ジャイアンツ セ・リーグ三連覇

2009年9月24日

すでに昨日のことになるが、ジャイアンツがセ・リーグ三連覇を達成した。クライマックス・シリーズの制度ができて以来、リーグ優勝の有難みはめっきり低下してしまったわけだが、まあとにかく三連覇というのはまさに偉業といっていいだろう。

今シーズンのジャイアンツの戦いぶりの中で、特に印象に残っているシーンが一つある。8月4日に旭川で行われた広島との試合での亀井義行選手のプレーである。この日彼は9回に同点ツーランを放ち、延長11回には二打席連続のサヨナラ・ツーランを打つという大活躍を見せたのだが、私が言いたいのはそのことではない。亀井は4回にツーアウトからヒットで出塁すると2塁に盗塁したのだが、キャッチャーからの送球がレフトへ反れると3塁を陥れ、さらにバックアップに入った相手レフト選手の動きが緩慢なのを見てとると、その隙をついて本塁へ生還したのである。

このプレーを見て思い出したのは、1987年の日本シリーズ第6戦、1塁ランナーに出ていた西武ライオンズの辻発彦選手が、秋山幸二選手のセンター前ヒットで、ジャイアンツのセンター、ウォーレン・クロマティ選手の緩慢な返球の隙をついて一気に本塁へ生還したプレーである。このプレーは当時のジャイアンツ・ファンにとっては後々までトラウマとなるほどショッキングなものだった。あれから20年以上が過ぎて、逆にジャイアンツからああいうプレーをする選手が出てきたというのは実に感慨深い。長年のトラウマを払拭してくれるような壮快なプレーを見せてくれた亀井選手に心から拍手を贈りたい。

しかし1982年生まれの亀井選手には、辻選手のあのプレーはおそらくほとんど記憶にないんだろうな…。

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「Golden Days」

2009年9月 6日

作詞・作曲・編曲:Brian May
シングル「CRAZY NIGHTS/GOLDEN DAYS」(1987.04.22)所収。現行のCDではアルバム「心を込めて…」COCQ-84139(2006.04.20)などに収録されている。

周知の通り本田美奈子さんはブライアン・メイさんのプロデュースにより「Crazy Nights」と「Golden Days」の二曲を発表している。これらは日本で秋元康さんの日本語詞によるヴァージョンがシングルとしてリリースされたのみならず、海外でもオリジナルの英語詞のヴァージョンがリリースされた。これが制作された当時美奈子さんはまだデビュー二年目で、いかに彼女が早くから一流のアーティストたちにその非凡な才能を認められていたかがよくわかる。

美奈子さんが亡くなった後に未発表音源などを集めてアルバム「心を込めて…」が制作された際、ブライアンは「Golden Days」英語版のリミックスを提供している。このことからも彼がこの曲や美奈子さんと過ごした日々をいかに大切に思っていたかを窺い知ることができる。


この二曲は実に対照的な性格の楽曲である。「Crazy Nights」の方はいかにもクイーンのギタリストらしいストレートなロックで、とても理解しやすいのだが、一方、「Golden Days」はかなりエキセントリックなテイストの楽曲で、解釈するのがとても難しい作品である。

今の時点で聴くと、歌詞の内容からどうしても美奈子さんがまだこの世に在った“黄金の日々”を懐かしむ歌のように聴こえてしまう。また音響的な面では多重録音によって自分の声をコーラスに効果的に使ったという点で、後の「impressions」や「パッヘルベルのカノン」への前奏曲となっているようにも受け取ることができる。しかしこれは後づけの解釈なのであって、当時としてはブライアンは、あるいは美奈子さんはこの曲によって何を表現しようと意図したのだろうか。


このことについて彼ら自身による当時のコメントがないかと思って少し調べてみたことがあるのだが、どうもそういったものはあまり伝えられていなかったらしい。結局、美奈子さんの逝去後にブライアンが発表した追悼の言葉が最大の手掛かりということになるようだ。

彼はオフィシャル・サイトで数回に亙って美奈子さんに関わるコメントを発表している。2005年11月7日付のコメントの冒頭部分のニュアンスからすると、当初は日本サイドはおそらくライヴでの共演か何かを想定していたようだ。それが、ブライアンが美奈子さんと直接会ってインスパイアされたことで楽曲が制作されることになったらしい。そうして生まれた「Golden Days」について彼は、 彼女に完璧に合っている、彼女のもろさ(fragility)、喜び、内面に静かに湛えられているかに見える漠然とした哀しみに。 と語っている。

