バンクーバー・オリンピック 女子シングル フリー

2010年2月26日

史上稀に見るハイレベルな争いとなり、特に最終グループは全ての選手が持てる力を出し切って最高の演技を見せてくれた。こんなオリンピックはもう二度と見られないんじゃないかという気がする。表彰式での三者三様の涙が美しかった。


鈴木明子さん

いくつかミスはあったけれど鈴木さんの魅力が満開の演技だったと思う。一つ一つの動作から滑る喜びが伝わってきて、見る者の胸を熱くさせた。あの躍動感あるステップはまさに彼女の真骨頂。オリンピックという最高の舞台で彼女の力が最大限に発揮されたことを心から喜びたい。個人的には衣装はグランプリファイナルと全日本の時に着ていたものが好きだったのだけど。


レイチェル・フラットさん

とてもいい演技で見終えた直後はこの人が銅メダルかとも思ったのだけど、思わぬ低い点数に驚かされた。ジャンプはほぼミスなく跳んでいたのだが、フリップを二つともダウングレードされたのが大きかった。見た目にはとてもよかったので結果を伴わなかったのが残念だが、彼女としては力を出し切って最高のものを見せてくれたと思う。


安藤美姫さん

冒頭のルッツからのコンビネーションはセカンド・ジャンプをダブルループにして、不安のあるフリップを回避してループに替えるという戦術に打って出た。その甲斐あってほぼノーミスの演技だったが、今日のハイレベルな争いではそういう無難な演技ではメダルには届かなかった。しかし不本意な結果に終わった4年前から成長した姿は十分に見せてくれたと思う。


キム・ヨナさん

練習ではジャンプで転倒することもあったりしてやや不安も感じさせたのだが、本番ではSP、フリーともに完璧な演技で見事な金メダルだった。トリプルルッツ–トリプルトウループも、ダブルアクセル–トリプルトウループもともにしっかりと回り切っていた。不安のあったフリップや後半のルッツも全く危なげなかった。優美でしなやかなスケーティングも圧巻だった。心理的な重圧も並大抵なものではなかったはずだが、よくこれほどの演技ができたものだと思う。素晴らしい栄誉を心から讃えたい。


浅田真央ちゃん

直前にヨナさんが完璧な演技をして逆転はほぼ不可能な点を出してしまったわけだけど、音楽を聴いていた真央ちゃんはどの程度のことを認識していただろうか。残念ながら一つ目のフリップの後のループをトリプルにしていればどうにかなったかも知れないというような展開にはならなかった。

トリプルアクセルは二回とも成功。SPと合わせて三回も成功させるというのは女子としてはちょっと考えられないような偉業である。しかしそれを以てしても金メダルに届かないというのは何とも酷なことである。軽々しく「銀メダルおめでとう」とも「残念だったね」とも言う気になれず、かけるべき言葉もうまく見つけられないのだけど、今日まで不断の努力と挑戦を続けてきたあなたのことを心から尊敬し誇りに思っているよ、ということだけ伝えて上げたい。


ジョアニー・ロシェットさん

深い悲しみのただ中にあってよく競技に集中し、最大限の力を出すことができたと思う。彼女の底力のようなものを見せつけられた大会だった。銅メダルに相応しい堂々たる演技だった。


長洲未来ちゃん

SPに引き続き素晴らしい演技を見せてくれた。身長が急激に伸びたことに伴う一頃の不調を脱し、いよいよ世界のトップ選手の仲間入りをはたしたことを印象づけた。次のソチ・オリンピックの頃には優勝候補の一角となっているのではないだろうか。ぜひこのまますくすくと才能を伸ばしていって欲しい選手である。


こうして選手のみなさんのお陰で非常に見応えのある充実したオリンピックになったのだが、採点についてはいろいろと考えさせられるところがあった。私はトリプルアクセル(男子で言えば4回転ジャンプ)を跳びさえすれば試合に勝てるというような状態になることは決して望ましくないという考えなのだが、女子でトリプルアクセルを三回成功させた選手が金メダルに全くかすりもしなかったというのはさすがに理不尽だと思わざるを得ない。すでに一度基礎点を引き上げる措置がとられているわけではあるが、さらにもう一段階高くしたり、逆にダブルアクセルの基礎点を下げるといったことを検討する必要があるのではないか。

