寺嶋由芙さん「天使のテレパシー」

2017年4月12日


先月22日に寺嶋由芙さんの6枚目のシングル「天使のテレパシー」がリリースされた。テイチクに移籍してからシングルとしては初の作品となる。タイトル曲「天使のテレパシー」は80年代風のアイドル楽曲で、懐かしさが一周回って新しいというゆっふぃーにはおなじみの路線である。作編曲は前作アルバムのリード曲「わたしになる」と同じく宮野弦士さんで、今やプロデューサー加茂啓太郎さんのチームには欠かせない人材という感がある。往時を知らない若い作曲家なのにいかにもなキラキラした雰囲気を苦もなく再現してみせるのはさすがで、ノスタルジックな感興を喚起しつつも古さは少しも感じさせないところが素晴らしい。

作詞の真部脩一さんは、同じく前作アルバムの収録曲「101回目のファーストキス」が好評だったことに応えての起用ではないかと思う。私もこの曲は大のお気に入りだったので、各曲の提供者の発表があった時点でもうすでに胸が高まるものがあった。“ピッピッピ”、“パッパッパ”といった要所に配した擬態語は意外だが効果的で、ああそういえば昔のアイドルソングってこんなだったなぁと懐かしくなる。その一方で「マグマのように 熱は湧き出る」「今日だけの冷めない火照り」といったフレーズに、アイドルらしいかわいさの奥にひそむ“女”としての芯のようなものもほの見えてドキリとさせられる。前作でもそうだったけど、こうした生々しい情念めいたものをキラキラした言葉遣いの合間から品よくこぼれさせるのが実にうまい。最後の「湯気が出るほどに/ホカホカのわたしを/温かいうち まるっとあげる」という部分は「わたしになる」のMVの最初の方のシーンにつながっているようで心憎い。アルバムのレヴューにも書いたように、このシーンにちょっとした思い入れのある私としてはうれしい演出だった。「感触ごと 読みとってほしいよ」が不自然な譜割りのせいで「看取ってほしい」と聴こえてしまうのも何だか楽しい。

MV(全編は初回限定盤Aに付属のDVDに収録)はベタなドジっ娘シーンをこれでもかと詰め込んだもので、ヲタク心を巧妙にくすぐられてきゅんきゅんする。細かく言及していくときりがないが、書店のシーンはアルバムのレヴューでもふれた大学一年生の時のエピソード[1]を思い起こさせてお気に入りだし、サッカーボールのシーンは黄色のワンピースが似合い過ぎて胸が締めつけられる。各所でさり気なくゆるキャラが登場するのもゆっふぃーらしいサービスで、ゆるキャラヲタクの方ならお気に入りのキャラを探しながら見るのも楽しいだろう。

今回着ているのはいかにもアイドルという感じのフリフリの衣装で、ヲタクを陶酔させる魔力を秘めている。私は初披露のイベントを配信で見ながら、ふと加藤千恵さんのいう“まっピンク”というのはきっとこんな感じの色合いをいうのだろうな、と頭に浮かび、熱に浮かされた勢いで下手なパロディ[2]まで作ってしまったほどだった。その時は本人はだいぶ照れた様子を見せていたが、リリース週最終日のワンマンライヴの頃になるとすっかり板について、堂々と着こなしていた。ゆっふぃーが踊るたびにスカートの裾がひらひらと舞うのを眺める気分は、まさに夢見心地だった。



終点、ワ・タ・シ。」はゆっふぃーにとって初となる演歌で、作詞・作曲は町あかりさんが手がけている。ゆっふぃーは予てから演歌も好きだと話していたし、テイチクは演歌の大御所を数多く擁するレコード会社なので、いつかは歌って欲しいと思っていたが、これほど早く実現するとは思ってなくてうれしい驚きだった。町さんはここまで振り切ったド演歌は初めてのようだけど、昭和歌謡をオマージュした活動をしてきた才人ということもあり、あまり苦労もなく産み出すことができたようだ。クール・ファイブ風の“ワワワワ”コーラス(コーラスアレンジは芦沢和則さん)や編曲の宮野さんこだわりのヴィブラスラップ(この楽器名は宮野さんのツイート[3]で知った)の効果も相俟って、まさに演歌の世界を形作っている。特筆すべきなのは川嶋志乃舞さんの三味線で、出だしのソロのカッコよさからしてもうただごとではない。演歌の編曲で三味線が使用されることはよくあるが、一流の奏者を起用するとこうも違うかと感嘆させられる。

このようにフォーマットは完全に演歌なのだが、中身は今どきのアイドルとヲタクの関係性を描いたアイドルソングとして成立しているのがこの曲のユニークなところだ。この“ヲタクが最後にたどり着く終着駅”というモティーフについては、以前に絵恋ちゃんが「オタクが最終的にたどり着くのはゆっふぃーさん」と発言して[4]、それがアイドルヲタクの間でちょっとした話題になるということがあった。だからこの曲を最初に聴いた時はてっきり町さんもその件を元に作詞したのだと思ったのだが、町さんはこのエピソードを全く知らなかったそうで、本人のいい方によると「「なんて信頼できるアイドルなんだ」と勝手に感じて出来た曲」だという[5]。ゆっふぃーに対して絵恋ちゃんと町さんの二人が偶然にも同じ印象を抱いたというのは何とも興味深い。

