第5回アイドル楽曲大賞2016
2016年12月 3日
アイドル楽曲大賞に今年も投票してみた。投票内容は以下の通り。
メジャー部門
寺嶋由芙「わたしになる」
同名タイトルのアルバム「わたしになる」(レヴュー)のリード曲。やはり今年最も気に入って繰り返し聴いたアイドル楽曲だった。
寺嶋由芙「101回目のファーストキス」
同じくアルバム「わたしになる」の収録曲。一人(一組)一曲のつもりだったけど、この曲も好き過ぎて一つに絞れなかったので両方に投票した。ここに貼り付けられる公式のMV等がないのでファンの方撮影のライヴ映像にリンクしておく。
AKB48「翼はいらない」
秋元康さんの太く長いキャリアの中でも、今年はとりわけ充実した一年だったと思う。アイドルヲタクのみならず幅広い層を巻き込んで話題となった「サイレントマジョリティー」(MV)は、私は初めのうち乃木坂46の「制服のマネキン」(MV)と同工異曲だなというくらいに考えて、あまり感銘を受けなかった。しかし時が経つうちに、この曲は何か非常に重要な問題を示唆しているのではないかという認識を深めるようになった。今から思えばこの曲は、イギリスとアメリカで国民がエリートの推し進める経済のグローバル化に相次いで反旗を翻した現象を予告していたのかも知れない[1]。各種の統計調査には姿を現さずメディアや識者の予測を誤らせた隠れトランプ票の存在[2]は、まさに“サイレントマジョリティーの叛乱”というに相応しかった。
という次第でもちろん「サイレントマジョリティー」に投票してもよかったのだけど、私にとってはそれ以上にインパクトのあったAKB48の「翼はいらない」を投票先に選んだ。この曲は明らかに赤い鳥の「翼をください」を意識したアンサーソングなのだが、私はこの「翼をください」の「悲しみのない自由な空に…行きたい」というフレーズはあまりに安直な願望の表明ではないかとかねがね考えていた[3]。“悲しみのない自由な空”とは、現代の自己疎外状況にあっては“意味のない世界”にしか帰結しないように思われて、私はむしろ、喜びも悲しみも道連れに、地に足をつけてとぼとぼと歩いて行くことを志向する以外に道はないだろうと思っていた。だからこの「翼はいらない」の「大地を踏みしめながら/ゆっくり歩こう」「悲しみも道の途中/ひたすら歩こう」「翼はいらない/今の僕がいい」といったフレーズを聴いて、この稀代のヒットメイカーも自分と同じような感慨を胸に抱いていたのだと知り、大いに意を強くしたのだった。秋元さんがどのような方向からこうした考えを持つに至ったのかがわからなくて興味深いのだが、ともかくこの「翼はいらない」は優れた作詞家の鋭敏な感性が生んだ“現代のフォーク”として、実に秀逸な作品だと思う。
ついでながら大物OGが多数参加した「君はメロディー」(MV)も今年特に好きな曲の一つだった。
- ^ こうした現象を“ポピュリズム”と呼ぶことの愚かさについてはエマニュエル・トッド氏のインタビュー(アメリカ大統領選投票前の毎日新聞と投票後の朝日新聞)を参照されたい。
- ^ 「隠れトランプ票」番狂わせ招く 世論調査に回答せず:朝日新聞デジタル
- ^ 近代的な自由の概念が持つ複雑な性格については例えばエーリッヒ・フロムが「自由からの逃走」で論じているが、ここでの文脈では、カール・マルクスが「資本論」において本源的蓄積について説き起こすくだりで“鳥のように自由なプロレタリア”という言い回しを繰り返し用いていたことに言及しておくのがいいだろう。
赤マルダッシュ☆「心のピアス」
赤マルダッシュ☆に関しては危惧していたことがこの一年で全て現実に起きてしまったという感じで、つい先日始まったクラウドファンディングの呼びかけからもその苦境のほどが察せられる。私はあまり力になれないけど、せめて励ましの気持ちもこめてこの曲に投票した。以前ごく簡単にレヴューしたけど好きな曲調で心惹かれる。
Party Rockets GT「虹色ジェット」
パティロケも一時は苦しい状況を経験したけど、魅力的な新メンバーの加入もあって順調に活動を継続できているのは喜ばしい。「虹色ジェット」は実に彼女たちらしい壮快なロックナンバー。
インディーズ部門
Fullfull☆Pocket「流星Flashback」