ロシェットさんがPCSで真央ちゃんをも上回る点数を獲得したことにも正直かなり驚いた。今回の演技内容からすれば誰がどのように採点しても彼女が銅メダルになったことは間違いないだろうが、点数がちょっと適正とは思えなかったので、せっかくの素晴らしい演技にも関わらず少し興醒めしてしまったのも事実である。毎度のことではあるけれど採点競技の難しさというものをあらためて思い知らされた今日の結果だった。

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バンクーバー・オリンピック 女子シングル SPの結果とフリーの展望

2010年2月25日

フリーまで一日空いているので、ここで簡単に浅田真央ちゃんとキム・ヨナさんのSPの得点について振り返りつつ、フリーへの展望を記してみようと思う。この種の企画はおそらくいろんなブロガーさんがやっているだろうし、ある程度フィギュアスケートをご存知の方にはわかりきったことしか書けないのではあるけれど。


まずPCSではヨナさんが1.52上回ったが、これは今シーズンの両者の成績からすると意外なほどの僅差といっていいと思う。私は正直もう少し差をつけられるのではないかと危惧していた。グランプリシリーズでのあれほどの不調にも関わらず、ジャッジの評価はそれほど下がっていないようで、これは真央ちゃんにとって好材料といえる。

TESのうちスピンとステップ、スパイラルはほとんど同じ点数だった(レイバックスピンはヨナさんがやや上でステップは真央ちゃんがやや上)。SPの点差のうち最も大きな部分を占めたのはジャンプのGOEだった。これは真央ちゃんが以前は得意としていたトリプルフリップ–トリプルループのコンビネーションをプログラムに採り入れることができず、それをトリプルアクセルからのコンビネーションで補うというかなり無理のある構成にしていることからある程度仕方のないことだった。トリプルフリップ–トリプルループは以前は得意にしていたのだが、昨シーズンからダウングレードされることが多くなったために今シーズンはプログラムから外しているのだが、このコンビネーションを使うことができないというところに真央ちゃんが苦戦してきた要因がある。


そんなわけでSPでの4.72という点差は、真央ちゃんにとって何とかリーズナブルな範囲に収まったというのが実態だと思う。さて、そのことを踏まえた上でのフリーの展望だが、どちらかがよほど大きな失敗を繰り返すような展開にでもならない限り、SPと同様にTESのジャンプ以外の要素とPCSでは大きな差はつかないだろう。おそらくジャンプの点数が結果を左右する展開になることが予想される。

真央ちゃんもヨナさんもともにトリプルジャンプの種類は4つだが、SPとは逆にトリプルアクセルを持っている真央ちゃんが基礎点では若干上回ることになる。しかしGOEではSP同様ヨナさんより多くの加点をもらうことが予想され、ヨナさんがジャンプをミスなくこなしていけば真央ちゃんの基礎点での優位は簡単に消えてしまうことになるだろう。

そういうわけでもしもヨナさんがノーミスかそれに近い演技をした場合、真央ちゃんが完璧に滑ってもヨナさんが逃げ切る可能性が高い。ただ荒川静香さんは練習の状態を見た上で、ヨナさんはジャンプの感覚に微妙な狂いが生じている可能性を示唆している。フリーは時間が長くジャンプを跳ぶ回数も多いので、SPのように完璧にこなすのは簡単なことではない。ヨナさんが前半のジャンプでミスをするというのは考えにくいが、後半の疲れがたまったところで思わぬミスをするというのはこれまでにも何度かあった。ヨナさんにとっては後半のジャンプ(特に二つ目のルッツあたり)をミスなく成功させるということが、優勝への最大の鍵となるだろう。