ゆっふぃーの歌唱は、かなり付け焼き刃的に習得したようで幾分ぎこちなさは感じさせるものの、随所にしゃくり(挙げるときりがないが例えば歌い出し“見送るたび”の‘び’とか)やポルタメント(“ちょっぴ〜り”、“しっか〜り”の伸ばすところなど)、ルバート(一番わかりやすいのは大サビで“きっと最後は”の‘さ’が少し遅れるところ)を織り交ぜながら叙情的で粘っこい歌い回しを聴かせている。宮野さんが検索して調べた[6]という「母音を二回続ける」技法は産み字というそうなのだが、“たどり着く”(た〜ど〜おり〜つう〜く〜)、“待っています”(ま〜あってい〜まあ〜す〜)といったあたりに生かされているようだ。

MV(全編は初回限定盤Bに付属のDVDに収録)はシンプルな作りながら、藤色の振袖に身を包んだ凛とした佇まいを存分に堪能させてくれる。“古きよき時代から来”たゆっふぃーに和装が似合うのはもちろんだが、うなじをしっかり見せようと襟まわりをゆるくした着こなしがまた何とも罪深い。

リリースイベントではテイチクのスタッフさんたちがこの着物に合わせて作った紫の法被を着るという力の入れようで、ワンマンライヴの最後のアンコールの際は、ゆっふぃー自身がそれをピンクの衣装の上に羽織って登場した。細身で手足の長いゆっふぃーが法被をまとうその姿は祭りで出会ったいなせなお姉さんといった風情で、長く垂らしたポニーテールと相俟って得難い情緒を漂わせていた(写真、正面後ろ姿)。このまま時間が止まってしまえばいいという思いにとらわれながら客席から眺めたその光景は、私の心に忘れ難い印象を刻みつけた。


もう一曲「みどりの黒髪」はやはりおなじみのヤマモトショウさんが作詞作曲を手がけている。この“みどりの黒髪”という古式ゆかしい修辞法はかつて一度も染めたことがないという黒髪ロングがトレードマークのゆっふぃーにはまさにうってつけのテーマで、いわれてみればむしろなぜ今までこういうタイトルの曲を歌ってなかったのだろう、という倒錯した思考にも陥ってしまう。こういう絶妙なツボをついてくるセンスはショウさんならではだし、キーワードとなる単語や擬態語のヴァリエーションを執拗にたたみかけてくる特徴的な手法も“ショウさん印”の感が深い。編曲のrionosさんもゆっふぃーの楽曲制作陣には欠かせない人で、今回はやや影が薄い形での参加になったけれども、クレジットにお名前を連ねているのを見るのはやはりうれしい。


かくしてこの「天使のテレパシー」は三曲の中に推しへのいとしさがいや増しになる要素が一杯に詰め込まれたシングルとなっている。それにつけても、ゆっふぃーが最近のインタビュー[7]で語った「“好きだ!”という気持ちをぶつける対象があるだけで、人生はとても豊かになる」という言葉は、まさに至言だと思う(その前に述べている一言は前髪をブラインドにして見なかったことにする)。思えばゆっふぃーを推すようになってからというもの、何気なく過ごす日々がいかに彩り豊かになったことか。そんな奇跡を起こしてくれるアイドルって尊い存在だな、とあらためてしみじみと感じさせられる。

最後に余談だが、“80年代風アイドルソング”と“テレパシー”というキーコンセプトから、私は「てれぱしいください」という歌のことを懐かしく思い出した。当時それほどヒットした曲ではないが、NHKの動物番組のテーマ曲に採用されいていたのでご記憶の方も多いと思う。私自身、歌っていた歌手の名前すら覚えていなかったくらいなので大して気にとめて聴いていたわけでもなかったのだが、曲は今でも鮮明に思い出せるので、番組視聴の傍ら小耳にはさんだだけでも心を惹きつけるものがあったのだと思う(あらためて調べてみるとこの曲はどういうわけか森村聡美さんと北島美智代さんという二人の歌手によって歌われていて、「ウオッチング」のテーマ曲は北島さんの方のヴァージョンだったようだ)。この曲がリリースされたのが真部さんの生まれた1985年というのはどこか因縁めいているようでもある。はたして真部さんはこの曲をご存知だろうか……。


脚注
  1. ^ ゆっふぃーの2016年6月26日付のツイート
  2. ^ 2月13日付のツイート
  3. ^ 宮野弦士さんの1月30日付のツイート
  4. ^ ask.fmへの2016年02月17日付の投稿
  5. ^ 寺嶋由芙×町あかり対談――20代の解釈で作ったカオスな演歌「終点、ワ・タ・シ。」(宗像明将) - 個人 - Yahoo!ニュース
  6. ^ “ゆっふぃー”こと寺嶋由芙、ニューシングル「天使のテレパシー」リリース | スペシャル | EMTG MUSIC
  7. ^ インタビュー:“好きだ!”という気持ちをぶつける対象があるだけで、人生はとても豊かになる――寺嶋由芙が目指す“ゆるドル”とは - CDJournal CDJ PUSH
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コメント

sergeiさん、ひさしぶりです。それぞれの楽曲について丁寧で詳しくて、読みごたえがありました。特に、「終点、ワ・タ・シ。」の歌唱法などは興味深いです。この曲に限らず、「みどりの黒髪」などにしても、個人的には、ゆっふぃーの歌唱に、関心があるものですから、YouTubeを再生しながら(笑)読ませていただきました。
先週、八千代のリリイベには都合が合わずに行けず残念でしたが、次の機会を楽しみにしているところです。

-> ysheartさん

こんばんは〜。がんばって書いたので少しでも参考にしていただけたとしたらうれしいです♪ でも素人が知ったかぶりしてるだけなので眉につばをつけながらというくらいのつもりでお願いします…(汗)。動画とか探せばいろいろとあると思いますのでぜひたくさん見てみて下さいませ。

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