ジャパンオープン2009

2009年10月 3日

毎年のことなのだけど、私は季節への順応性が低いのか、まだ気分の上では夏の名残りを引きずっているこの時期に「さあスケート・シーズンの始まりです」と言われてもどうも気持ちがうまくついていけない。しかしいよいよオリンピック・シーズンの幕開けなんだよな…。シーズン最初の大会ということで試合というよりはプログラムのお披露目という意味合いが強いジャパンオープンだが、まずは浅田真央ちゃんから振り返ってみる。


曲がラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調「」ということで私としても大いに注目していたのだが、実際に見てみて正直かなり不安になった。オーケストラ編曲版であることはすでに伝えられていて知っていたのだが、曲のつなぎ方が致命的にまずいと思う。というのも、三部形式で作られた作品のうち、中間部が全く使用されていないのだ。

この前奏曲の特徴は、荘重な主部の後に幾分洒脱な調子で始まる中間部が続き、それが次第に盛り上がりを見せたところで再び主部の鐘の音が再現される、という抑揚のある展開にある(実際どういう曲なのかは例えば高橋兼続さんの演奏で聴いてみて欲しい)。それが中間部が省略されるとなると、主部の重厚な和音がひたすら繰り返されるだけの単調な曲になってしまう。昨シーズンの「仮面舞踏会」でも曲調の単調さが指摘されていたが、中間部のない「鐘」というのはそれよりもっとひどい状況のような気がする。というか私は見ていていつになったら中間部に移るんだろう、とずっと気になってしまい、そのまま気がついたらプログラムが終わっていた、というのが実感だった。

ジャンプの調子などはこれから徐々に上げていけばいいことなのであまり気にしなくていいと思うが、大事なオリンピック・シーズンのプログラムがこれでいいのか、という不安はなかなか拭い切れそうにない。繰り返し見ることによってシーズンが終わる頃にはこれが名プログラムだと思えるようになっていればいいのだが…。


中野友加里さんは転倒して肩を痛めたようなのが気がかり。「火の鳥」が彼女に似合っているのかはやや微妙な気がした。実際まだ見ていないので何とも言えないのだが、キム・ヨナさんの007とガーシュウィンというのも私には今一つピンとこない。どうも今シーズンはオリンピック・シーズンだというのに選手の個性と選曲がピッタリしているものが少ないように感じてしまう。

そんな中でジョアニー・ロシェットさんの充実ぶりには目を見張るものがあった。後半の二つのジャンプ・シークエンスの完成度は素晴らしかったし、プログラム冒頭のセクシーな踊りもサムソンを誘惑するデリラを彷彿とさせるものがあった。彼女がこのまま調子を上げていくとなると、日本勢にとってとても手強い存在になるのは間違いない。

ラウラ・レピストさんは久しぶりに見たら随分と垢抜けた感じになっていた。こんなに別嬪さんだったっけ、とちょっと驚いてしまった。欧州チャンピオンに輝いた実績が彼女に自信と風格を与えているのだろうか。ベアトリサ・リャンさんは痛々しい演技になってしまったけれど、ドヴォルザークの「新世界」のスケルツォにラフマニノフの「交響的舞曲」の第1楽章の中間部の旋律をはさんだプログラムが目を引いた。


男子ではジェフリー・バトルさんの好調さが印象に残った。十分現役でやっていけるんじゃなかろうか。小塚崇彦選手はいつも選曲に若さがないのが気になっていたのだが、今シーズンは布袋寅泰さんのギター協奏曲を選んだというのは秀逸なセンスだと思う。ただ、原曲の全体像を知らないのではっきりとは言えないのだが、これも曲のつなぎ方に抑揚が乏しいのが難のような気がする。


不安なことばかり書いてしまったようだけど、とにかく今シーズンもまた選手のみなさんからたくさんの感動をもらえることを祈りたい。

追記: 10月16日0時20分

真央ちゃんのプログラムは、注意して見直すとほんの少しだけ中間部も使用していることがわかった。詳しくはキム・ヨナさん 新情報などに記載。

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浅田真央〜「B69鳴り響く鐘」によせて

浅田真央の「前奏曲嬰ハ短調〜鐘〜」を初めて見た時、正直、期待はずれだった。演技の内容以前に、曲の編集に疑問をいだいたのだ。もともと私は、この曲が好きだ。こ...