もしもヨナさんに大きなミスがあった場合、真央ちゃんにも逆転優勝のチャンスが生じてくる。しかしヨナさんが完璧かそれに近い演技をした場合、逆転するのは正直かなり難しいと思う。ただ、ヨナさんの方が先に滑るという滑走順の利点を生かして、ヨナさんが高得点を出した場合には思い切った勝負手に出るという方策もないわけではない。フリップからの二連続のコンビネーションでトリプルループを跳び、後半に予定している単独のループをサルコウに替えるという手段である。前述のように今シーズンはトリプルフリップ–トリプルループのコンビネーションは全く挑戦してもいないのだが、SPを見る限りでは非常に調子がいいようなので、やってみる価値はあると思う。ただ真央ちゃんがこういうことを想定してサルコウの練習をしてきたとは思えないのがこの作戦の難点なのだが。

見る側としてはもしそういう展開になってくれれば一番おもしろい。ただ、これまでのオリンピックの例からいうと複数の優勝候補がそこまで高いレベルの演技で競り合うというのはなかなか考えにくい気もする。前回のトリノ・オリンピックの時のことを考えれば、結果を考えずに無欲に自分の演技に集中した選手が栄冠を手にするということになりそうだが、はたしてどうなることやら…。

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バンクーバー・オリンピック 女子シングル SP

2010年2月25日

浅田真央ちゃん

軽やかでしなやかな真央ちゃんらしい動きが戻ってきていて安堵した。体調面も、そして精神的にも非常にいい状態に仕上がっていることが窺われる。トリプルアクセルの成功はオリンピックのSPとしては史上初の快挙となった。フリーの滑走順はSPと逆にヨナさんの直後ということになったので、場内の大歓声に惑わされず自分の演技に集中することが鍵になるだろう。とはいえ今日の様子を見る限りではあまり心配する必要もなさそうな気がする。とにかく自分を信じて力を出し尽くして欲しい。


キム・ヨナさん

真央ちゃんが高得点を叩き出した直後の演技だったが、普段通りの実力を発揮できたのは見事だった。午前の練習でフリップで転倒した映像が紹介されたが、本番では全く問題なく成功させた。基礎点が若干高い上にGOEとPCSで稼いだので真央ちゃんに5点近い差をつけてトップに立ったが、この二人の今シーズンの対照的な成績を考えればむしろ意外な僅差ともいえると思う。ヨナさんにとってはフリーの後半でスタミナを切らさずに全てのジャンプをミスなくこなせるかがポイントになってくるだろう。


ジョアニー・ロシェットさん

普段はそれほど熱を入れて応援している選手ではないのだけど、さすがに今回ばかりはいい演技ができることを願わずにはいられなかった。直前に不幸があったばかりという状況でよくこれだけの演技ができるものだと感嘆した。もちろん元から実力のある選手だが、今日の演技には何か鬼気迫るようなものを感じた。おそらくとても平常心ではいられないはずの状況にあって、フリーでもう一度今日のような演技ができるかどうかが注目される。


安藤美姫さん

果敢にトリプルルッツ–トリプルループのコンビネーションに挑戦してきたことに安藤さんらしい意地を見た気がする。やはりこうでなくては彼女らしくない。しかし残念ながらループの方がダウングレード。もう一方のフリップも、スロー再生を見ながら解説の八木沼純子さんと一緒にうーんと唸ってしまった。これがダウングレードされなかったということは今回は回転数の判定がやや甘めということなのか。しかしともかくこういう意欲的な彼女の姿が久しぶりに見られたことがうれしい。フリーはトリノでの悔しい思いを払拭するような力一杯の演技を見せて欲しい。


レイチェル・フラットさん

こちらはトリプルフリップ–トリプルトウループに果敢に挑み、見事に成功させた。今シーズンはグランプリシリーズのアメリカ大会のフリーでヨナさんを上回る点を獲得した実力者であり、激戦の全米選手権を勝ち抜いてきた勢いもあるので侮ることのできない存在である。フリーではあのアメリカ大会の再現がなるだろうか。