からっと☆に至っては一度は解散してしまったわけだけど、うれしいことにFullfull☆Pocketとしてシーンに復帰してくれた。「流星Flashback」は前にも少し述べたけどからっと☆時代のエモさを引き継ぐ名曲。
PiiiiiiiN「絶対NEVER DIE」
この曲については昨年の投票の時にも述べた通り、私の好きな松隈サウンドそのもので深く魅了された。
アイドルネッサンス「君の知らない物語」
アイドルネッサンスの楽曲はずっと好きだったのだけど、過去の投票では何となく選びそびれていたのが、この曲は極めつけのレパートリーがついに出たという感じで迷わず選んだ。アニメのエンディングテーマとして親しまれた曲なので、そのアニメも原作も全く知らない私はこの曲の魅力を半分程度しか理解できていないのかも知れないけど、ともかく彼女たちのよさが一杯に詰まった秀逸なカヴァーだと思う。
ぜんぶ君のせいだ。「無題合唱」
ピアノをフィーチャーしたロックサウンドが甘い感傷を誘う名曲。“病みかわいい”をコンセプトにしたグループだが、キワモノ的な方向ではなく正統的なエモさを追求する姿勢に好感を抱いた。
アップアップガールズ(仮)「君という仮説」
このところアイドル界隈ではなぜか哲学や科学思想をモティーフに採り入れた楽曲が目立つのだが、その中でもこの「君という仮説」は最も成功している部類に入るのではないかと思う。科学上の発見に至るプロセスと、自己実現を目指して足掻く全ての人への励ましのメッセージとがうまく重ね合わされている。そこに彼女たちの歩んできた道のりがさらに透けて見えるところがまた憎い。
なお、メジャー、インディーズともにここに記載した順序で投票したが、ポイントは全て一律に2.0をつけた。
アルバム部門
アイドルの楽曲をアルバム単位で聴くということをほとんどしていないので今年もこの部門は不参加にしたが、寺嶋由芙さんの「わたしになる」(レヴュー)は名盤だということだけここに記しておく。
推し箱部門
寺嶋由芙さんに投票した。
番外
こぶしファクトリー「辛夷の花」
辛夷(こぶし)の花をモティーフとして命名されたグループによる、まさにその名を冠した楽曲で、おそらく満を持して出してきた自信作なのだろう。力強く暖かいメッセージに魅了された。長渕剛さんとか吉田拓郎さんを思わせるような曲調がハロプロの楽曲にしてはやや意外なのだが、演歌風の小節(こぶし)を効かせたソウルフルな歌唱も隠れた名前の由来となっているに違いない彼女たちには、実によく似合っている。ハロプロ楽曲大賞の方に投票すればいいだけの話なのだけど、そちらにまで手を出す余力がないので代わりにここに記しておく。彼女たちにとってのアンセム的な存在に育っていくといいな、と思う。
コメント
sergeiさん、本当にお久しぶりです。ys-hearty-blogのysheartです。
しばらく忙しかったのですが、少しブログを整理する余裕が出来たものですから、リンクをチェックしているうちに、こちらを訪ねてみました。
クラシックやフィギュアスケートの印象が大きかったので、このアイドルの記事には驚いて、また面白いなあと思って見ています。考えてみれば、このブログで書かれている本田美奈子さんという方も、当時のアイドルだったわけで、sergeiさんがこういった記事を書かれるのは特別なことでもないのかなと、勝手に思いをめぐらせてしまいました。
私のブログへのリンクをずっと置いてくださっていて感謝しております。
今後ともよろしくお願いします。
-> ysheartさん
お久しぶりです♪ ご覧の通り今やすっかりドルヲタモードです(笑)。美奈子さんはそもそもはアイドル時代の初期に好きになったものの、すぐについていけなくなって、亡くなってから急にかつての燃え残りの愛が再燃した、という経緯だったのでした。だからアイドルポップスとはすごく中途半端にしかつき合ってこなかったのですが、それが今になってどっぷりとハマってしまっているというのも、何か不思議なめぐり合わせだな、という気がします。
このブログは今は放置気味で、月一回の更新を何とか保っているという状態です。特にリンク関連はせっかくご縁のあった方たちとの想い出をたどるよすがなので、なかなかいじる気にはなれずにいます。こちらこそどうぞよろしくお願いします。