NHK杯の思い出

2008年11月24日

先週の水曜から土曜にかけてNHKのBS1で今回で30回目を迎えるNHK杯の歴史を振り返る番組が放送された。涙が出そうなほど懐かしいもの、見ていたはずなのに全く記憶にないもの、今も記憶に新しいものなど、様々な映像があって実に楽しかった。


記憶している限りでは私が初めてNHK杯を見たのは1986年の大会で、フィギュアスケートをまともに見ること自体これが初めてだった。この時に女子シングルで優勝したのが歴史的な名選手として名高いカタリーナ・ヴィットさんで、世の中にこれほど美しいものがあったのか、と驚嘆しながら見ていたのを思い出す。その後のスポーツニュースではバンケット会場からの中継でヴィットさんにインタビューしていたのだけど、最後にアナウンサーの要望に応えてカメラに向かってウィンクしてくれたのが忘れられない。あの時ヴィットさんがかけてくれた魔法のお蔭で今日までフィギュアスケートを見続けてきたと言っても過言ではない。

もし見られるものなら私はこの時の映像が見てみたかったのだけど、番組ではその翌年の『カルメン』の演技が放送された。こちらももちろん十分に懐かしい映像である。彼女のプログラムは現在の水準で言うとジャンプの構成はジュニア並みではあるのだけど、氷の上に降り立った時の大輪の花が咲いたかのような圧倒的な存在感は比類がない。私の考えではこれに比肩し得るのは荒川静香さんしかいないと思う。最初にフィギュアスケートの魅力を教えてくれたのがこの人だったというのは本当に幸せなことだったな、とあらためて感じた。


一方当時のライバルだった伊藤みどりさんは現在の水準で考えても極めてハイレベルなジャンプを跳んでいたことにあらためて気づかされる。トリプルアクセルは今は例えば浅田真央ちゃんも得意にしているが、みどりさんのトリプルアクセルは高さ、力強さ、豪快さにかけてずば抜けている。現在数多いる天才ジャンパーたちも、みどりさんの前にはかすんでしまうように思えるくらいである。

みどりさんが世界の頂点に立って以降はもう2種類のトリプルジャンプで女王になるなんてことはあり得なくなってしまった。私たちはあの頃一人の天才の登場が競技の性質自体を変えてしまうという稀有な例に立ち会っていたのだということをあらためて思い知らされる。今でいうと例えばアリッサ・シズニーさんなんかはもしこれより前の時代に競技をしていたなら歴史的な名選手として称えられていたかも知れないな、などとヴィットさんとみどりさんの演技を見比べながら考えた。


荒川静香さんの映像はまだ少女の頃のものから世界選手権優勝後のものまで見せてくれて成長の過程が確認できて興味深かった。あまり感情を込めずに淡々と滑っていたジャンプの天才少女が大人の女性の魅力に溢れた表現者へと変わっていく様子がとてもよくわかる。同じ時代に活躍したライバルである村主章枝さんがいい意味で今も当時とあまり変わっていないように見えるのとは対照的である。

その優雅な大人の女性へと変貌を遂げた荒川さんの演技として2004年の大会のフリー演技『ロミオとジュリエット』が放送されたのだけど、欲を言えばSPの方の『蝶々夫人』の方が見てみたかった。あの時の『蝶々夫人』は本当に神々しいまでの美しさで、荒川さんの競技人生の中でも最高の演技の一つだったのではないかという気がする。

この大会で2位になったのが安藤美姫さんで、インタビューに「しーちゃんと同じ色のメダルが欲しいです」と答える安藤さんの姿が微笑ましかった。この時のスポーツニュースには二人揃ってあでやかな着物姿で出演してくれたのもNHK杯にまつわるうれしい思い出である。


そのほかにも陳露さん、フィリップ・キャンデローロさん、エフゲニー・プルシェンコさん、申&趙組など何度も来日して大会を盛り上げてくれたお馴染みの選手たちの映像がたくさん見られてうれしかった。あのプルシェンコさんと競い合っていた全盛期の本田武史さんの力強い演技も久しぶりに見てその素晴らしさを再認識した。ジョニー・ウィアー選手の初優勝も衝撃的だったな…。とにかくNHK杯のみならずフィギュアスケートの歴史自体を回顧することができて、この競技の魅力を満喫することができた。

Bookmark and Share BlogPeople 人気ブログランキング にほんブログ村

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:

管理者の承認後に反映されます。

http://vita-cantabile.org/mt/tb-vc/462

コメント

私、この放送、初日だけ見逃してしまいました。また再放送してくれないでしょうか(涙)別に特別なファンではないですが、キャンデローロが見たかったですし、ビット選手も見たかったです。

感想がだぶってしまいますが、今見ても伊藤さんのジャンプは迫力がありますよね。まさに男子顔負けと言う感じで。そして、これまたおっしゃられるようにもしこの選手が今、もしくは前に活躍していたらどうなるだろうなとけっこう思うことがあります。ソルトレークで、今の採点方式であれば、村主さんがメダル取れていたかもしらないとか、男子の優勝はプルシェンコだったような気がしないでもとか。
シズニーさんはジャンプ以外は世界選手権の表彰台クラスだと思いますし、私は詳しくありませんが、ビットさんの技術力は、今でならそれほど上位には来れないレベルですよね。でも、すごく雰囲気があって、ありきたりですが、彼女のカルメンを超えれた選手はいないのではと思っています。

本田君はけっこう最初から最後まで選手生活を見ていましたが、初めて4回転を飛んだ時の様子は今見てもほほえましいと言うか(と言っても、彼とは同じ年ですが)プルシェンコの若かりし頃も、すごく懐かしかったのですが、特にファンでない母が、彼のビールマンスピンに驚嘆していました。確か、男子では彼しか出来ない、と聞いたことがあります。

-> モモさん

私は最終日のクイズ形式の紹介番組だけ最初の方を見逃してしまいました。でも今日の番組はしっかり鑑賞しました。


ルールの変遷は時に皮肉なドラマを生みますよね。村主さんはトリノの時に旧採点方式だったら銀メダルだったんじゃないかともよく考えます。ロシア大会を見ていてシズニーさんの優雅な演技はヴィットさんと比べても遜色ないんじゃないか、などと感じました。ルッツとフリップを跳ばなくてもいいのなら彼女こそ女王と呼ばれるのに相応しいような気がします。今の選手たちはハイレベルな技術を習得しなくてはならなくて本当に大変ですね。


プルシェンコ選手は精度の高い4回転ジャンプもさることながらビールマンスピンも驚異でしたよね。男子ではとてもめずらしいですが、日本の柴田嶺選手も得意にしていますよ。

コメントを投稿

最新のコメント

最新のエントリー

author

author’s profile
ハンドルネーム
sergei
モットー
歌のある人生を♪
好きな歌手
本田美奈子さん、幸田浩子さんほか
好きなフィギュアスケーター
カタリーナ・ヴィットさん、荒川静香さんほか

最近のつぶやき

おすすめ

あわせて読みたい

Giorni Cantabili を読んでいる人はこんなブログも読んでいます。