「真珠の耳飾りの少女」

2012年8月27日

24日の金曜日に現在東京上野の東京都美術館で開催されているマウリッツハイス美術館展を観に行ってきた。この展覧会の目玉は何といってもヨハネス・フェルメール(1632年 - 1675年)の「真珠の耳飾りの少女」である。

真珠の耳飾りの少女

この絵は地下の入り口から一つ上がった一階の最初の位置に展示されていて、最前列で鑑賞するためには長い列に並ぶように誘導されている。私もそれに並んだのだが、最後尾から遠目に観た時点でもう、あの視線が目に突き刺さってきた。私はあまりに世の中で名作と騒がれたりするとひねくれて「本当にそうか?」と疑ってしまうたちなので、美術館に向かっている最中は半信半疑で「いわれるほど美少女ではないような」とか「眉毛がなくてこわい」「武井咲さんの方がかわいいだろ」などいろいろと下らないことを考えていた。しかし実際に観てみるとやはり絵から発散されるオーラには尋常ならざるものがあった。ずっと以前に実物を観たこともあるレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」は正直いって名画だといわれる理由を理解できたことがないのだが、この絵は紛れもなく本物の名画だと思った。

最前列では止まらずに歩いて観賞するよう指示されていたのであまり細部を丹念に観察することは困難で、両目の瞳や唇の両端に白い輝点が描かれていることなどは確認している余裕がなかった。しかし美術史の専門家などではなく、日ごろ熱心に美術館に足を運んでいるような美術ファンですらない私には、あの観る者の心を射抜くような無垢な視線を全身で体感できただけでも十分だろう。


このほかにフェルメール作品としてはもう一点、「ディアナとニンフたち」が展示されている。これは画家の若い頃の作品だそうだが、ディアナの服の色が“少女”と似通っているなど、鮮烈でありながらも決してけばけばしくならない色彩感覚にフェルメールらしさが窺える気がする。その一方で、ディアナもお付きのニンフたちも誰一人としてまともに顔が描かれていなかったり、神話に題材を採っているのに人物に少しも神々しさが感じられないあたりに未熟さが感じられる、などと生意気に考えたりもした。

フェルメール以外で目を引くのは6点ほど展示されているレンブラント・ファン・レイン(1609年 - 1669年)の作品で、特に名高い最晩年の自画像には、この稀代の肖像画家の力量と素顔の人物像とが表されているような気がする。「水浴するスザンナ」は旧約聖書の外典に題材を採った、なかなかエロティックなシチュエーションを描いた作品なのだが、私の感覚では惜しいかな色っぽさが少し、というかかなり足りない、というのが率直な印象である。(当時のヨーロッパ人にはああいうむっちりとした肉付きの女性が好まれたのだろうか。)

このほか注目すべきなのは「フランダースの犬」に登場することでも知られるアントウェルペン大聖堂の祭壇画「聖母被昇天」のペーテル・パウル・ルーベンス(1577年 - 1640年)自身による下絵である。下絵とはいえそれなりの大きさで細部まで入念に描かれているので十分に見応えがある。特にアニメ好きの方にはうれしい展示だろう。


呼び物となっている「真珠の耳飾りの少女」のほかは全体にやや地味な印象も受ける今回の企画だが、この名高い美少女に逢うだけのためにでも行ってみる価値は十分にある。東京都美術館では来月17日まで開かれているので、美術にあまり関心がなくても美少女にはちょっと興味があるという方はお出かけになってみるといいと思う。来月29日から来年の1月6日までは神戸市立美術館で開催されるので、関西地方の方はお楽しみに。

なお、東京都美術館の展示ではショップの出口を出たスペースの奥の方に、この企画のプロモーションのために少女の姿を再現した武井咲さんが実際に着用した衣装が展示されている。武井さんのファンの方は必見である。うっかりすぐ手前にある下りのエスカレーターでそのまま階下に降りていってしまわないようご注意を。



それにしてもこの映像、BGMにマーラーの交響曲を使っているのは何ともミスマッチという気がする。グスタフ・マーラー(1860年 - 1911年)と同時代の画家というと、直接の関わりがあったかは定かでないが同じウィーンで活躍したグスタフ・クリムト(1862年 - 1918年)が思い浮かぶが、マーラーやクリムトが体現する19世紀末ウィーンの爛熟した文化の香りは、(イマニュエル・ウォーラーステインの用語でいう)世界=経済のヘゲモニー国家として勢威を誇った17世紀オランダの清新な気風とは、かなり趣きの異なるものであるように思われる。

フェルメールとはやや時代が異なるが、同じ地域で活躍したフランドル楽派と呼ばれる人たちが、音楽史では重要な位置を占めている。現在では演奏や録音される機会はそれほど多くないが、この楽派の作曲家による一般にはあまり知られていない隠れた名曲でも使った方がよほど気が利いているのに。…などとこの楽派についてろくな知識のない私がいっても全く説得力がないのだが。

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