再生への祈り

2011年3月31日

三陸沖で発生した大地震から二十日が経った。その爪痕はあまりに深く、自然の脅威と人の無力さをあらためて思い知らされる。被災地のみなさんの惨状を見るにつけ、何か力になりたいとは思いつつ、現実には自分にできることといえば節電に協力することくらいしかなく、歯がみしながらせめて一日も早い再生をと祈るようも見つめるばかりである。

この難局に際し、国内外を問わず多くの音楽家が被災地への励ましのための楽曲を発表している。そんな中で何とも愛らしい曲を見つけたので、ここで紹介してみたい。



歌っているのは“おいしい。一期”というネット・アイドル・グループのメンバーのChiiさんで、デス・キャブ・フォー・キューティーというバンドの「I Will Follow You Into the Dark」のカヴァーらしい。…と書きつつも私は今挙げた固有名詞の全てについてほとんど何も知らないのだが、ChiiさんのことはYouTubeのアカウントに友だち申請があったので知った。

英語圏の人のようだが、日本のポップスの熱烈なファンらしい。おそらくプロの歌手というよりはネット上で多少名前が知られ始めているといったような存在なのだと思うが、お聴きのように歌はなかなかの本物である。ちょっといたいけな感じのロリータ・ヴォイスが魅力的で、冒頭に少しフランス語を話しているせいもあって、エルザさんを思い起こさせるものがある。


こんな形で世界中から寄せられるささやかな善意が、少しでも被災地のみなさんの力になるよう祈りたい。

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「エデンの東」

2011年3月 6日

作詞:本田美奈子. 作曲:レナード・ローゼンマン 編曲:井上鑑
アルバム「」COCQ-83683(2004.11.25)所収。

先月本田美奈子さんの歌う「ゴッドファーザー愛のテーマ」について書いたが、美奈子さんは映画音楽の名曲をこのほかにもいくつか歌っている。クラシック音楽が20世紀になって一般の愛好家には理解困難なほど難解なものとなった一方で、映画音楽の分野では誰からも愛される美しい名曲が数多く生まれた。それは取りも直さず多くの才能ある作曲家がクラシックの現代音楽ではなく映画音楽に軸足を置いて活動せざるを得ない状況に置かれていたことの反映でもあるのだろう。そうした背景事情については吉松隆さんの論説が非常に参考になる。まあともかく、理由はどうあれ私たちが今多くの美しい映画音楽を楽しむことができるのは幸せなことである。

エリア・カザン監督による『エデンの東』のテーマ曲などは、まさにその最たる例の一つだろう。作曲したレナード・ローゼンマンは2008年に亡くなっていて、3月4日がちょうど没後3周年だった。調べてみると彼は十二音技法を確立したことで知られるアルノルト・シェーンベルクに師事した経験もあるらしいが、師が追求した作曲の技法上の革新には追随せず、映画音楽の分野で人々の心に残る作品を残したのにはどんな意図があったのだろう。できることならそこのところを訊いてみたかった気がする。

美奈子さんはこの誰もがよく知る名曲に、自作の詞をつけて歌っている。一番の歌詞の終わりで“愛”と書いて“うた”と読ませているのが美奈子さんらしくて、何だか微笑ましい。二番でも同じく“愛”という言葉が出てくるのだが、ここでは素直に“あい”と歌っている。美奈子さんにとって愛とは歌であり、歌は愛そのものにほかならなかったのだろう。

編曲はいつもの通り井上鑑さんで、自身の弾くキーボードが前面にフィーチャーされた作りになっている。欲をいえばこれが生のピアノの音だったらなおよかったのに、という気もするのだが、ともかくそれが美奈子さんの歌声をよく引き立てているのは確かである。

かくしてこの映画音楽史上屈指の名曲は、美奈子さんが隣に寄り添って一緒に歩いてくれているような気分にさせてくれる、あたたかさとやさしさに溢れた歌へと生まれかわった。美奈子さんが聴き手に捧げた精一杯の愛を、ありがたく受けとめつつ聴き入りたい。

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