「APÉRITIF」
2009年10月 6日
1985年4月20日にシングル「殺意のバカンス」にデビューした本田美奈子さんは、その半年あまり後の11月21日に初めてのアルバム「M'シンドローム」を発表している。このアルバムは、その時すでに発売されていた「殺意のバカンス」や「好きと言いなさい」が収録されていないという、めずらしい構成になっていて、美奈子さんが当時からかなり特異なスタンスで音楽に取り組んでいたことを窺わせるものとなっている。
このアルバムには、終曲として「APÉRITIF」という、ちょっとお洒落で魅惑的な作品が収録されている。“apéritif”とは食前酒を意味するフランス語の単語で、元々は「食欲をそそる」という意味の形容詞が派生的に名詞として使用されるものである。
この曲は2007年に発売されたバラード集、「Anthem of Life〜Sweet Ballads Best〜」に収録されたのだが、このアルバムでは曲名が“APÈRITIF”と誤って表記されている。ここでの‘E’につくアクセント記号はアクサン・グラーヴではなくアクサン・テギュでなくてはならない。細かいことを言うようではあるが、こうした無粋なミスはせっかくのお洒落な雰囲気を台無しにしかねないもので、惜しまれるところである。
この曲は美奈子のお気に入りのレパートリーだったらしく、1987年に雑誌のインタビューに答えて「あの詞がいいですよ、いやらしくて。私っていやらしい曲が好きなんです」と語っていたそうだ。ということは、これが何を意味するかというと、聴く方もこの曲を自由に想像を膨らませて聴いても構わない、ということだ(どんな想像かについては多くは言わない)。実際に、聴いていると「抱いて 抱いて/熱いルージュ 召し上がれ」とか「吐息の海/白いシーツのその上を 泳がせて」といったフレーズからは豊穣なイマジネーションが広がっていく。
そうした意味で、この「APÉRITIF」も美奈子さんの多彩なレパートリーの中で特異な位置付けにある作品だといっていいだろう。特に際立って優れた作品というわけでもないだろうし、「Anthem of Life」で初めてこの作品を知った私にとって格別な想い出があるわけでもないが、美奈子さん本人の口で作品の解釈を(あまりにも、といっていいほど)わかりやすく説明し、作品の世界へ誘ってくれているという点で、貴重である。
作詞は秋元康さんだが、この手の詞を書かせるとさすがにうまいというか何というか…。「…マリリン」はどうしても好きになれなかった私だが、この曲は素直にいいと思った。少しずつ長くなってきた秋の夜を、この曲が誘う心地よい妄想に身を委ねて過ごしてみるのも悪くない。
コメント
sergeiさん
もうすぐ美奈子さんの命日ですね。
今日TBSラジオで午後から特集してましたが、仕事の移動中の為全て聴けませんでした。
仲の良かった岩崎裕美さんなどが話されていたのを興味深く拝聴しました。
デビュー前から信念をもって臨まれていた事が、関係者の話で出ていましたが、周りではナマイキと思われていたとか・・・
ミス・サイゴンのオーデション前に興業者のプロデューサーと飲み歩き、大好きな日本酒をグイグイ飲まれる豪傑ぶりには、下戸のおじさんにはタダタダ驚きでした。^ ^
-> Kenおじさん
ラジオで特集やってたんですよね。ファンのくせに聴いてませんでした。
美奈子さんはデビュー当初からアーティスト宣言とかいろいろやっていて、かなり異色のアイドルでした。アイドル・ファンからも結構反発を受けていたりもしましたね。
お酒はかなりお好きだったようですね。私もアルコールには弱い方なので、そういう豪傑っぷりにはちょっとついていけません。^ ^
この曲を検索していてたどり着きました。
この曲は発表の時からほぼリアルタイムで知っていてもう20年以上も
大好きな曲なのですが、ギターで弾くのにどうしても「どうぞ、どうぞ・・」
の部分がわからなくて楽譜を探していました。
この曲が出たとき僕は中学生で美奈子さんは高校生でしたが、秋元さんの
歌詞に中崎さんの素晴らしい旋律が抜群にマッチしていて今でも僕の中の
最高峰の曲です。今38歳になって、さらに大好きになりこれからも
まだまだ好きになっていくと思いますが、
この曲が歌い手を失くしてしまったことが非常に残念でなりません。
40代の美奈子ちゃんが歌うこの歌をじっくり聴けたらどんなに嬉しかった
だろうと思うと悲しく切ないです・・・・。
-> ゼクさん
はじめまして。コメントありがとうございます♪
私はこの歌はリアルタイムでは知りませんでした。当時これを聴いておられたのでしたら、今聴くとさぞ胸に迫るものがあるでしょうね。大人になった美奈子さんが歌うこの歌も、ぜひ聴いてみたかったですね。それはもはや叶わない夢となってしまいましたが、せめて残された歌をこれからも大切に聴いていきましょう。今後ともよろしくお願いします。