長洲未来ちゃん

彼女も全米選手権を勝ち抜いた勢いをそのままに、なかなかの健闘をしたと思う。ルッツからのコンビネーションで減点されたのはエッジ・エラーか。しかしレイバック・スピンでヨナさんや真央ちゃんよりも高い点を獲得しているのが素晴らしい。


鈴木明子さん

今シーズンは比較的安定していたフリップの着氷で乱れてしまった。練習ではターンを繰り返しながら踏み切る跳び方のループを繰り返していたので、これをまた本番でやるつもりでいたのだろうけど、こちらのジャンプを急遽コンビネーションにすることになったので直前のステップは不要になり、結局普通の跳び方のループとなった。順位は11位だが得点差はそれほど大きくなく、彼女の少し上くらいの位置にいる選手にはフリーでの伸びしろが少なかったり調子がなかなか安定しなかったりするので、フリーでのごぼう抜きも十分期待できる。ぜひ鈴木さんらしい弾けるような演技を見せて欲しいと思う。

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バンクーバー・オリンピック アイスダンス

2010年2月23日

とにかくヴァーチュー&モイア組が素晴らしかった。今シーズンのフリーダンス、マーラーの交響曲第5番第4楽章アダージェットについては予てから評判を聞き及んでいて楽しみにしていたのだけど、実際見るのはこのオリンピック本番が初めてということになってしまった。あのマーラーの耽美的な世界をアイスダンスでここまで表現できるということに、ただただ感服するほかなかった。フィギュアスケートの歴史に残る名演技といっていいのではないかと思う。まだ若いカップルなので、本人たちにその気さえあれば4年後の大会での連覇という偉業も夢ではなさそうだ。気が早いけどその時はぜひ『トリスタンとイゾルデ』をやって欲しい、などと考えてしまった。


このカップルのことで頭が一杯でほかのカップルにまで気が回らなくなってしまったのだけど、今回のアイスダンス競技でもう一つ注目されたのがドムニナ&シャバリン組のオリジナルダンスだった。このカップルは今シーズンのオリジナルダンスのテーマとしてアボリジニのダンスを選んだのだが、ヨーロッパ選手権の後に当のアボリジニから批判を受けてしまったのだ。私はアボリジニの人たちがどういう主張をしたのかよく知らないし、オリンピックでの演技を実際に見ても何が反発を招いたのかはよくわからなかった。部外者にはヨーロッパ社会とは全くことなる文化を持つ人たちの伝統をアイスダンスの競技に採り入れるという意欲的な試みと映るのだが、振付けや衣装の中に当事者からするとあり得ない要素が入っていたのかも知れない。

それはともかくコンパルソリーダンスの競技前の時点でアボリジニの人たちとの和解が成立したとのことに安堵した。特に今回のオリンピックは先住民の文化の尊重ということを重要なテーマとして掲げた大会なので、その点に関して汚点が残ることにならなかったのは幸いだった。


リード姉弟もとてもよかったと思ったのだけど、世界の壁は厚く目標としていた10位以内は果たせなかった。しかし彼らも若いカップルなので、今後に向けて努力していって欲しい。

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バンクーバー・オリンピック 男子シングル

2010年2月21日

エヴァン・ライザチェク選手

有力なメダル候補の一人ではあったものの、何となく勝負弱い印象があったので、彼の金メダルはやや意外な結果だった。思えばトリノ・オリンピックの時は男子のSPを見ながら途中で眠ってしまって、ふと目が覚めたら彼がこの世の終わりみたいな顔をしてキス&クライに座っていたのだった。あの時の印象が強烈なので今回会心の出来だったSPの演技終了後に涙ぐんでいたのもわかる気がする。

