「私たちのTreasure」

2010年6月 6日

作詞:田口俊 作曲:山梨鐐平 編曲:牧田和男 & 4.16 MINAKO FRIENDS BAND
アルバム「晴れ ときどき くもり」(1995.6.25)所収。

本田美奈子さんは1990年代の半ば頃に、多忙なミュージカル活動の合間を縫うようにしてアルバム2枚強ほどのオリジナル曲の音源を残している。その中には山梨鐐平さんとのコラボレーションによる楽曲が3曲含まれている。そのうち「June」と「impressions」 についてはすでにこのサイトで述べてきたところだが、残りの一曲が「私たちのTreasure」である。他の二作が短調の旋律で深い愁いを帯びた曲調だったのに対し、この曲は軽快なアップテンポの曲調で、夢や希望、ファンタジーを感じさせる明るい作品となっている。


歌詞は木の下に埋めたタイムカプセルに人とのつながりや未来への希望を見出そうとするようなもので、プロデューサーの牧田和男さんの同級生である田口俊さんによる書き下ろしである。この歌詞制作の経緯については以前、プロデューサーの牧田和男さんからメールで詳細な情報をご教示いただくという光栄に浴することができた。そのことは当時このサイトで簡単に要約して紹介しておいたのだが、あらためてこの曲に関することをもう少し詳しく説明したい。

アルバム「晴れ ときどき くもり」の歌詞については、ほぼ全曲で美奈子さんは作詞家と顔を合わせて話し合いをした。田口さんからはこの「私たちのTreasure」の前に「It's My Party」(レスリー・ゴーアさんの歌唱で知られる1960年代のヒット曲)の訳詞の提供を受けていて、それを美奈子さんは気に入っていた。しかし「私たちのTreasure」の歌詞制作のために牧田さん立ち会いのもと直接会って話し合うと、ともに頑固者の二人はかなり激しい口論となった。2時間ほどの激論を終えると美奈子さんは憤懣やるかたない様子で、助け舟も入れずに笑って聞いていた牧田さんにも怒りをぶつけていた。

しかし数日後にスタジオで別の曲を録音していると田口さんからファックスが送られてきて、それを見ると美奈子さんは「やられたわ。やっぱプロなんだねマッキーの同級生」と納得していた。しかし同時に「でも嫌いだからね」とつけ加えることも忘れなかったという。

牧田さんによると田口さんがこだわっていたのは歌詞に矛盾がないことだったそうだ。田口さんはプロ意識の強い人で、細かい内容は忘れてしまったのだが、私も以前、詩と歌詞の違いを強調しつつ素人の作詞が陥りがちな誤りを厳しく指摘した田口さんの文章を読んだことがある。だからこの一連の経過における美奈子さんの反応は、何となく理解できる気がする。


美奈子さんはこの夢あふれる歌詞を心浮き立つような歌唱で表現している。同じ山梨さんとのコラボレーションでも、他二作とは全く異なる歌の世界になっているのが興味深い。ミュージカルの楽曲などで聴く悲愴感あふれる歌唱とはまた違った美奈子さんの魅力を楽しむことができる。

間奏と後奏で二度、広い音域にわたるスキャットが挿入されているのもこの歌の聴き所である。このスキャットはコロラトゥーラ風の技巧的で装飾的な音型になっていて、ここに後年のソプラノ唱法の萌芽を見出すこともできるだろう。その点でも、貴重な作品である。

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