Wikipedia編集後記
2008年3月13日
本田美奈子さんの項目の編集が一段落したところなので、この機会にWikipediaに参加しての感想を少し記してみたい。
本格的な参加をするようになってから8ヶ月ほどになるが、自分自身の考えを書いてはいけないなどの難しさはあるものの、とにかく運営が民主的なのが気持ちいい。全ての利用者が平等に扱われ、問題点は利用者間の議論によって解決されていく。普通の利用者にはない特別な権限を持つ管理者は存在するが、あくまでも利用者全体の意向を確認してボタンを押すだけの役割りしか与えられておらず、その意見が他の利用者より優先されるということはない。このウィキというシステムは現在世界に存在する制度の中でも最もオープンで民主的なものと言ってもいいのではないだろうか。
もちろん、中にいるとそれなりにいろいろと問題があることも見えてくる。参加者の中には百科事典の編集というのがどういうことかを理解していない人や、明らかに共同作業に向いてない人がおり、そういう人は審議の末投稿をブロックされることになる。世間的には名の通った知識人でありながらこういう憂き目に逢う人がいるというのは何とも情けない限りである。
また基本的には素人がボランティアでやっていることなので記された内容を過度に信頼してはいけないのだということも痛感する(もちろんプロが自分の専門領域で活動している例も決して少なくないだろうが)。私が気がついて直した大きな誤りの中には次のようなものがある。
- (チャイコフスキーの項目で)「バラキレフら5人組と共に国民楽派と呼ばれる」(直す直前の版)
- (モスクワ芸術座の項目で)「チェーホフの『かもめ』はモスクワ芸術座のために書かれた」(直す直前の版)
ロシアの芸術にある程度関心のある方ならこれらがいかに酷い誤りであるかおわかりいただけるだろう。こういうものが半年以上にもわたって放置されていたということからもWikipeidaの記述に過大な信頼を置くことの危険性は明らかである。
モスクワ芸術座に関してはそもそも項目自体があまりに貧相なのも残念である。おそらく演劇人にはインターネットのヘヴィ・ユーザーが少ないのだろう。このようにWikipediaの項目の精粗からインターネット・ユーザーが何に関心を持っているかが見て取れるのも興味深い。
何にせよ人類の知識をウェブ上で共有しようという斬新な試みは有意義なことであり、私も少しでも貢献していきたいと思う。
コメント
sergeiさん、こんばんは!
客観的に書き切る難しさっていうのは、文学好きな国語の教師が、学校教育で指導に悩む場合と似ているのかなーと感じました。
ロシアの芸術の知識は少しかじったので、「ロシア5人組にチャイコフスキーを入れるなよ(でも、5人のうち1人が思い出せないw)」とか、モスクワ芸術座の項目には、メイエルホリドの名も入れて欲しいなーと思ったりとか、楽しく読みました。
知り合いに演劇志す人が何人かいますが、ユーザーの関心事という点でsergeiさんの仰る点はたしかに興味深いところで、いずれもあまりネットを頻繁に利用していない感じがします(笑)
さて、sergeiさんには、僕はこれまで度々コメントさせていただき、sergeiさんもブログに時々来てくださったので、そろそろ、リンクさせていただこうかと考えているのですが、よろしいでしょうか?
-> ysheartさん
好きな分野だからこそ参加しているのに、そこに自分の思いを盛り込んではいけないというのはなかなかつらいことですね。
5人組で思い出せない一人というのは多分ツェーザリ・キュイかな? 彼は主に批評家として活動したので作品はあまり親しまれていないんですよね。しかしチャイコフスキーを彼らと一緒にしてしまっているのには心底驚きました。
メイエルホリドがなぜモスクワ芸術座と袂をわかったのかなどまで書いてあるといいんでしょうけどね。でもメイエルホリドの項目は英語版から翻訳したらしくて結構詳しかったりします。そのうち気が向いたらせめてかもめのシンボルマークのことくらいは自分で加筆しようかと思っています。
やはり演劇人はあまりネットを熱心には利用しない傾向にあるようですね。身体による表現に従事する人にはこういうヴァーチャルな空間は性に合わないのでしょうかね。
もしよかったらリンクして下さいませ。後ほどこちらからもリンクさせていただきます。
私も時々wikipediaを参考程度に見る事があるけれど誤りが多すぎると感じています。
好きだからこそ伝える事の難しさがあります。
情報伝達の大切さも重要である事を再認識致しました。
sergeiさん、こんばんは!
そうです!キュイだけ、名前が短くて印象が薄いせいもあるかも知れないし(笑)、作品を知らないので忘れてしまいます。
かもめが再上演されて好評だったインパクトが大きくて、シンボルマークがかもめになったのでしたね。モスクワ芸術座のエピソードはいろいろ興味が尽きませんね。
リンクの件、ありがとうございます。14日付でリンクさせていただきました。これからもよろしくお願いいたします!
-> moonさん
いろいろと問題点はありますが、せっかくの素晴らしいプロジェクトなので、より正確で内容豊富な百科事典に発展していって欲しいと願うばかりです。
-> ysheartさん
キュイはフランス人の父とリトアニア人の母の間の混血だそうで、名前がロシア風でないせいもあって覚えにくいんですよね。ただラフマニノフの交響曲第1番を「エジプトの7つの疫病」になぞらえて酷評した人物として、ラフマニノフ・ファンには忘れ難い名前でもあります。^ ^
モスクワ芸術座による『かもめ』再演の成功は人類の舞台芸術の歴史上画期をなす出来事で、それだけに「チェーホフの『かもめ』はモスクワ芸術座のために書かれた」などという記述が放置されていたのには驚きを禁じ得ませんでした。実はこの劇団はラフマニノフとも浅からぬ縁があり、このサイトでもそのことを語ってみたいと思いつつなかなかできずにいるところです。
リンクしていただきましてありがとうございます! 明日にでもこちらからもリンクを張る作業をしたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いします。