長い手足を生かしたダイナミックな演技とわかりやすく演出効果の高いプログラム作りが彼の特徴だが、SP、フリーともそれが最大限に発揮された演技だったと思う。4回転ジャンプを回避したことに賛否があるようだが、私は彼の演技は十分金メダルに相応しいものだったと思う。野球がスピードガン・コンテストやホームラン競争とは別のものであり、ゴルフがドライバー・コンテストではないのと同じように、フィギュアスケートはジャンプ・コンテストではないのだ。逆にもしプルシェンコ選手とランビエール選手があの演技内容で1位2位に立ったとしたら、この競技の魅力は半減してしまうと思う。トリノではSPとは一転してフリーが目の覚めるような素晴らしい演技で、その気迫に感銘を受けて彼のことを応援してきた身としては、この結果は素直にうれしかった。この栄誉を心から祝福したい。


エヴゲニー・プルシェンコ選手

4回転のトウループはあきれるほど見事だったが、プログラムが全体に大味で、フリーではそのほかのジャンプが尽く質が悪かった。終了後に遠回しにジャッジ批判もしているようだが、あの内容で金メダルを望むのは少しあつかましい気がする。まあ彼が復帰したことによって男子シングルが格段にスリリングなものになったのは間違いないし、もし本当にソチまで続けるのならさらにおもしろくなっていくだろう。ただ、さすがの彼ではあっても今後身体能力が下降線をたどっていくのはほぼ間違いない中で、それでも世界のトップに立とうとするなら、もっとプログラムをトータルとして磨き上げていくことを考えないと難しいと思う。


高橋大輔選手

日本男子初のメダルに胸が熱くなった。解説をしていた本田武史さんがソルトレーク・オリンピックでメダルまであと一歩の4位になったのが8年前、4位は素晴らしい結果だと祝福しつついつか男子もメダルに輝く日がきて欲しいと願ったものだが、ついにそれを実現してくれて感慨無量である。本田さんもきっと、というか本田さんこそが最もこの日を待ち望んでいただろう。

4回転は転倒してしまったわけだが、彼の素晴らしい表現力に魅入ってしまった。まずこの『道』という選曲が秀逸だった。わずか4分30秒の間にジェルソミーナの一途な愛、ザンパノの悲しみ、サーカス的な楽しさといった要素が詰め込まれた密度の濃いプログラムである。こんなプラグラムを的確に表現できるのは高橋選手をおいてほかにはいないだろう。ジャンプでダウングレードやGOEのマイナスがあったりしながらもPCSで最高点を叩き出したのもうなずけることである。

4回転を回避していれば、という仮定の話をするのは無意味だろう。そうしていたとしてもライザチェク選手を上回る点を獲得できたという保証は何もないし、何より本人がそのことで悔いを残してしまったら取り返しのつかないことになる。本人は演技に内容には満足していないようだが、自分のやるべきことはやり尽くして悔いは残さなかったようなので、それが何よりだ。

事前には「これが最後のオリンピック」ということを口にしていたが、終了後は今後のことも前向きに語っているようなのでそれもうれしい。今は取り敢えずソチのことは言わないでおくけど、世界選手権は大いにチャンスがあるので、ぜひ頂点を目指して欲しい。


ステファン・ランビエール選手

この人の競技用のプログラムはどうも個人的にあまり好きになれなくて、プロを経験したことで少し傾向が変わってきているかと注目したのだけど、結局相変わらずという感じだった。プロに転向してからのショー・プログラムはいくつか見てかなり気に入っていたのだけど…。

SP、フリーともに後半に『ウィリアム・テル』序曲の行進曲風のテーマや『椿姫』の「乾杯の歌」を持ってくるという構成はあまりに陳腐に過ぎると思う。例えば長洲未来ちゃんが「天国と地獄」を滑るのなどはかわいくていいけど、前回大会で銀メダルに輝いたほどの実績のある選手には似つかわしくないプログラム構成だったと思う。技術は確かなものを持っているのだから、それがピタリとはまるプログラムを見てみたいものだが。