コメント

大変ご無沙汰しております。お元気にしていらっしゃいますか?
私自身、体調と意欲がイマイチで、ブログをお休みしていたりしたため、
sergeiさんのブログからも足が遠のいてしまっていました。
月1くらいでROMしたりはしていたのですが、コメントは久しぶりです。

さて、私も全く同じことを考えました。真央ちゃんの「鐘」です。

>三部形式で作られた作品のうち、中間部が全く使用されていないのだ。
(中略)中間部が省略されるとなると、主部の重厚な和音がひたすら
 繰り返されるだけの単調な曲になってしまう。

↑のところです。私も嬰ハ短調は大好きで、繰り返し聞く曲ですが、
途中からうねるように盛り上がっていく中間部こそが好きな理由。

以前、sergeiさんが、私のブログの「調性と色彩と情緒イメージ」の記事に
コメントをくださった時、バトルがSPで使っていたという話になりましたが、
バトルは中間部を使っていますし、SPのせいか演技全体がしまってみえます。
また、ウソワ&ズーリンの演技を動画で初めて見たときも鳥肌が立ちました。
某動画サイトで「Usova & Zhulin "Young Man and Death" 1995」で見られます。

やはり中間部あってこそですよね。今から曲の編集だけでもなんとかならない
ものか…と大変心配な気持ちです。


ちなみに、中野さんの「火の鳥」は、音楽との同調がもっとうまくいけば
きっと素敵なプログラムになるかと。今日は、最初に転んじゃったせいか、
「そこで決めれば素敵なのに」というか…音にはまっていないところが
チラホラありましたので…。

久しぶりのコメントで、長文失礼しました。それでは。

-> みゅりえさん

こんばんは。こちらこそご無沙汰しておりました。お陰様で何とか元気に過ごしております。私もみゅりえさんのことは気にかけつつも、なかなか気の利いたコメントなどすることができずにいた次第です。(『神様に選ばれた試合』ご覧になりました? ^ ^)


そう、前奏曲嬰ハ短調は中間部で次第に盛り上がっていきながら主部の鐘の音が再現するに至る流れがいいんですよね。あれは主部・再現部と中間部との対照があってはじめて名曲といえるのだと思うのですが、中間部を省略してプログラムを作ってしまうという発想にはちょっとショックを受けました。

バトルさんのSPとウソワ&ジューリン組のショー・プログラムも見てみましたが、どちらも完成度の高い、いいプログラムですね。特にバトルさんのはSPなので原曲を一部カットしてあるのですが、つなぎ目に不自然さを感じさせない、見事な構成だと思いました。

今からでもいいから中間部を採り入れた構成に直してみたら、とタラソワさんにアドバイスしたい気分です。ってちょっと偉そうな言い草ですが。^ ^


中野友加里さんは昨シーズンの「ジゼル」があまりにはまり過ぎで、それにも関わらず短いシーズンで終わってしまったという無念さから、どうしても「火の鳥」を見ながらも「ジゼル」の幻影を求めてしまうんですよね。まあ昨日の演技は最初にアクシデントがあって、中野さん自身そうだったでしょうけど見る方もそれを気にしながらの鑑賞になってしまったので、そういうことがなければもっと楽しんで見られるんじゃないかな、と期待しています。


長文大歓迎です。コメントありがとうございました。

ご無沙汰してます。
今年もフィギュアスケートの季節がやってきましたね。

話題の「鐘」ですが、私の場合は番組を見るまでオケ演奏だとは知りませんでした。真央ちゃんはピアノのソロ演奏をよく使うので、てっきりピアノだと。
曲のつなぎうんぬんより、まずそれで「どうしてっ!?」となってしまって。
オケではどうしても音が流れてしまうところがあり、ピアノほどの迫力が出せないと思うのですが。

演技も、ジャンプの不調からかイマイチの内容でしたが、それでも今度のプログラムの素晴らしさが伝わってきて、鳥肌が立ちました。
さすがタラソワさんですね!
完成された「鐘」がとても楽しみです。
勝敗は時の運。
「記憶に残る演技」を期待してます。

-> ぶるうらぐうんさん

こんばんは。こちらこそご無沙汰しておりました。ついにシーズンが始まりましたね。

今年7月にフィギュアスケートで使用される音楽を集めたコンサートが行われて、真央ちゃんも聴衆の一人として鑑賞したのですが、その時に「鐘」の演奏が公開で収録されて、その音源が実際に競技で使用されています。このことはニュースとして伝えられていたので、オーケストラ編曲版だということは事前にわかっていたのです。

この曲は打楽器である鐘の音を同じく減衰系の楽器であるピアノによって模したというところにその意義があると思うのですが、オーケストラへの編曲となると曲の本質がかなり変わってしまうのではないかと思います。私もこの曲はピアノで聴いてこそ、という思いがあるので、オーケストラ版には今一つなじめないですね。


まあそういうことはともかく、今度のプログラムが今までにあまりなかったユニークなものであるのは確かだと思います。真央ちゃんの状態もこれから上昇してくるでしょうし、繰り返し見ることで印象も変わってくるのかも知れません。とにかくシーズンを終えた時に真央ちゃんが心から満足できる結果になることを祈るばかりです。

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