また2006年3月1日付のコメントでは「心を込めて…」に収録されたリミックスヴァージョンについて説明しているのだが、それによると当初は日本語版と英語版をつなぎあわせたものにするつもりでいたらしい。結局は全曲を通して英語版の歌唱を採用したのだが、これはベストな選択だったと述べている。それは慣れない言語で歌うことにより絶妙なもろさ (fragility)、魅力が表れているからであり、そしてそれは当初から自分が意図していたものなのだという。


これらのコメントを読んでとても興味深く感じるのが、“もろさ”(fragility)という言葉をくり返し使っていることである。この言葉はおそらく彼が美奈子さんから受けた印象を端的に表したものなのだろう。その感覚は私にもよくわかる気がする。不思議なもので、美奈子さんは決して弱い人というわけではなく、それどころか常人には考えられないような強さを持った人なのだが、それでいて、迂闊にふれると脆くもこわれてしまいそうな、そんな危うさを秘めた存在でもあった。

ブライアンはきっと、そんな彼女の在り方を魅力としてとらえ、それを最大に生かすための楽曲として制作したのが「Golden Days」だったのだろう。この曲は美奈子さんの伸びのある美しい声が存分に生かされていて、ソプラノ唱法による「見上げてごらん夜の星を」や「天国への階段」と並んで配置されていても全く違和感がない。デビューからまだ二年という時点で美奈子さんにこういう楽曲が似合うと見抜いていたのはブライアンの慧眼というほかないだろう。

曲調は私にはインドからアラブにかけての地域の音楽が微妙に入り混じったような雰囲気に感じられる。少なくとも日本的という印象は受けない。しかしあるいはこれは日本贔屓のヨーロッパ人が思い描く、多分に幻想の入り混じった日本のイメージの反映なのかも知れない。まあ私の思い描くインドやらアラブやらの音楽のイメージにしても全く根拠のない印象に過ぎないので、もしこの楽曲に日本的なるものへの誤解が含まれているのだとしても、少なくとも私にはそれを責めることはできない。


彼が一貫して「Golden Days」についてのみ語り、「Crazy Nights」については一言もふれていないのも興味深い。どうも彼自身ではこの「Golden Days」こそが自分が美奈子さんのために作った作品だ、という認識でいるらしい。実は、この二曲が収録されたシングルは「Crazy Nights/Golden Days」というタイトルなので両A面という扱いのようなのだが、海外盤では「Golden Days」の方が先に表記されているのである。

あるいは「Crazy Nights」はクイーンのギタリストのイメージに近い曲を、という日本サイドの要請で作られたものなのではないか、という気もする。ブライアンの作品といえば大抵の日本人が思い描くのは「Crazy Nights」のような曲だし、クイーンのギタリストとのコラボレーションという触れ込みで売り出すにはこちらの方が都合がよかっただろうとは想像に難くない。このあたりはブライアンと日本サイドとの間に微妙な思惑の違いのようなものがあったのではないか、とも窺われる。

「Crazy Nights」はいかにもクイーンのギタリストの作品らしい、爽快なロックンロールではあるが、いささか陳腐な作品であることは否めない。対して、「Golden Days」にはほかの作品には決して見ることのできない、唯一無二の個性がある。世界的なロック・スターであるブライアンが、国際的には全く無名で、日本においてさえまだ駆け出しのアイドルでしかなかった美奈子さんのために、こうした独創的な、おそらく彼自身の作品群の中でも異彩を放っているのであろう楽曲を制作したということに、感銘を覚える。それは、美奈子さんの類い稀なアーティストとしての資質を見抜いた卓越した鑑識眼と、世界的なスターとしての矜持の賜なのだろう。そんな意味で、この「Golden Days」は、美奈子さんの歩んだ足跡を語る上で欠かすことのできない、貴重な作品である。


なお、ブライアンは美奈子さんの亡くなる直前に日本を訪問した際に事務所にメッセージを託していたのだが、2005年11月10日付のコメントによると美奈子さんは病床で読むことができてとても喜んでいたのだそうだ。彼がメッセージを託したということは各種報道で取り上げられていたが、それを美奈子さんが読むことができたということはあまり伝えられていなかったように思うので、余談ではあるがここに書き添えておきたい。

謝辞

この文章を書くに当たっては以前ケイさん及びたぼさんとの間で交わした議論を参考にさせていただきました。ここに記してお礼申し上げます。ありがとうございました。

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