パトリック・チャン選手

スケーティング技術は現在のフィギュアスケート選手の中でもトップクラスに位置する選手だが、4回転ジャンプがないばかりかトリプルアクセルも不安定なのが泣きどころで、今回もその弱点が露呈してしまった。ただ今回は地元開催ということで過剰なプレッシャーを背負ってしまったが、本来は次のソチ大会をターゲットとするべき選手のはず。今回5位という位置につけられたことで、四年後へ向けての視界も開けてきたといっていいだろう。そのためにもまずは、4回転はともかくトリプルアクセルを確実にものにすることが重要な条件となってくるだろう。


ジョニー・ウィアー選手

フリップでのエッジ・エラーをとられたりスピンでの失敗があったりして点数的にはやや伸び悩んだが、彼特有の美しさが発揮された演技で、特にフリーのプログラムは彼らしい魅力に溢れていた。彼も4回転ジャンプを封印した選手の一人だが、こういう非常に個性的な選手が上位で争うことができるというのもこの競技の魅力の一つだと思う。


織田信成選手

せっかく素晴らしいプログラムを用意していたのに、切れた靴ひもを結んでいたのがほどけるハプニングで流れが途切れてしまったのは残念だった。ただそれ以上に本人の動きや表情が硬くて、チャップリン的な楽しさが見ていてあまり伝わってこなかったということの方を悔やむべきかも知れない。決められた振付けを予定通りこなしているだけという感じで、チャップリンに成りきったような雰囲気が感じられなかった。インタビューによると直前に滑ったライザチェク選手の演技が素晴らしかったのに怖じ気づいてしまったということらしい。彼はまだ将来があるので、この経験を今後に生かして欲しい。

靴ひものことは悔やんでも仕方ないと思う。それがなければ順位が5位まで上がっていた可能性はあるが、大切なのは順位が5位か7位かということではなくて、そうしたハプニングがあっても動じずに最後まで滑り切ったというということだろう。その点でアスリートとして恥じることろがないのなら、くよくよせずに胸を張ればいいと思う。もうジュニアの選手ではないのだからそんなことで涙を見せたりしない方がいいと思うのだが、彼のメンタリティーは私には少し理解し難いところがある。


小塚崇彦選手

試合では初めて4回転のトウループに成功。日本選手の中では彼が一番4回転の調子がいいと聞いていたが、その前評判通りの結果となった。その一方で今シーズンずっと苦しんできたトリプルアクセルの二つ目で転倒してしまったのがもったいなかった。正直もう少し点数で評価されてもいいのではないかと思ったが、ともかくこれで4回転ジャンパーの仲間入りをしたことで、今後の彼の評価が高まっていく下地を作ることはできただろう。


このほかの選手では、デニス・テン選手とミハル・ブジェジナ選手という若手二人の生きのいい演技が印象に残った。どちらも次の大会では中心選手に育っていることだろう。期待されながら本来の力を発揮できなかったのはブライアン・ジュベール選手、トマーシュ・ヴェルネル選手、ジェレミー・アボット選手といったところ。こういう勝負の厳しさ、冷酷さといったことも含めて、それがオリンピックの素晴らしさなのだと思う。


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バンクーバー・オリンピック ペア

2010年2月17日

いよいよ始まったオリンピック。フィギュアスケートはいつもの通りペアから競技が始まった。


張&張組

今シーズンは不調が続くペアだが、見ていてリフトの上げ下ろしなどで非常に危なっかしく感じた。あるいは男性が腰かどこかを痛めているのではないか。力のあるペアなのだが、本来の力を出し切れなかったのは残念だった。


川口&スミルノフ組

川口悠子さんが明らかに気持ちの整理のつかないままスタート地点に立っていたのが見てとれて、それが何より残念だった。4回転のスロージャンプを回避することを演技の直前に指示されたとのことなので、気持ちを切り替えることができなかったのだろう。演技の中で滑る喜びが体から溢れ出てくるようなところがほとんど感じられなかった。安全策をとっておきながらミスが出てしまうというのはどうしても後に悔いが残るので、こういう事態は何としても避けて欲しかったのだが…。

