寺嶋由芙さん「猫になりたい!」
2015年1月31日
寺嶋由芙さんの3枚目のシングルについて書くつもりでいたのだけど、その後に公開された「初恋のシルエット」があまりに素晴らしくて頭から離れなくなってしまったので、まずはその話から。
この「初恋のシルエット」は来月8日からライヴ会場限定で発売されるミニアルバム「好きがはじまる Ⅱ」に収録される予定の楽曲で、正式なリリースに先行して音源が今月14日に公開されたものである。GOOD BYE APRILというバンドからの提供曲で、標題の通り初恋の想い出をみずみずしい情感とともに描き出している。曲の世界観とゆっふぃーのキャラクターとが絶妙にマッチしていて、聴いているとどこか懐かしいような感覚にとらわれて泣けてくる。
こうした正統派のアイドルポップスは、各アイドルが新奇なコンセプトを競い合っている近年では逆にやや稀少なものとなりつつあるように思われる。プロデューサーの加茂啓太郎さんのツイートによるとやはり80年代へのオマージュを意識したとのことで、古きよき時代から来たゆっふぃーには好適の趣向といえそうだ。これが次のシングルの収録曲でもよかったような気もするのだが、今後アイドルヲタクたちの間で隠れた名曲として親しまれていくことになるとすれば、それも素敵なことだ。
さて本題の去年12月17日発売のシングル「猫になりたい!」だが、タイトル曲は前作に引き続きジェーン・スーさんとrionosさんのコンビによる作品で、追いかけるより追いかけさせたいという女の子の恋心を歌っている。そういう心の葛藤を犬と猫との対比でなぞらえるのが一般的に行われる比喩なのかよく知らないのだが、敏腕コラムニストのジェーンさんのことだから、これから“犬ガール”とか“猫ガール”といったワードを流行らせていく心づもりでもあるのだろうか。
曲はベートーヴェンばりの同音反復が印象的なAメロからして凝った作りで、rionosさんの意欲のほどが窺える。「カンパニュラの憂鬱」についてのブログ記事の中で加茂さんが「センスの良いコンポーザーほどサビへのカタルシスへ思い切りの良いジャンプをしてくれない」と述べていたが、この曲もそんな一面の表れだろうか。この曲はオリコンウィークリーチャートで自己最高の16位を獲得し、有線放送でも盛んに流れているようなので、ありきたりなアイドルソングとなることを避けつつ上質なポップスを提供するという目論みは、一定の成功を収めたといえるのかも知れない。
MVには多数のゆるキャラと猫が登場して華を添えている。猫耳やしっぽの萌え要素もさることながら、今回の衣装はスカート部分のデザインがゆっふぃーのすらりと長い脚のラインをきれいに見せる形状になっているのがうれしい。振付けはいつもの竹中夏海さんで、今回も猫や犬(断じてキツネではない!)のポーズなど歌詞と連動したわかりやすい視覚的な効果がふんだんに採り入れられている。「尻尾フリフリ」のあたりのあざとかわいい仕草も決して鼻につく感じにならないのはゆっふぃーの得難い資質だろう。
カップリングの「ライク・ア・ヴァージン」はマドンナの有名曲のカヴァー。PandaBoYによるアレンジで、オリジナルよりもかなり速いテンポになっているのが現代風。アイドルがこの曲を…という意外性がカヴァーのコンセプトなのだろうが、そのあたりは考え出すと策略にはまって無駄に病むことになるので深くは追究しない。
通常盤にもう一曲収録されているのが前シングル「カンパニュラの憂鬱」の“ahito inazawa Remix”。ナンバーガールを世に出した加茂さんならではの人脈で、パーカッションが派手めに活躍するアレンジがドラマーらしいといえるだろうか。
DVDが付属する初回限定盤に収録されているのがふぇのたすの山本奨さん作の「ねらいうち」。MOSAIC.WAVアレンジによる電波ソングで、快速なテンポとにぎやかな音響が意味不明に楽しい。
追記(2月6日午前0時07分)
加茂さんのツイートによると「猫になりたい!」はイギー・ポップの「犬になりたい(I wanna be your dog)」のアンサーソングとのこと。