「JUNCTION」と「晴れ ときどき くもり」がどちらも多彩な楽曲を収録しながらも、そこにそれぞれのプロデューサーの音楽作りへの明確な意志が感じ取れるのと実に好対照をなしている。

それはやはり、この頃の美奈子さんの楽曲制作をめぐる環境があまり恵まれたものではなかったことを物語っているのだろう。当時シングルとして発売された「shining eyes」とMDへのダウンロードという形でリリースされた美奈子さん自作の「満月の夜に迎えに来て」を除いて他の楽曲はお蔵入りにされていたということは、美奈子さん自身これらの楽曲に十分満足していなかったということなのだと思う。

ただしそうはいっても、楽曲制作への志といったようなことはともかく、美奈子さんの歌唱の質自体は他の楽曲と特に変わるところはないので、当時の美奈子さんのことを理解する上で貴重な資料でもあり、ファンとしてはそれなりに楽しんで聴くことはできる。私自身にとっては特に「Sweet Dreams」がゆったりとした旋律で気持ちよく聴ける作品である。聴いていると美奈子さんが夢の中でやさしく傍らに寄り添ってくれるような気分にされせくれる。心が少し不安な夜にはこんな曲でも聴きながら、アルバム・ジャケットのあまりにも可憐な姿の美奈子さんと一時を過ごす甘い夢へと誘われたい。

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