今の彼女たちならそんな大技などなくても金メダルを争うことば十分可能だったろうし、完成度の低い技に敢えて挑む必要性はあまりなかったのかも知れない。しかし川口さんはこの技に強いこだわりを持っているし、前日のインタビューを見る限りではやる気まんまんだった。そういう選択をするのなら事前に十分に時間をかけて説明して上げて欲しかったと思う。

4位というのは十分素晴らしい成績で、彼女たちにはそのことを誇りに思って欲しいのだけど、川口さんの心中を思うと何だかいたたまれない思いがする。メダルを逃したことはともかく、この大会を悔いなく終えさせて上げたかった。この二人がソチを想定しているのかどうかよく知らないのだけど、いずれにしても彼女たちにとってこの大会は心の中に重たいものを残す結果となってしまった。


サフチェンコ&ショルコヴィ組

前回のトリノ・オリンピックの頃あたりはとにかく高難度の技をプログラムに無理やり詰め込んでいるだけという印象だったのだけど、少しずつ表現力も身についてきて独特の世界を演じられるようになってきた。特にSPは非常に個性的だった。フリーではめずらしくミスが出てしまったけど、メダリストに相応しい、堂々たる演技だった。


龐&佟組

フリーはとにかく素晴らしく、見ていて引き込まれた。このペアとしてはこれまでで最高の演技だったのではないかと思う。SPも悪くなかったと思うのだが、今一つ点が伸び切らなかった。総合では2位にとどまったが、これまで何度も経験してきた悔しい思いを吹っ切るには十分な結果だったのではないか。


申&趙組

大好きなペアなので何とか金メダルをとらせて上げたいと思っていたのだが、その通りになってうれしかった。思えば金メダル候補として臨むはずだったトリノ・オリンピックを前に趙宏博選手が怪我をしてしまって、それから長い道のりだった。フリーはめずらしく二つ目のリフトでミスがあって、彼らとしては最高の出来ではなかったのだろうけど、演技終了後には申雪さんに輝くような笑顔が見られたので、力を出し尽くして悔いのない演技ができたのだろう。長いこと世界のペア競技を牽引してきたこの二人がついにこの栄誉に輝いたことを、心から祝福したい。

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亀田大毅 三度目の挑戦で世界チャンピオンに

2010年2月 7日

今夜行われたWBA世界フライ級タイトルマッチで、三度目の世界挑戦となる亀田大毅が3-0の判定でデンカオセーン・カオウィチットを下し、世界チャンピオンに輝いた。大毅は前回の対戦とは見違えるような洗練されたボクシング・スタイルでデンカオセーンを圧倒した。序盤にボディを狙いにくるデンカオセーンにカウンター気味の左フックを浴びせたかと思えば、中盤くらいからは右ストレートが的確に顔面をとらえて終始局面をリードした。実況アナウンサーが盛んに強調していた右のノー・モーションは正直あまりしっかりと体重が乗ったパンチには見えなかったが、決定的なダメージにはならなくても試合の展開をリードしポイントを稼ぐには十分だった。3-0の判定は至当なもので、むしろデンカオセーンの減点2がなければドローと判定したジャッジの採点はやや訝しいところである。

しばらく前まではこの兄弟たちのボクシング・スタイルはあまりに不様でとても世界レベルで戦えるようなものではないと思ったのだが、この間の興毅の試合以来状況が変わってきているような気がする。もうあのガードを固めて突進する亀田家スタイルからは卒業したということなのだろうか。この勝利によって以前の行いを帳消しにするというのはどうかと思うが、しかしボクシングが嫌いになってもおかしくないような状況の中で、よくたゆまずに精進してきたものだと思う。取り敢えず今回の勝利については素直に称賛したいと思う。

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「幸せ届きますように。」

2010年2月 6日

作詞:本田美奈子 作曲:楠瀬誠志郎 編曲:大村雅朗 コーラスアレンジ:楠瀬誠志郎
アルバム「晴れ ときどき くもり」(1995.06.25)所収。現行のCDではアルバム「LIFE〜本田美奈子.プレミアムベスト〜」UMCK-9115(2005.5.21)に収録されている。

暦の上では春になったとはいえことに寒い日が続く今日この頃、本田美奈子さんのレパートリーの中から心暖まる曲を、と考えていて思いついたのは、楠瀬誠志郎さんの提供による「幸せ届きますように。」という曲だった。美奈子さんの可憐な歌声が軽快でありながらも叙情的な旋律と相俟って、聴く人の心にそっと灯りをともしてくれるような、穏やかで愛らしい作品である。決して超絶的な技巧が駆使されたような曲ではないが、これもまた美奈子さんらしい作品といえると思う。

楠瀬さんはこの曲のほかに「Fall in love with you -恋に落ちて-」という作品も提供しているのだが、こちらは実にドラマティックな愛の二重唱で、「幸せ届きますように。」とはやや性格の異なる作品である。楠瀬さんは「Fall in love with you」では美奈子さんと息の合ったデュエットを聴かせている一方で、この「幸せ届きますように。」ではバックコーラスとして慎ましく作品に彩りを添えている。

晴れ ときどき くもり」というアルバムにはこうした音楽家の間の、そして聴き手と音楽家との間の親密さを感じさせる作品が多い。これはおそらくプロデューサーの牧田和男さんの人柄や音楽性によるところが大きいのだろう。


歌詞は美奈子さん自身による。この歌詞の着想の源については伝記『天に響く歌—歌姫・本田美奈子.の人生』の中でその一端が明かされている。この本の後書きの中で、事務所社長の高杉敬二さんは美奈子さんは四つ葉のクローバーを集めるのが好きだったというエピソードにふれている。

美奈子さんはアイドル時代から、国内でも海外でも行く先々でクローバーの群生を見つけると四つ葉のクローバーを夢中になって探したのだという。見つけたクローバーは本の間にはさんで押し葉にし、折りにふれてそれをしおりにしてプレゼントするのだそうだ。「幸せになりますように」という願いをこめて。

この歌は頭の中で想像して作り出したものではなく、実体験に根ざした心象風景を歌ったものなのだろう。このエピソードを念頭においてこの歌を聴くと、歌詞をしたためた時に美奈子さんの心に浮かんでいた風景が、まざまざと思い浮かんでくる気がする。


四つ葉のクローバーを幸せの象徴とする言い伝えを本気にしていたというのは、美奈子さんは大人になっても子供の心を失わない人だったということなのだろう。私などは遥か昔の子供の頃に、近所の公園の芝生で母と一緒に探した時の記憶が辛うじて残っているくらいだ。あの時は結局見つけることができたのかどうだったか、それもよく覚えていない…。

本格的に春がやって来るまで、今しばらくはこの愛らしい曲を聴いて暖まることにしようと思う。あの幼い日に私の心に映っていた風景を、あやふやな記憶の糸をたどって思い出しながら。

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幸田浩子さん 『オーケストラの森』に出演

2010年2月 1日

今日1月31日放送の『オーケストラの森』で、幸田浩子さんが2009年10月にアレクサンドル・ラザレフさん指揮の日本フィルハーモニー交響楽団と共演した時の模様が紹介された。幸田さんが歌ったのはラフマニノフ作曲の「ヴォカリーズ」。いつもながらの美しい歌声に、うっとりと聴き入ってしまった。アルバム「カリヨン 幸田浩子〜愛と祈りを歌う」では後半の反復を省略しているのだが、このコンサートでは省略なしに全曲をたっぷりと歌って聴かせてくれたのがうれしい。幸田さんの歌は繊細で、なおかつ力強く、トリルの部分などのきめ細やかさも素晴らしい。コーダのところで音を少し外していたようだったけど、そんなことは関係なく美しい歌唱だった。

この日の衣装は白と黒のシックなドレス。大きく開いた胸元が目に眩しかった。幸田さんの美しさを目と耳で楽しませてもらえて、実に幸せな一夜だった。

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